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年収16,000kの彼と別れた話 完

時間があきました、最終話です

最短経路で、効率的に

「優しくてずっと大切にしてくれる伴侶」を探すのに最適な方法

それは結婚相談所だと考えている

相当な額の入会金及び月会費、更には結婚が成立した場合成婚料を支払い、かつ独身証明書や年収証明、身元確認等も万全にさせたうえで会員になれるという、半端者をふるいに掛けるに十分過ぎる条件を揃えたシステムで、その厳しい審査を通過した上でやり取りはほぼマッチングアプリと共通しているという画期的なツールだ

普段からTwitterでその手の情報を入手しているのと、全幅の信頼をおく友人により勧められたこともあって、相談することにした

そして、彼と別れることを決めた

これからの時間を有意義なものにするために、今の年齢の自分にしか出来ないことを成す

結果を、成果を今年中に
成せるなら、今年の誕生日までに

時間と情報を、金で買った

私には、「時間が無い」のだ


さよならを告げる

感謝と別れを同時に告げることにした
2020年、年末に

伝うことばを、選んだ
決意がつたわるように、敬意を表せるように
結果、年越しの直前になってしまった

彼からは、あっけらかんと年始の挨拶が来た
ちゃんと読んでいなかったようだ
もう一度、あなたなら大丈夫だ、と伝えた

決めたら人間強いものだし、自分も決めたら強いのは分かっている
それでも、LINEを開くたび彼の反応を見るのが怖かった

分かって欲しいけど、どんな返事が来るのか気になったし、何だか嫌だった

彼が、大阪に帰っていたときを狙った

別れを告げると同時に私の元に来ることも分かっていたから
すぐに来れないタイミングで
自分と同等に大切な娘様といるときに

私は悪魔のような人間だなと、思う
けれど、他人にとっての天使になる必要もないのだと、同時に思う

私は私を大切にしたい
今まで大切にしてこなかった分
その一心だった


年が明け、彼の仕事始めの前日の夜、私の最寄り駅で待ち合わせた
スーツケースを持って、寒いなかいつもの場所に立っていた

いつも通り姿を見つけて手を振って、お待たせと言って自宅に向かう

当然だがぎこち無く、互いに楽しい話題の提供もし得ない
スーツケースだからタクシーに乗ろうか、という提案もやんわり断られ、15分ガラガラと鳴らしながら歩く

家に着いてからは余計に空気も重くなる中で、おもむろに荷物をまとめ始める

する事もない私はどうしてたかな、もう良く覚えていないや
彼の方を見ないようにしながら片付けをしていたかもしれない
しかし、変わらず空気は重たい
それだけは、覚えている

今回の結論の経緯を話す、探るようなこともなく
荷物をまとめ切った彼が、ベッドに座る私の横に座った

最後だな、と確信した
感謝を、伝えようと思った

「一緒に居てくれて、ありがとう」
やっぱり、感謝していたから涙が出た
詰まるところちゃんと人間だったな、私も
少しはそう思えた

理由を訊かない彼に疑問を持ったこともあるが、彼のなかで腹に落ちているのか心配になり
「理由は、訊かないんだね?」
問うた

「もう、言われるの3回目だし。それに、家に帰った時にのなちゃんの荷物が全部無いのを見て、本気なんだって思ったから」
「そっか」

少し、時間が経った

彼は立ち上がって、全身鏡の後ろに隠していた見覚えのある百貨店の紙袋を持って、また横に座った

「俺のなちゃんにあげられたものって何かなって考えた時、何もないなと思って。何もあげて来なかった。だから色々考えて、のなちゃんにあげたいものってやっぱりこれかなと思って、俺なりに考えて。これ」
「?」
「多分似合うと思うんだ。あげた指輪と同じデザインだから。開けてみて」

三越の紙袋に入った、オレンジの紙袋を取り出してくれた
大袈裟なオレンジのボックスに入った、エルメスのネックレスだった
想定していなかった事態と品物に、さすがに驚きを隠せなかった

「え、嘘だ信じられない、なんで?」
「だって俺、のなちゃんに貰ったものばっかなんだ。この服も、時計も、財布も名刺入れも、スーツもコートも、今日履いてる靴も全部のなちゃんに貰ったんだ」
「いや、確かに財布と名刺入れはあげたけど、それ以外はこれがいいよって私が勧めただけで、買ったのは自分じゃ」
「違うの。俺は自分で選ぶことも出来ないし、買うセンスも環境も与えてくれたのも全部のなちゃん。それなのに、俺はのなちゃんに何もあげて来なかったから」

ネックレスをボックスから外して、私に初めて着けてくれた

「これに怨念込めたから」
「?」
「これ着けてたら、のなちゃんが俺の最寄り駅で降りちゃうっていう呪いを掛けておいたから」

グズグズと泣き出してしまった
まただ、いつもと同じ
きっと大阪の自宅でもこんなだったんだろうな

私は心から感謝をした、
「ありがとう。でも最寄り駅には行かねーよ」

2人で泣きながら笑った
彼は笑って、泣きながら私をつかまえて
「一緒に居たい」と声を震わせた
涙を私の髪の毛に押しつけながら

でも4秒後には
「ううん、嘘」
「俺の感情でのなちゃんを縛りつけることはしたくない。俺、のなちゃんが幸せなら、それが一番いい。のなちゃんは何回も言ってきたけど、俺なんかには勿体ない素敵な人。俺のせいで不幸にしたくない」

どこまで行っても、
彼は自分の力で私を幸せにする勇気は無いんだな

最後まで冷てーよなぁ
嘘でもいいから、その場限りでもいいから、

「俺が幸せにする」

とかさ
言って欲しかったんだよ

口が裂けても言わないんだよなぁ

ホント何なんだよ
結婚出来ない=幸せに出来ない、じゃねーわ
結婚だけが幸せじゃねーんだよ
勝手に人の幸せが何かって決めつけんな
舐めてんのか
最後までそういうこと言わせんのか

私の幸せの定義を
お前のしょーもねえ固定概念で決めんなボケ


彼を、本当の本当に手放す最期のトドメとなった


想いそれぞれに眠る

「至らなくてごめんね」と謝られながら
彼の最期の想いのすべてを受けとめて
一縷の望みを手離した私たちは、その時どんな風に眠って
どんな夢を見たのか、憶えていない

ただ、楽しかった思い出とこれからのそれぞれの未来を見据えて、想い果て疲れ果てて、
これまでとは違う眠りについたんだと思う


互いに想い、敬いあった実りある一年であったと同時に、
今の彼に出来うる全てを懸けて私に注いでくれたことに
心から感謝しています

どうか幸せになって欲しい、
少しでも私のして来た事が彼の身を救け、彼の大切なひとにも届くのであれば、私は幸せだ

というかお前が幸せになるために、お前を全部全部全部!育てて来たわ!
そのスキル使ってはやく私より魅力的な彼女作れや!
幸せにならなかったら私の教育失敗じゃねーか
頼むよまじで

とか言って、私を超える女になんかきっと出逢えないけどね!


頑張り屋さんで、私に一生懸命だった元彼へ、
敬意を込めて

ありがとね

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