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現代の殿!?独自の美意識で生きる「公益経営者」とは|CNCの経営戦略②

こんにちは、株式会社CNC代表の矢田明子です。
前回は、私たちが取り組むコミュニティナース事業の経営戦略についてお伝えしました。

その中で、事業を共に広げていくパートナーが、自治体から地域の営利企業にシフトしていった、という話をしました。

コミュニティナース事業のパートナーになってくださる営利企業の経営者を、私は勝手に「公益経営者」と呼んでいます。

彼らのものの考え方はとてもユニークで、大企業や都市部でビジネスをする多くの人々とは一線を画すものを私は感じています。独自の美意識や価値観で生きていると言ってもいいかもしれない。

こうした人たちが地方にはたくさんいることを知ってもらえば、日本は変わる、とも確信しています。そこでこの記事では、リスペクトを持って私から「公益経営者」の持つ魅力、その思想の興味深さをお伝えできればと思います

事業パートナーのみなさんには、もしかしたら失礼な言い方に聞こえてしまうかもしれません。そうなったらごめんなさい、先に謝っておきますね。


私の思う「公益経営者」像

何度も言いますが、「公益経営者」とは私が勝手に名づけた呼び方です。

ですからその定義も、あくまで私の経験値から設定したものです。感覚的なものを言語化するのは難しいんですが、あえて言うなら

「公共的な意識や長期目線、独自の美意識を自然と備えている経営者の方々」と定義できます。
例えば、地域の未来を担う事業を継ぐ者として育てられた、地方企業の跡継ぎ経営者の方々です。

厳密に「創業何年以上」とか「何代目以上」とかいうものではなく、簡単にいえば帝王学を施されて大人になった後継者、いわゆる“殿”という感じでしょうか。(ちなみに、100パーセント“褒め言葉”ですからね。)

なぜコミュニティナース事業に投資するのか

私たちは企業とパートナーを組む際、金銭でのリターンが中心ではないことをお伝えしています。

得られるリターンは、人や地域が元気になること。

この説明に納得していただいた企業がパートナーになってくださっています。そして、そうした企業を率いるのは「公益経営者」であることが多いんです。

北九州市にある「岡野バルブ製造株式会社」の岡野武治さんも、その一人。

彼とは、コテンラジオでおなじみの深井龍之介さんの紹介で知り合いました。そんなに口数が多いわけではないんですが、言葉やふるまいの端々から「ああ、地域の“殿”になるべき存在として育てられたんだな」と伝わってきました。

岡野バルブは発電所などに向けて、高圧バルブを供給するBtoB企業ですから、取引先のほとんどは北九州の外の企業です。

けれど当然のように、自社の利益と並行して、地域や社会が「よくなる」ことを考えているように感じられました。

岡野さんご自身は、優秀な経営者であり、40歳で家業である同社の社長に就任して以降、数千人規模の社員を率いながら、会社をさらに成長させてきました。つまり経営者として、経済合理性に沿った判断を下すことも得意でしょう。

一方で、子どものころから、正月など節目の際には、数々の従業員が自分の家を訪れ、先代社長(つまり、父や祖父)に挨拶する様子を目の当たりにしてきたといいます。そうすることで、地域を良くしていきたいという気持ちが、自然と芽生えたそうです。

だから岡野さんは、コミュニティナース事業とパートナーを組むからといって、「スポンサードby岡野バルブ」みたいな宣伝のされ方を期待しているわけでもありません。

そうした世間からの認知を期待して意思決定することは美学とは反しているんですね。

現にコミュニティナースとのパートナーシップも、深井さんから話を聞いたときに、5分で即決してくださったそうです。その意思決定の速さ、大局を見通す視点に、私は感銘を受けています。

原体験は、出雲の遠藤嘉右衛門さん

岡野さんのような「公益経営者」を最適な事業パートナーだと考えるのは、前編でお話ししたような、行政の予算体系で壁にぶつかった経験によるのですが、実は、私自身の原体験も影響しています。

私が育った島根県の出雲市では代々、遠藤嘉右衛門(えんどう・かえもん)家という地主が存在していました。歴代の当主は「遠藤嘉右衛門」を襲名し、現在では10代を超えています。

もともと出雲の土地の多くが遠藤家のものだったけれど、戦後の発展に合わせて役所や学校に土地を譲った……というくらい「出雲は遠藤家」なんです。

私の実家は遠藤家の番頭を務める関係性だったので、私も子どもの頃から、何か行事があるたびに遠藤家に炊き出しを手伝いに行ったりしていました。そこにはいつも、市長や議員、企業経営者など「地元の雄」たちが集まっていました。

そのときの遠藤嘉右衛門さんのふるまいは、子ども心に鮮烈な印象として残っています。

たとえば、話し合いで色んな意見が出てざわざわしているところに、嘉右衛門さんがすっと「やったらいいじゃない」と言う。そうすると、それで決まる

道路が拡張されたり、建物ができたり・・・。おじさんたちが遠藤家でしゃべっていたことが、ほどなく目の前で実現していくんです。

また、商売が傾きかけている家に、事業計画も見ずにお金を出して支える、ということも多々ありました。

私の実家は和菓子屋ですが、戦後の生活の西洋化で、祖父の代で経営が苦しくなったんですね。そうしたら嘉右衛門さんが父に、「あんただけん渡すからね」と言って大きな額のお金を貸してくれたんです

その瞬間を、私はこの目で見ていました。

そんなことしてもらったらもう、父は頑張って働いて店を再生させるに決まってますよね。そんな嘉右衛門さんの存在を、私は「かっこいいなぁ」と思っていました。

岡野さんをはじめとする「公益経営者」の方々に出会ったとき、私は嘉右衛門さんと同じ空気を感じて「未来を一緒につくっていくのはこの人たちだな」と直感したのです。

現代のビジネス感覚と比較すると…

現代のビジネス感覚で遠藤嘉右衛門さんの言動を見ると、気まぐれなワンマン経営やどんぶり勘定に見えるかもしれませんが、そうではありません。

細かいことを見なくても、何をすべきかがきちんと見えているのです。

現代のビジネスは、(大手IT企業のように)トップがみずから表に立ってスピーチをし、何かするときはデータを分析し、「自社にメリットはあるか」「費用対効果は?」と透明性・言語化を重視するのが主流です。

「公益経営者」が持つ態度は、それとは正反対に映るでしょう。

彼らの価値観でとくに特徴的なのは、先代・先々代の人たちの営みがあって、今の自分たちがあるということを、体感でわかっていることです。

実際に私も先日、祖父の親戚つながりで、東京でビジネスをしている方と初めて会い、その方にコミュニティナース事業を応援してもらえることになったんです。

こんな経験をすると、自分の頑張りだけではないものに「生かされている」ことを感じないわけにはいきませんよね。

だから「自分が何かを成し遂げたい!」よりも、いかに次の世代に「いいパス」を出せるかという長期目線で、ものごとを考えているのです。

経営者なのでもちろん数字も大切にしますが、それ以上に、美意識やセンスで経営をしているといった感じでしょうか。

ただし彼らの美学やセンスは、育った環境の中で自然と身についたもの。それを明確に自覚・言語化できている人のほうが少数派かもしれません。

ちなみに、そんな「公益経営者」が率いる企業には、“殿”の価値観を社会にうまく翻訳/実装する、名参謀がいるのがまた、興味深いところです。

社会を変えるキーワードは「公益経営者」かも?

従来の合理主義的なビジネスと「公益経営者」的なビジネス、どちらがいい・悪いという問題ではありません。

ただ、少なくとも「公益経営者」的なビジネスは、日本だからこそ成り立っていると思うので、その事実には誇りを持ってもいいのではないでしょうか。

しかも、ビジネスロジックでの合理性を重視して社会をつくってきた結果、生きづらさを感じる人が増えているのが今ですよね。だから私は、それと対照的な「公益経営者」が、社会を変える鍵の一つになると確信しています。

昔より少なくなったとはいえ、日本の地方には今もそういう方がたくさんいます。私はそんなみなさんと一緒に、コミュニティナーシングという手段で日本を、そして世界に希望を広げていきたい。

この記事はCNCの人材募集が目的ですが、私たちの仲間になってくれるみなさんには、「公益経営者」という存在やその独特な美意識を、ぜひ知ってほしくてお話ししました。

もちろんCNCの仲間になってほしいんですけど、“殿”を“殿”たらしめる参謀を務めるのも、非常に面白く意義があると思います。ゆかりのない場所でも、あんがい楽しくやっていけるものですよ。

そして、いつかCNCの事業に関わってくれたら、こんなにうれしいことはありません。


各地で活動するコミュニティナース募集!

株式会社CNCでは全国でコミュニティナーシングを実装する仲間を募集しています!順次、募集説明会を開催していきますので、関心のある方はご参加ください。

●2024.5.10(金)|北九州市門司区コミュニティナース募集説明会

コミュニティナースの職務内容:Mission
・各実装拠点(山陰/関西/九州/北陸/首都圏/北海道など)でのコミュニティナーシングを実践する
・各実装拠点に暮らす人・働く人たちとともに、コミュニティナーシングを実践する場所や機会をつくる
・全国各地のコミュニティナースとともに「“生きる”を、進化させる。」ためのコミュニティナーシングの在り方を研究学習する

詳細はコーポレートサイトをご覧ください。ご連絡をお待ちしています!


最後になりますが、今まであまり言語化していなかったコミュニティナースの事業展開やCNCの経営戦略を発信するにあたって、丁寧に言葉を紡いでくださったPodcast Studio Chronicle代表の野村高文さんに感謝いたします。ありがとうございました。

編集協力:野村高文(Podcast Studio Chronicle
音声プロデューサー・編集者。東京大学文学部卒。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て、現在はPodcast Studio Chronicle代表。旅と柴犬とプロ野球が好き。