見出し画像

社長SKY-HIに学ぶ、新しい世代との向き合い方。

ボーイズグループ発掘オーディション『THE FIRST』から誕生した日本発のアーティスト集団『BE:FIRST』が、まずは国内から社会現象になろうとしている。2021年11月3日にデビューシングル「Gifted.」リリースが決定。要するに、まだデビューしていない段階であるのに、クラウドファンディングでは2021年9月28日現在の段階で3.7億円を集めている。計画したのはBMSG代表取締役社長CEOのSKY-HI、その振る舞いは一言一句が懇切丁寧。これまでのオーディション番組に於ける審査員像を一新している。この振る舞いは、日本の中間管理職、経営層。つまり芸能界だけではなくビジネス全般を主軸とする人たちにとって、かなり参考になる。筆者自身、新しい世代とどう向き合っていいか。正解がわからないでいた。しかし『THE FIRST』を通じて、どう接したらいいのか。どうしたら未来を背負う才能と出会えるのか。育てられるのか。ヒントを見出すことができた。記事はそのまとめである。

悔しさや未練を、新しい世代に押し付けない。
SKY-HIという人物は、いまでこそクリエイティブ無双。芸能に、経営に、自由に自らの才能を謳歌しているように見える。が、最初から順風満帆だったわけではない。AAAというグループでは、その容姿の端麗さからアイドルのように扱われた時期もある。SKY-HI(当時は日高光啓の表記)は、デビュー当時からラップ担当だったし、楽曲のクリエイティブ部分にも携わっていた。が、すぐには直接的な評価に結びつかなかった。本人としても本望ではなかっただろう。

筆者には10年間のサラリーマン経験がある。だから、少しわかる。自らが強いられてきた不条理な修行期間を、新しく入ってきた人にも当然のように課したくなる気持ちが、とくに中間管理職には必ずある。最初から出来る人は出来るのに、アイデアがあるのに、それを認めてもらえない。経営者だって「俺の若い頃はな...」みたいな苦労話を意気揚々と語り、それを悪気なく新人に踏襲させたりもする。SKY-HIにはそれが全くない。むしろ、自分が感じてきた矛盾や軋轢を、自らの会社からデビューするアーティストには全く感じさせたくないという強い意志を感じる。筆者はまず、この基本姿勢に頭が下がった。最初から簡単に出来ることではない。本当に実力がある者だけが示すことができる態度である。

『THE FIRST』に通底される三本柱について。
SKY-HIは、このオーディションを進めるにあたって三つの審査基準を明らかにしている。まずはクオリティーファースト。パフォーマンスの基礎的な能力を審査する。SKY-HI自身は、必ずしもこの基礎の部分を若いときから重要視できたわけではないと言う。だからこそ、基礎を大切にしたいし、オーディション中にも関わらず自らも合宿の基礎トレーニングに参加した。そしてクリエイティブファースト、音楽を考えて生み出す能力。会社がマネジメントしたいのはアイドルではなく、自分たちで考えて動けるボーイズグループである。作曲や作詞、振り付け(コレオグラフ)に至るまで、自分たちで能動的に生み出せる力を評価している。ここで難しくなるのは、経験の有無による評点の与え方である。特に作曲やダンスは、ある程度の経験の積み上げがないと評価しにくい。SKY-HIは、経験者に厳し過ぎることも、未経験者に甘過ぎることもなく、クリエイティブファーストの柱に準じた純真なクリエイティブとしての優劣を下していった。そしてこれがいちばん難しいかもしれないアーティシズムファースト。ステージ上で自己の在り方を示す能力のことである。オーディションに参加して3次審査まで残った人物たちのなかに、SKY-HIになりたくて努力を重ねてきた人物がいた。クオリティもクリエイティブもトップクラス。しかし、特定の誰かへの憧れだけでは到達できないアーティスト性というものがある。彼をオーディションでは落とすに至ったが、あくまでBE:FIRSTというグループに向いていないだけだと強調した。どの審査過程においても、SKY-HIは全身全霊で反応をする。いい音楽とパフォーマンスには、自らも身体を動かして感動を示す。いい時も悪い時も、言葉を尽くす。なぜ順位を落としたのか、なぜ評価したのか。なぜ落とさざるを得ないのか。余すところなく伝える。この姿勢にも胸を打たれた。全員分のコメントを用意するだけでも難しいのに、個々のメンタルそして技術的な段階を踏まえてその場で何を伝えるべきのなのか。何を伝えないべきなのか。言葉を選んで、ときに言葉を詰まらせながら考えを伝えた。

それにしてもSKY-HI、若い人たちとの関係性がフラットである。若い人たちは、その若さゆえ油断するとすぐタメ口になる。審査員だし経営者だし一線のアーティストであるから、自らの可能性を示そうと食らいついてくる才能豊かな人たちに「(俺だって凄いんだぜ)」を、立場や財力を使って示したくならないのだろうか。『THE FIRST』を観ていて前半とくにそう感じていたのだが、後半になってアーティストとしてのSKY-HIが何度かBE:FIRSTの前でパフォーマンスを披露した。その姿に、候補生たちは目を輝かせた。そう。決定権のある人間が示すべきは、その道の先にある成功事例の具体なのであって、権力による統制ではないのだ。

SKY-HIを悪く言う業界人を筆者は知らない。
ラジオ番組やフェスでSKY-HIを迎えるたびに、舞台監督やマネージャー、芸能事務所社長や番組プロデューサーなど。業界人から頻繁に連絡をもらう。「だっちゃんによろしく!」「日高くん、いいよね!応援してる!」など、誰もその足を引っ張ろうとしない。SKY-HIが掲げる目標は高いし、既存の価値に取って代わろうとするオルタナティブを露骨に示している。業界からの反発もあるのではないかと、心配していた。喜ばしいことに、それは大いなる誤算であった。むしろSKY-HIの勇気ある行動と言動に、業界の内側の人たちも希望を抱いているのであった。

BE:FIRST、現象はまだ序章に過ぎない。
SKY-HIがそもそも『THE FIRST』というオーディションをはじめたのは「日本で音楽の才能に優れた人材が日本の芸能界に居場所を見いだすことができず、K-POP市場へ流出している現状を危惧している」からで、狭い日本の芸能界でトップを目指すためのものではない。自費で1億円を投資したのも、業界への存在感を示すことが目的ではない。あくまで世界で通用するボーイズグループを発掘して、育て上げるためである。祈りとも言えるその切実な願いは、BE:FIRSTの7人にも受け継がれている。オーディションの課題曲であった楽曲で、BE:FIRSTは何度も構成を練り直して、パフォーマンス動画を細かくアップデート。その都度、精度を上げてきている。彼らの目的も、いまやBE:FIRSTのメンバーに残ることではなく、世界で名実ともにBE:FIRSTになることなのだ。

悲しいかなここ日本では、政治も経済も芸能も、まだまだ派閥的な内輪の抗争の域を脱していないところがある。社長SKY-HIがリスクを恐れずに示した三つの柱、そして感覚に嘘をつかない基本姿勢。新しい世代への敬意を忘れずに言葉を尽くそうとする横顔、そしていちアーティストとしても八面六臂の活躍を続けるSKY-HI、そして法人として新しい表情を獲得し続けるBMSG、本当に世界を狙えるクオリティまで到達しつつあるBE:FIRSTのパフォーマンスに筆者は希望を感じている。その動向を見守りつつ、露骨に参考にしてゆきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?