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読書メモ|『センス・オブ・ワンダー』

今回はこちら。レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』。
ある図書館で面白そうだなと一瞬手にとって、同日に訪れた本屋さんでまた見つけたので、呼ばれてるな…と思い買った本。

レイチェル・カーソンといえば『沈黙の春』。DDTという殺虫剤が引き起こす害など環境問題について警鐘を鳴らした、誰もが一度は聞いたことのある先駆的名著だと思います。(実家にあってだいぶ前に読んだけど詳細忘れたのでもう一回読む、ゼッタイ。)

そんなカーソンからの最後のメッセージが『センス・オブ・ワンダー』に綴られています。

この本には、カーソンとその甥のロジャーが自然の中に一緒に探検しに行く様子が、そしてそれによるロジャーの変化からカーソンが感じ取った大事なものが、詩的な情景描写とともに書かれています。持続可能な社会やこれからの教育を考える上での鍵となることが散りばめられているような、そんな作品。

「センス・オブ・ワンダー」とは、「神秘さや不思議さに目を見はる感性」とされて(訳されて)います。子ども時代には持っていたこうした感性は大人になるにつれ鈍ってしまうといいます。驚きと感激に満ちた生き生きとした世界が、つまらないものになっていく。大人になると日々の中での「当たり前」が増えて、あらゆる光景に慣れていく。そうなると「きれい」だとか「すごい」だとか、表面的には”感じて”いるように見えるけれど、実際はただ”消費して”いるだけのことも多くなるのかもしれない。

環境を変えると感性が蘇る感覚があります。短期間でも自然の中に滞在してみる、別の街に足を運んでみる、いつもとは違う道を通って帰ってみる。そんな少しのことでも、物事の感じ方はちょっと変わるんだと思う。
今日の帰り道、歩きながら深呼吸したら金木犀の香りを感じて、流れる日々に埋もれてしまった感性をちょっと取り戻した気がしました。

そして特に印象に残っているのが以下の部分。

子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生み出す種子だとしたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです。

『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン p.36

なんて素敵な表現なんだろう。

何かに触れて感情が呼び覚まされると、それに興味が湧く。そうして見つけた知識はしっかり身につくのだといいます。だから、知識や知恵を詰め込むのではなく、まずは情緒や感受性を豊かにすることが大事だということなんでしょう。感じられるものの幅が広ければアンテナに引っかかるものも多くなるし、何かを感じる深度が深ければ、それだけ何かを追求できるのかもしれないですね。


それから豪華な特別寄稿も読み応えがあってめちゃくちゃ面白かったです。こちらも特に好きだった部分を少し。

今、君が好きなことがそのまま職業に通じる必要は全くないんだ。大切なのは、何かひとつ好きなことがあること、そしてその好きなことがずっと好きであり続けられること。その旅程は驚くほど豊かで、君を一瞬たりともあきさせることがない。それは静かに君を励ましつづける。最後の最後まで励ましつづける。

「きみに教えてくれたこと」福岡伸一(『センス・オブ・ワンダー』p.92)

自分の好きなことってあんまり人の役に立つことじゃないかもなと悲観する必要はなくて、豊かさを感じられる、自分を励ましてくれるものであればそれでいいって、ちょっと心が軽くなる気がする。好きなことだけは他人に侵害させてはいけないし、守りつづける努力をしないとな、とも思います。

ものごとが進化するというのは、人がそう進化してほしいと願うから進化するのでしょう。…あらゆるものが、人の願いのかたまりなのです。でも、いまはその「人の願い」が、想像力や人間特有の力を削いでいっている気がしてなりません。人の願いに、合理性や効率といったものがくっついていると、危ないという気がします。でもその進化は、止められないとも、私は思う。だから、それを超えていく力を子どもたちに贈る教育ということを考えないといけないと思うのです。

「見えない世界からの贈りもの」角野栄子(『センス・オブ・ワンダー』p.134)

合理性を重んじ効率を追求することも時には必要だと思いますが、それは何か目的を達成するための手段であって、目的それ自体ではないと思う。じゃあその目的ってなんだろうと考えると、究極的には人が幸せに生きるためなんじゃないかな、と。
そんな社会にあって、物語を読むことがセンス・オブ・ワンダーを呼び起こすといいます。なぜそうなるのか、これからどうなるのか、そんなふうにワクワクしながら想像力を働かせる。その余白が豊かさであり、そういう瞬間、気持ちの積み重ねが幸せな人生につながるんじゃないかなと思います。


そしてこの本を読んでなんとなく、この絵本を思い出しました。


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