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産qレース 第十七話

 10月中旬の吉日。きれいな秋晴れの下、某都内ホテルの結婚式場で明智と織田の結婚式が行われた。
 季節は秋だが、とても暑く、着慣れないドレスと履きなれないヒールの靴で過ごすのは、やすこにとって重労働だ。
 結婚式には呼ばれないのではと思っていたが、信子から「ぜひ来てください」と招待状を渡された。つる千病院のスタッフが多く参加し、100人クラスの結婚式となった。意外にも、まさえは呼ばれなかったらしく、織田先生とデートしていたからかなと勘繰ってしまった。
 やすこにとっては、来週に結婚式を控えているため、その調査と予行練習のような気分で参加していた。
 
 結婚が職場で公表されてから、信子は浮足立っていた。
 臨床中も、患者さんにお子さんの結婚式の様子を聞いたり、自分の準備について話したりしていた。また、既婚のスタッフにもよく話を聞いていた。 
 また、スタッフルームでも、「ムービーを作るのが大変で寝不足だ」とか「結婚指輪が決まらない」とやすこに話しかけてきた。やすこは、話は聞くが、自分の話は一切しないことに決めていた。
 結婚日程で嫌な思いをしたのはもちろんのこと、未婚のスタッフや患者さんも不快な思いをする人がいるかもしれないからだ。
 以前、結婚するスタッフの患者さんから、「担当の方が結婚されっていうから、もう退職されるのかしら?そうしたら、私はどなたと一緒に練習したらいいの?」と聞かれたことがあった。退職の予定はないし、必ず誰かが担当して、一緒に練習するから安心してほしいと伝えた。患者さんにとっては、不安要素になりかねない事柄なのだ。
 その上、9月に籍を入れたからと結婚指輪をし始めた。大体、結婚指輪をしているスタッフも見かけるが、指輪なんて、手が十分洗えないし、感染源の温床なのに、なぜつけるのか。まずもって、既婚か未婚かなんて、多くの人は興味がないのに。明智の配慮のなさに、やすこの方がひやひやしてしまう。

結婚式では、純白のウエディングドレスで登場した信子はとても美しい花嫁で、ドレスもよく似合っていた。ムービーも自作とは思えないほどよくできていて、感心してしまった。
式も滞りなく進み、来賓が式場を退出する際、やすこが織田と信子に挨拶した。
 やすこは、「とってもきれいだよ。」と信子に伝え、「ありがとうございます。」と信子は、嬉しそうに笑った。
 その傍らに織田がおり、やすこは深々と会釈をすると「僕らは、きちんと相談し、色んなことを決めています。安心してください。」と言われた。
初めて話したに等しい人物から言われ、少したじろいだが、やすこは余裕ぶった様子で「それは、よかったですね」と返した。
 『信子は、一から十まで織田に話してるのか。まあ、自分も同じだから、気を付けよう』と思った。

 翌週の土曜日、吉日。紅葉がきれいに色づき始めてるきれいな日本庭園を背景に、徳川とやすこの結婚式が行われた。
 この日まで、義父の希望で神前式になったり、色んなハプニングがあった。参列者は、親戚や気の置けない友人と職場からはまさえと同期入社数名だった。一週間前に信子の結婚式もあり、徳川との調整で上司は呼ばないことにした。また、日程調整をお願いしていたにも関わらず、やすこの結婚式の日に、信子と伊達は勉強会に行く予定だからと休みの希望を出しており、この非協力的な行動に再びやすこは信子に嫌気がさした。
 神前式後に、和装で登場し、家族と友人の顔を見たときは、本当に泣きそうになった。わざわざ、自分のために集まってくれて本当にうれしい。
 その後純白のウェディングドレスにお色直しをした。みんなが「きれいだよ」と言ってくれ、今までのトラウマが浄化されるようだった。
 徳川は、やすこのためにたくさんのサプライズを用意してくれており、会場は大いに盛り上がり、幕を閉じた。

 その後、徳川とやすこは夢のハワイへ新婚旅行へ向かうのであった。

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