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チームになる

予算未達部門のプレッシャー

以前某IT企業の部門長だった時、予算会議で役員から言われたことがあります。
「君の部門は予算が未達成なのに、なぜもっと深刻にならないんだ?本当に済まないと思っているのか?」
予算会議は結果を問われ、未達成部門の責任者が叱責されるという場でした。
当然、予算未達成を看過していたわけではありません。
私自身、真剣に達成したいと思っており、メンバーは皆達成に向けて努力していますが、それでも達成しない場合はあります。

会議の目的化

 このような予算会議を続けていると、出席者は「未達による深刻な表情」と「達成するために、これだけ頑張っています!」というPR資料を繕うことに注力しはじめます。
当時ある部門では、役員がどんな質問をするかを想定し、あらゆる質問に対応できる万全な質疑応答書を作成していました。
(その部門の計画部は、残業が多く疲弊していました)
「頑張っている感」を出すための資料作成に時間を注ぐことになり、無駄な作業・対策会議がどんどん増えていくことになるのです。

予算管理おじさん

 役員から叱責された部門長は「頑張らねば」と部門内のマネージャー達に沈痛な面持ちで「ハッパをかけ」、マイクロマネジメントに走り、極端な場合は、同部門の部長やマネージャーが、常に予算進捗報告を促す「予算管理おじさん」と化す場合があります。
部下は成果へのプレッシャーにさらされ、ますます組織に依存し個人の成長が阻害されます。
(このようにダムが決壊《上位からの指示がそのまま流れる》している部門もありますが、一方で部門長がダムとなって下流への流量を冷静にコントロールする部門もあります。)

組織の罠と責任感の罠

個人の成長を阻むものとして「組織の罠」「責任感の罠」という言葉があります。「組織の罠」とは「組織にはそもそも人間の成長を阻む4原則」が備わっているという理論です。(※図1参照)

※図1

また「責任感の罠」とはリーダーが、成果へのプレッシャーにさらされればさらされるほど、管理的になり、部下の内発的動機を奪うといわれています。

例えば部門予算のマネジメントを例にとると、業績の悪い部や課のテコ入れのため、報告の頻度を上げ、現場が数字づくりに走り、無理な売り上げが増え、クレームやトラブルが増加する。トラブル防止のために、コンプライアンスが強化され、コンプライアンス会議が増える・・・、という負の連鎖です。
ではどうすればいいのでしょうか?

成功循環モデル


※図2

ダニエルキムの成功循環モデルという理論があります。(※図2参照)
組織が成果を上げるために、いきなり「結果」を求めてしまうと、押し付け合いがはじまり、「関係」が悪化し、思考が鈍化し、受け身になるため「行動」が消極的になり、「結果」が出せなくなってしまう、という悪循環に陥ります。
これに対して、まずはお互いにリスペクトする、一緒に考えるという「関係」を構築することで、「思考」が活性化し、イノベーションが創出され、新たな挑戦に向かう「行動」が活発になり、「結果」がついてきて「関係」がさらによくなる、というモデルです。
関係の質を上げるといっても単なる「仲良しクラブ」では結果の質はよくなりません。
チームになる、ということです。
チームとはなにか?
2019年にラグビーワールドカップで善戦した日本チームが異口同音に言っていた言葉があります。「我々はチームだったから勝てたんだ。決して仲が良かったわけではない。嫌いな奴も仲の悪い奴もいたが、お互いにリスペクトしていた。そしてゴールイメージを共有していたんだ」

上司部下の信頼関係

チームになる、関係の質を上げる、といっても具体的にどうすればよいのでしょうか?
組織の関係の質を上げるための出発点は、上司と部下の信頼関係です。
「上司が忙しすぎて相談する時間がとれない」あるいは、「自分自身がモヤモヤしているのは、自分のわがままであり、上司と相談することが憚られる」といった社員の方々の話を、聞くことが多くなってきました。
1ON1ミーティングを導入し始めた職場も多いようですが、まだまだ浸透してないようです。
1ON1とまではいかずとも、まずは部下との対話の場を設定し、その場では、「問題解決」ではなく「本人(部下)の成長」にフォーカスしてみる、というだけでも、信頼関係が醸成されると思います。
上司が部下を「わかろうとしてくれている」ということに、部下が共感し、信頼関係の構築が進んでいきます。
職場で対話の場をできるだけ設定することが必要です。
遠回りのようですが、それが組織の、関係の質改善への近道です。

written by 小林


<参考文献>


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