見出し画像

3月11日全国紙1面写真比較

 2020年3月11日、東日本大震災から9年がたった。この日が近づくと震災関連の記事やニュースが紙面にも、テレビにも増える。今年は新型コロナウイルスの渦中ということもあり、全体的に数が少ない印象がある。それでも、3月11日には各紙朝夕刊の一面には「震災から9年」の記事が載っていた。

 ただ、新しい出来事や事実が明らかになることがない場合、震災から◯年という自明の事実だけでは、訴求力は期待できない。見出しと合わせて、より人の感情に訴えかける写真が重要となり、この日は各紙とも普段の写真記事よりも大きく写真を載せる傾向がある。今回は読売・朝日・毎日・産経新聞について朝刊・夕刊1面で使われた写真を比較していく。いずれも大阪版。

各紙写真説明

◯読売

朝刊・震災記事は準トップ。縦2段強、横33行程度の大きさで横写真。慰霊碑に手を合わせる1人の男性。慰霊碑と供えられた花、奥に震災遺構が見える。

夕刊・縦2段半、横32行の横写真。震災遺構となった小学校で、多くの花が手向けられた慰霊碑の前をうつむいて歩く2人組の写真。顔はほとんど見えない。校門の小学校名が読める。色が濃く、輪郭がはっきりしているので修正で明瞭度、コントラストを上げているように見える。縦1段半横28行。慰霊碑を前に、花を持って祈るように顔をうつむける男性。周囲に人、中継用カメラを構える報道陣。

◯朝日

朝刊・縦2段、横30行程度、横写真。海を前にして、傘を差し砂浜に花を手向ける男性。顔は見えない。

夕刊・縦2段横58行程度で朝刊の2倍、横細長。朝日の中、砂浜で海に向かって深くお辞儀する女性。髪で顔は見えない。縦2段、正方形で傘を差し海を見つめる女性の笑顔。

◯毎日

朝刊・縦2段半、横26行の横写真。花が手向けられた慰霊碑を前に祈る様子の2人組。顔は見えない。奥にボケて震災遺構が見える。読売朝刊と同じ場所。

夕刊・縦3段、横41行の横写真。朝焼けの中、堤防の上でしゃがんで海を見つめる女性。横顔が見える。青い背景の中に赤い帽子が特徴的。

◯産経

朝刊・縦3段弱、横32行の横写真。薄いもやの中、海岸で行方不明者を捜索する県警職員14人。白い作業着に黄色のジャケット。鍬のような道具で砂をかいている。

夕刊・縦5段、横28行の縦写真。読売・毎日朝刊にあった震災遺構と、手前に供えられた花束。逆光で光の筋とフレアが全体に見える。

雑観

 最も良い写真だと感じたのは毎日夕刊で、次点は産経朝刊。朝焼け空のオレンジと低い雲の青、女性の赤い帽子など色味がきれいで、顔が見えている。定番だが、東日本大震災では津波被害が象徴的なため、海を見つめる、祈る人というシンプルな良さは大切にしたい。色味を考えて朝焼けを狙ったと思われる。

 同じような構図で、朝日朝刊は花があったが顔が見えない。夕刊の極端な細長サイズと深いお辞儀はドラマチックで目を引く。正方形の2枚目は、人の笑顔が他社にはない要素で良い。2枚セットで考えると次点の産経と並ぶ。ただ、朝日は朝夕と、どちらも海を前にした写真なので要素の変化がない。

 読売の夕刊は色鮮やかな花や、遺構の小学校名、東日本大震災と書いてある慰霊碑名など要素が多く、うつむいて歩く人も印象的だが、修正しすぎのようで少し不自然なのが残念。文字や花を強調したかったように思えるが、修正が最低限の自然さは、新聞写真の良い点だと考えるともったいない。夕刊2枚目にカメラを構える報道陣が小さく写っているのは好き。その場の状況がよく分かる。

 産経は、朝刊の行方不明者捜索の様子が毎日に続いて次点。写真として他社と差別化されていて良い。見つかっていない人がいて、9年目でも災害が続いている人がいることが写真で分かる。海を見つめる人はドラマチックだが、感傷的過ぎるとも言えるので淡々とした写真はもっと必要だと思う。夕刊は、あんなに大きく扱うものとは思えない。11日に合わせて供えられた花束はあるが、人が写っておらず「祈る」という動きが伝わりづらい。慰霊碑以外の場所、という視点は良いが、逆光がうまいとは言えない。フレアがきれいという判断は安易。

 全体としては色んな種類・要素の写真があったのが良い。ただ、去年は海に向かって花を投げる写真が印象的で非常に良かったので、比べると今年は少し落ちる印象。扱いも心なしか小さくなっている。

追記

 朝日新聞が、当日に別刷りで東北各地の写真を大きく使っているので追記します。

1面・縦全面に1年前の桜並木の1枚。画面の8~9割ほどが桜の花で埋まっている。

中面・右側にエピソードとその人の笑顔の写真。中心に東北の地図と各地の桜や名所の小さい写真。左側に名所の桜写真を色んなパターンで大小6枚。

4面・面の3分の1ほどの大きさで、当時大きな被害を受けた双葉町の空撮。中央に試運転する電車。他は街の人のインタビューと顔写真と、各地の象徴的な物の写真。

 桜を軸にして贅沢に写真を見せており非常に良い。全面の桜は、人が対比物となりダイナミックで迫力がある。別刷りだからこそ当日の写真にこだわる必要がなく、良い写真を使える。コロナウイルスで本紙の記事が小さくなっても、震災報道のボリュームを感じさせる。

 復興や日常が戻る様子、街に生きる人の姿、ポジティブな内容に偏らせた別刷りは、報道の役割を超えたアプローチに思える。保存しておきたくなる紙面。各社で別刷りを競ってほしい。

(文・写真 有賀光太)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?