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上司のトリセツ#2 ー上司の話をじっくりと聞いて,上司の出力をアップする方法

■上司の話をじっくりと聴いて,上司の出力をアップする話。


上司の話ってどのぐらい真剣に聞いていますか。

もちろん上司の話と言っても多岐にわたりますから,仕事の話は当然ながら,直接仕事とは関係がなさそうな雑談,趣味の話,時にはお説教だったり,時にはプライベートな話だったりするでしょう。


仕事に関係のない話には興味がない,特段上司とプライベートな話はしたくない,という考え方もあります。

なかには上司と飲みに行ったときに聞ける話が大好きというひともいるでしょうし,上司の言葉のひとつひとつを大事にしているひともいるでしょう。

これらの話にどのくらい耳を傾けるかによって,実は上司の出力は簡単に増減するのです。言ってみれば,どのくらい上司の話を聴くのかは,上司の出力コントロールのための基本スキルです。これは部下であるみなさんの最重要スキルのうちのひとつと言っても過言ではありません。


「聴く」というスキルは,実はそれ自体が簡単に習得できる技術ではありません。心理カウンセリングやキャリアコンサルティング,あるいはコーチングやメンタリングなどあらゆる対人マネジメント技術にとって,この聴くというスキルは基盤となる技術です。

上司へのアンケート調査における「部下の話を聴いているか?」という質問に対して,自分はしっかりと聴いているという回答が圧倒的に多いのはご存知でしょうか。しかし一方で部下への調査では「上司は話を聴いてくれない」と感じているひとがとても多く,この矛盾した2つの回答こそが「聴く」ことがいかに難しいかを如実に示しています。


また,このような調査は上司のマネジメント能力のアセスメントとしてよく聞こえてくるのは事実ですが,しかし,反対に部下は上司の話をきちんと聴けているのでしょうか。部下が上司の話を聴くことは部下の必須技術であると先に述べましたが,部下が上司を取り扱うにあたって,みなさんはこのことをまずは念頭に置いておくとよいでしょう。


さて,それでは具体的に「聴く」ということを考えてみましょう。僕は「聴く」というスキルは大きく3つに分解できると考えています。すなわち,

1.情報を得ること
2.相手の存在や考えを承認すること
3.相手が真に伝えたいことを読み取ること

1については,相手が発する言葉の内容を単純に理解することを指します。ビジネスの場ではおおむね1が成立すればよいと考えられているような印象がありますが,上司の取扱いを考えるのであれば,重要なのは2と3です。上司の出力をコントロールするためには,より深く,信頼感あるコミュニケーションが必要です。聴くスキルでコミュニケーションの深化と上司の出力スイッチを探し出しましょう。

それでは2と3を順に説明します。



■上司の存在や考えを認めるということ。


聴くことは,上司の存在や考えを認めることを具体化した行為だと考え,丁寧に相手の言葉を受容していきます。

聴くことの基本はみなさんご存じのとおり,①「観察」すること,②相槌やオウム返しなどの「促し」と③「確認」の3つです。

まずは,まっすぐ体を相手に向けて,視線を合わせます。コツは見られる者でなく,観る者になることです。上司のわずかな変化にも気が配れるよう,意識を上司全体に移しつつ,視線は外してはいけません。見られているのではなく,観ていると意識してください。

パソコンを触りながら,よそ事を考えながら,窓の外を観ながら,の会話はもうやめましょう。嫌いな上司が相手だとしても,上司育成シミュレーションを始めたぐらいのつもりで,みなさんの温かい心で上司ごと包み込んで一生懸命耳を傾けてください。


そして上司の言葉を途中で遮ることなく,少し大げさなぐらいの相槌を入れ,適度にオウム返しをいれることで発言を促します。

マイクロカウンセリング技法ではこれを「励まし」と言います。上司のトリセツにおいて重要なのは,相槌やオウム返しで,話を促したり,確認したりすることで,上司の発言,ひいては上司の存在そのものを「私は認めていますよ」というメッセージを伝えることにあります。


したがって,

上司の話は肯定的(受容的)に聴こうとすることが肝要です。

相槌やオウム返しといったテクニックはすべてこれを遂行するための技術ですので,聴くスキルのコアは肯定的(受容的)に聴くことにこそあると言えるでしょう。


さて,肯定的(受容的)というと,あたかも全賛成のように捉えられるかもしれませんが,相手の意見をまるっきり賛成しなくてはならないということではありません。意見や考え方が自由で多様なのはあたりまえのことです。一方で,あなたの考え方が自由で多様なことと同様に,上司の考え方も自由で多様です。

つまり,肯定的であるとか,受容的であるとかいう意味は,あなたがそういう考え方であることを受け入れるという意味において,肯定的であるとか,受容的であるという意味なのです。


もう少し言えば,上司がカレーライスを大好きだからと言って,あなたもカレーライスを好きにならなくてはならないということはありません。ただ上司がカレーライスが好きであることは認めることができるのではないでしょうか。カレーライスを好きだって,嫌いだってかまわないのですから。


あるいは内容としてとても賛同できない内容であったとしても,その瞬間,上司がそのように感じていることや思っているという事実は他の誰も否定できないのではないでしょうか。


これに照らせば,相槌やオウム返しのような技術は,相手の話を真剣に理解をしようと努力する姿の反映であり,相手の言葉ひとつひとつを聞き返したり,このような解釈であっていますか?という行為の具体化であったり,あるいは,もう少し話をしてください,という促しであったりするのですが,その目的はすべて前述したとおり肯定的な聴き方すなわち,相手の存在自体を認めることにつながります。——これらを総称して「励まし」だとマイクロカウンセリングの技法では言っています(これらの技法については機会があれば別に説明します)。


立場に関係なく,自身の存在はいつも安定しているわけではありません。上司の視点に立てば,こんな話をして部下に嫌われるのではないだろうか,部下は自分をどう見ているのだろうか,自分の味方はいないんじゃないだろうか。そんな不安や孤立感が見えてきます。上司は上司で,そういった想いを胸に秘めているのです。


話を聴いてもらえているという実感は,これらの不安を軽減できます。話を聴いてくれているという受容感から,自身の存在を安心して肯定することができるようになるのです。

すると不思議なことに普段できないような深いコミュニケーションが無意識に進み,いつも強面の上司や部下の提案を否定的にしか聴くことができない上司たちも,なんとなく顔がほころび,難しいと直感するような提案だとしても前向きに受け止める心の余裕が生まれるのです。



■相手が真に伝えたいことを読み取るということ。


相手が真に伝えたいことを読み取ろうとすれば,自ずと言葉のひとつひとつにしっかりと耳を傾けることができます。さらに言えば,いわゆる行間を読み取ろうとするとき,より重要なのは表情,目線,しぐさといった行動を観察することです。

特に「髪に触れる」「笑う」「首をかしげる」「落ち着かない」などの動作をともなう場合,その時発している言葉は上司の本音に触れていたり,あるいは上司の根幹となる価値観に触れていたりすることが多いので,決してこれらの動作を見逃してはいけません。

もうひとつはビッグワードを聞き逃さないことです。


やりがい,正義,愛,勇気,絶対,ありえない,などの抽象的でスケールが大きく,正確な定義が「主観によってまちまち」になるようなキーワードがたびたび出現する場合,そのひとの主要な価値観である可能性が高いでしょう。


そのひとにとって重要な価値観は,そのひとの人生哲学そのものです。万が一それを否定されようものなら,無意識に敵対意識が湧くのです。つまり自分の存在を脅かす者という認識が成立してしまうのです。

反面,これらの大事な言葉を認めてくれるひとには自然と心のドアが開きます。心の扉が開かれれば,コミュニケーションの質が上がるのは明白です。


そんなビッグワードを見つけたら,ぜひともそこに触れてみてください。

〇〇さんにとってやりがいってどんなものなんですか?
その正義ってどういうものですか?

と質問してみてください。きっと上司の心を激しく揺さぶるはずです。そして彼らの揺さぶられた心を優しく大事に受け止めてみてください。受容的に肯定的に「ああ,そんなふうに感じるんですね。」とうなづいてあげてください。


その際,価値観への評価は不要です(むしろしてはいけません)。スゴイとかスゴクナイとか,正しいとか間違っているとか,そういったジャッジは何も生み出さないどころか,相手への否定につながりかねませんから,ただ相手にそういう価値観があるのだということを認識するだけでよいのです(※一方でこれらの価値観をいたずらにもてあそぶようなことは決してしないでください)。


■まとめ

大事なことなので2回言います。

話は一生懸命に,肯定的に聴きましょう。
行間を読むときは観察とビッグワードに注目しよう。

自身の真の価値観に触れるときひとはどうしても無防備になります。強い言葉が発せられたり,無意識に髪をかき上げたり,鼻を触るなどの動作が伴うことが非常に多いのです。そして,これらの動作を引き起こす価値観や本音に対して,肯定的,受容的な対応をとることで,上司の扉を一つずつ開けていくことができ,より深く一体感のあるコミュニケーションにつなげることができるのです

上司の出力コントロールスイッチがどこにあるか探し出し,コミュニケーションを深めて扉をたくさん開けば,間違いなくひとつ質の高い関係が築けます。上司の出力 120% も夢ではありません。実のところそのための作業は,「コミュニケーションをとらずに,満足する仕事を完遂する」労力よりも,少なくて済むのではなかろうかと僕は思っています。

なにより健全な職場の人間関係は人生においても重要ですし,上司のトリセツ的には,あるいは上司育成シミュレーションの初期段階では必要な工程だと考えれば,主導権は部下が持っていたほうがなにかとうまくいくし,上司にとっても案外その方が心地いいかもしれませんね。





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