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産qレース 第六話

 つる千病院は、東京の郊外にあり、改築して10年程度でまだまだ真新しい雰囲気の中規模病院だ。やすこは、以前東京の大学病院で働いていたが、仕事のハードなことや丁寧に患者さんと向き合うことができないため、ちょうど業務拡大時のつる千病院に転職した。

 やすこは、病院の園庭が気に入っている。自然が多く、四季折々の花が楽しめる。特に春は桜が咲き乱れ、本当に美しい。つくしやふきのとうも生えていたり、いろんな鳥たちもやってくる。

 患者さんとお話をしながら、訓練がてら院庭を散歩するのは、やすこにとっても癒やしの時間だ。

 しかしながら、今のリハビリ室に戻るのは苦痛でしかない。科長の源氏が産休にはいり、早3ヶ月だ。

先月、非常勤で入職したのが、明智信子だ。信子はもともと育休中のスタッフの同級生であった。そして、やすこにとっては、同時期に大学にはいなかったが、大学の後輩にあたる。

 スタッフ三人の産休と育休が重なり、人材不足で育休期間を短縮を提案され、苦肉の策で無職だった信子に声がかかった。信子は、前職でパワハラにあい、休職後退職し、しばらくフリーターをしていた。

 信子が見学に来た際は、男性スタッフたちのテンションのあがり方はすごかった。信子は、女性も照れるくらいの美貌だった。初めて会ったときは、少女漫画から飛び出したかのように、小柄で可愛らしくキラキラした雰囲気に、他の女性スタッフと「かわいい子が来たね」と盛り上がった。

 信子は、おおらかな性格ながら、天然なところもあり、男女ともに好かれるタイプであった。

 もちろん、そんな信子を放っておくわけがなく、色んな男性スタッフがあの手この手をつかい、信子とコネクションを作ろうとしていた。

 しかし、一緒に働き始めると技術が不十分で、患者さんを転倒させたり、痛みを出してしまったりと、新人並みに目が離せない。また、向学心が強いのはいいのだが、色んな質問など、やすこに話しかけてくるため、やすこの仕事が進まないのである。

「学生指導がおわったのに、今度は新人じゃない新人指導かぁ。」
 
 やすこがリハビリ室に戻ると、なぜかパソコンの前で信子が声を殺して泣いていた。。

 

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