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「プロジェクトの失敗はだれのせい?」。。。中林麻衣が教えるITプロマネへの矜持

プロジェクトの失敗は誰のせい?」(技術評論社)

私の書いた本の中で、最も気に入っていて、それなりに頑張って書いて、でも残念ながら重版担っていない本です。でも、読んだ人の評判は一番良いし、アマゾンでの評価も私の中では一番の高評価 (確か4.3) を頂いており、その意味では、この本と主人公の麻衣と編集者さんには、なんか申し訳のない思いをしている本です。

何が書いてあるかというと。。。

一言でいえば、ITベンダーのメンバーやプロマネさんが持つべきメンタリティや矜持を、IT紛争をベースに物語調で書いています。お客さんが要件を決めてくれずにスケジュールが破綻した、お客さんに強要されて会議の議事録を相手に都合よく書き換えさせられた、どうしても残ってしまうシステムの不具合、ベンダー丸投げで、ちっとも協力してくれないお客さん、、、そういうことって、ベンダー側から見れば、「俺らが一体何したっていうねん!」て話ですが、例えば裁判になったりすると、結構な確率でベンダー側が負けて開発費用を払ってくれないってことがあります。それどころか損害賠償も取られた上に、顧客からの信頼がなくなって、経営危機に陥るなんてべんだーはザラですし、実際、社長が夜逃げしちゃったなんてこともあるわけです。

そんなことにならないように、ベンダーの、特にプロマネは何をすべきなのか、そしてどんな気持ちや気合い、そして矜持が必要なのか、主人公の麻衣があちらこちらにぶつかって、ときに落ち込み、ときに涙しながら、いろんなことを知っていく。プロマネとしての成長を追体験できるような、そんな本になっています。

で、ベンダーに必要な矜持って?

そんな麻衣が、いろんな経験をしながらたどり着いた答え。物語にはいくつも書いていますが、終盤に麻衣がユーザー達を前にするスピーチの中に、私が最も言いたいことがあります。

ユーザーを信じること。

麻衣は、これこそが一番大事だといいます。ユーザーは誰よりもプロジェクトの成功を願い、リスクがあれば、悪いことほど早く教えてほしいと思っています。そして、それが誰の責任であれ、とにかく一緒に解決策を考えたい、できる協力があるなら、躊躇せずに言ってほしい。全てとは言いませんが、多くのユーザーが、そう願ってITプロジェクトに臨んでいます。ホントです!もし、そこでユーザーが非協力的な態度をとったり、ベンダーを責めるだけで、自分たちが動こうとしないなら、そこにはもっと別の理由があるはずです。

例えば、ベンダーの技術力が足りなくて、プロジェクトがよれた時、そりゃあユーザーは、怒るでしょう。”金返せ!詐欺師!” なんて怒鳴られることだってあるわけです。でも、そういう時、本当にユーザーが望むのは、とにかく最終的には動くものを納品してもらって、業務の改善ができることです。ベンダーが本当に、「お金返します。もう終わりにします。さようなら。」なんていったら、それこそ裁判沙汰です。なんとかして成功させてほしい、そのために自分たちは何をすればよいのか。ユーザー企業が本当にほしいのは、専門家が責任を持って立てたプロジェクトの立て直し策と、ユーザーへの協力要請です。涙を流して土下座するベンダーなんて、誰も見たくはないわけです。

ところが、特に日本のベンダーは「お客様は神様」という精神性が染み付いているのか、問題があっても、これを隠し通し、「大丈夫です。全ておまかせください。」と言いたがる傾向があります。リスクがあっても開示せず、抱え込んだ挙げ句、どうにもならなくなってから、「実は・・・」と頭を下げる。これこそ、ユーザーに対して不誠実の極みですし、日本のベンダーの最も悪い癖です。

それもこれも、結局の所、ベンダーがユーザーを信じることなく、どんなに怒っていても、ユーザーは成功を祈っているし、必要な協力はしてくれるものだとは考えない傾向があるのではないでしょうか?プロジェクトが危険になったとき、できるだけ早く、できればまだ予兆の段階(つまり課題ではなくリスクであるうちに) 情報を共有すること、そういう精神性を持ち、「お願いします。」と頭を下げても、それでもこの危機を乗り越えるのに必要なリーダーシップは自分たちしかとれないんだという矜持をベンダーは持ち続けなければいけない。麻衣は多くのトラブルに巻き込まれながら、そんなことに気づいていきます。

プロジェクト実施中にトラブルがあっても、最後にうまくいきさえすれば、結局はすべて笑い話になります。もしかしたらユーザーと良い思い出を共有できるかもしれません。そういうピンチをチャンスに変えるメンタリティを日本のベンダーにはもっと強く持ってほしい。この本を書きながら私が考えていたのはそんなことです。

DX、Devopps、アジャイル、そんな時代だからこそ

今、ソフトウェアの世界は大きな変化の最中にあります。今までのようにITはベンダーに任せて、自分たちは"本業"に勤しむ。そんなユーザーは、もう時代遅れであり、化石になりつつあります。

デジタルトランスフォーメーションの流れは、顧客の業務改善とITを不可分のものにし、Devoppsは、ユーザー自身の開発への参加が必須のものです。アジャイル開発にしても、イテレーション毎に作りかけのシステムをユーザーが見て意見を言うわけですから、今後、ITの開発やサービスの導入にはユーザーの力が不可欠、というかユーザー自身が開発の主役になる時代が到来しています。プログラミングの知識がなくても開発できるローコードや、設定だけで利用可能なSaas、RPAやAIなども、ユーザーとITの距離を縮めるのに一役買っています。

そんな時代に、まだ「お客様、我々に全てをおまかせください。」などというベンダーがいたら、もうそれは「平成の遺物」以外の何物でもありませんし、リスクをひた隠しにしようとするベンダーは、不誠実を通り越して、犯罪者的でもあります。もちろん、専門家としても責任は大事です。しかし、その責任とは、必要ならユーザーに迷惑をかけてでも、業務に資するものづくりやサービス提供をすることであり、全てを自分たちが抱え込むことではありません。ベンダーの皆様には、そうしたマインドチェンジを、(そんなものは既に済んでいるというベンダーもいるでしょうが。) ぜひ、お願いしたいものです。

総会屋が出たり、産業スパイ事件があったり。。。

このお話は、優秀なエンジニアだったはずの中林麻衣という社員が、なぜか突然、特別法務部(通称トッポー) という以下にも怪しげな部署に異動させられたところから始まります。部員は麻衣の他には、全くやる気がなく、日がな一日、オフィスで寝ている上司が一人。おそらくまだ三十歳を超えた程度の若さなのに、世捨て人のようになってしまった野々村というこの男が、次々と起きる問題の処理を麻衣に押し付けてくるという設定です。

まあ、それでも結局は、この野々村が麻衣を助けてくれるわけではあるのでしが、この男、どうやら過去に暗い影を落とす事件に巻き込まれたらしく、そのせいか、ある男にトコトン恨まれている。この男が、総会屋崩れの反社団体と組み、その魔の手はやがて麻衣にも及ぶ。。。なんて、とてもITの実用書とは思えない展開になっていきます。

読者の中には、物語に気をとられて肝心なことが頭に入らん!とお怒りのコメントを寄せてくださる方もいますが、こんな実用書を書くのは、業界ひろしと言えども私だけ。とそこだけは自負しているところです。

ときどき「ちょっと話盛りすぎ!」なんて声も聞かれますが、例えば大手IT企業の本社の周りを右翼の宣伝カーがぐるぐる回りながらシュプレヒコールを続けたり、反社団体が無理な要求をこの会社につきつけたり、顧客に嫌がらせをしたり、というのは、そのものズバリではなくても、私自身が体験したことでもあります。中に出てくる産業スパイの話も、これは世の中に時々ある話ではあります。まあ、最後のラブシーンについては、流石に私もやりすぎかとは思いましたが、概ね、事実を参考にしていますので、まるっきりの絵空事ではないことだけは、申し上げておきましょう。

いずれにせよ、この手の話は、ITプロジェクトにトラブルがなくならない間、つまり殆ど半永久的に陳腐化しない普遍的なものであろうと、そんな

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