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夢を与える

2015年/日本
監督:犬童一心
原作:綿矢りさ
★★★★☆

あらすじ

母・幹子(菊池凛子)の勧めでCMのオーディションを受けた夕子(幼少期:谷花音)はオーディションの合格をきっかけに芸能界に飛び込む。CMの影響から国民的子役として世間に名を馳せるが、父親(ド・ランクザン望)は娘の芸能界入りを良く思ってはおらず、次第に両親の仲に亀裂が入る。成長した夕子(小松菜々)は、次第に自分の立場に違和感を覚える。芸能界に身を置くことにより制限される日常。母親の執着。両親の不仲。様々なことに心をすり減らしていく中、あるきっかけで出会った正晃(新田真剣佑※当時、真剣佑名義)と恋に落ちるが…


感想

4話完結のドラマ(2015年にWOWWOWにて放送されたもの)。物語は、夕子と正晃のベッドシーン映像が流出しスキャンダルとして騒動になるシーンから始まります。そして、CM出演をきっかけに芸能界に入った子役時代から、スキャンダルを起こし、芸能界のトップから転落していく様子を、1話から4話の中で描いています。

以前にも見たことがあったのですが、在宅時間が増えたことを機に改めてNetflixで鑑賞。1話1時間弱が4話ということで、午前中に見始めれば昼頃には見終わりますし、週末に一気見しても1日潰れることがないので見やすいかと!


※以下、ネタバレ有。
好きなシーンを並べていきます。


1話(幼少期・芸能界に入るまで)

夕子が芸能界に入る前の家族団欒のようすから、夕子が芸能界に入るまで。またその後、夕子の生活に訪れる変化、それに伴う違和感、幹子の執着のようすを描いています。


・子役というもの

始めは順風満帆な芸能界生活。周りにもちやほやされ、母・幹子も鼻が高い。しかし、父・トーマは一人、夕子の芸能界での活動に不安を覚えます。夕子がモデルクラブにスカウトされた際も、トーマだけは「特別じゃなくて良い、優しい子に育ってくれれば」と、普通の生活を望んでいました。しかしそんなトーマの想いとは裏腹に、CM撮影以外の仕事が増え、夕子にも変化が訪れます。夕子が身に着けるブランド子供服、メイク、父への誕生日プレゼントには時計。トーマはそんな夕子の変化に違和感を覚え、幹子に何度も芸能界から身を引くことを説得しますが、幹子は首を縦には振りませんでした。

あ~~居るよね、子役ってそうだよね。と思ってしまいました。(子役で一括りにするのは良くないかもしれませんが。)

私、子供らしくない子役ってあんまり好きじゃなくて。というのも、子役にありがちな「子供らしくなさ」って、「ませた子供」とかそういった次元ではなく、大人をそのまま小さくしたような印象なんです。ませた子供は、それも含めて「あ~子供らしいな」って思えるんですけど、子役の子って大抵、礼儀やカメラの前での振る舞いをたたき込まれてるから、中身が大人なんですよね。大人の常識を持った子供。きっとそれが仕事として、プロとして、正しい在り方なのかもしれませんが、私はそこに違和感を覚えて拒否反応を起こしてしまう。居心地が悪い。父親なら尚更でしょうね。立場は違えど勝手に共感してしまいました。

あと途中スタンドイン(撮影時のカメラ位置や照明等の調節を行う為の代役)の子役が登場するのですが、これもまた芸能界っぽ~~~!となったシーン。スタンドインの子はそのシーンの設定を踏まえ、笑顔を見せるんですが、機材調節の為の立場なので、スタッフさんに「そんなに笑わなくていいよ」と言われてしまいます。おいスタッフ~~~気遣え~~~と見た方は思うことでしょう。芸能界ではあるあるなのかな。


2話(中学生時代・出会い)

大手芸能事務所への移籍を機に、知名度も上がり、仕事の幅も広がります。2話の中でいくつかの出会いがあり、夕子の見える世界が広がります。しかしその反面、自分と、母親が求める自分へのギャップを感じ始めます。夕子が楽しいとき、幹子の顔は険しい。少なからず、親が求める子供像になろうとしたことのある人も居るんじゃないですかね。私はなんとなくその感じわかります。

自分の意志に反し、夕子は求められるものに答え続け、徐々に自分の感情を消して仕事をこなし始めます。このあたりから芸能界に消費される女の子を感じますが、これ、芸能界に限らないですよね。好きなことをしていたつもりがいつの間にか流れ作業のように仕事をこなしていたり、他人に感情を揺らされるくらいならと、自分の喜怒哀楽に気付かないフリをしたり。そういうある種自己防衛のような体験をした(している)人も少なくないんじゃないでしょうか。


・多摩

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中学生になった夕子は、芸能界で仕事をしていることで周囲から距離を置かれます。そんな中出会ったのが同級生の多摩(濱田龍臣)。彼だけは夕子のことを特別扱いせず、「同級生」として接します。そんな多摩に、夕子は心を開き始めます。

両親の喧嘩が増え居場所を無くした夕子は、ある放課後、多摩の家に行くことになります。多摩の祖父は漁業(魚の加工業?)をしており、多摩と二人でそれを手伝うシーン。「同級生との放課後」そんなありふれた時間を、夕子は心から楽しんでいるように見えます。芸能活動を見ている夕子には、そんな時間がとても貴重なものになります。


・ミイ羽

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ある番組内で共演したアイドル・ミイ羽(夏帆)。番組を通して二人は仲良くなりますが、実は1話・幼少期で登場したスタンドインの女の子がミイ羽だったとわかります。子役で芽が出ず、自動ポルノ等すれすれの仕事をし、望まない仕事をこなし芸能界で生きていた。しかし彼女は夕子を憎むでもなく友人として接します。

夕子とミイ羽が2人でプライベートで出かけた際、夕子がミイ羽の趣味である落語の良さを尋ねるのですが、こう答えます。「みんな駄目な人で、駄目人がみんなキラキラしてるから」。終始明るいミイ羽ですが、きっと他人と自分を比べて、自分のことを駄目だと思ってきた時間があったんだと捉えました。自分の弱さをやさしさに変えられる女性だなと思いました。(あと夏帆かわいいです。)


3話(芸能界のトップから転落)

着実に芸能界でトップに上り詰める夕子。そんな中、ゲストとして出演したイベントで、ダンサーの正晃(新田真剣佑※当時、真剣佑 名義)。メディアに対して媚びない姿に、夕子は惹かれます。そして次第に正晃との関係に溺れ始めます。スキャンダル一直線。幹子や会社側から正晃と別れるよう説得されるのに対し、より一層夕子の反感は増していきます。

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ここはもう真剣佑の色気に一点集中でお願いします。


4話(夕子の言葉)

正晃とのベッドシーン動画が流出し、大スキャンダルとなった後、夕子は身を潜めて生活します。憔悴しきった娘を見て、父・トーマは故郷であるフランスに発つことを決意しますが、「最後に本人の口から直接弁明する機会を与えるべきでは。フランスに発つのはその後でも遅くない」と半ば騙されたかたちで、ワイドショーの年末特番への出演を受けます。(本当は視聴率稼ぎの為、圧力をかけられたCM担当者からの説得)そしてクライマックス。


・芸能界

ワイドショーのディレクター・松田(太田信吾)がまあヤバイ。テレビを愛しすぎて崇拝しすぎて、面白い番組の為ならなんでもするみたいな人。見ていて気持ち悪いし、誇張した描かれ方にも見えるんですが、実際こんな世界なんだろうなとよくよく考えると思ってしまいます。夕子がワイドショーの生放送中に、テレビ局の屋上から飛び降り(クッションのある場所に落ちて無事)ますが、放送後松田が上司にこう言います。「夕子が死んだら、もっと数字(視聴率)伸びたと思います?

こわ!!!

しかもこれを聞いた上司がまた意味深な顔でニヤッとするんですわ。狂ってますね。そうやってできてる番組もきっとあるんだろうなと思いました。


・夕子の言葉

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ワイドショーの生放送に出演した夕子。司会者(浅野和之)から、動画流出について問い詰められます。登場からしばらくの間、沈黙し続けた夕子でしたが、ついに話し始めます。

「私は彼を愛していました。そんなに醜い姿をしていましたか。そんなに醜い顔をしていましたか。あの顔が本当の私です。それが汚らわしいと言うなら、人は人を愛してはいけないと思う。」カメラに向かい言葉を話し始めた夕子を、幹子は控室の画面越しに見守ります。「夕子はもうおかしくなっている」というトーマの言葉を受け、幹子は「何もおかしくない」と言葉を吐き出します。

そう、なにもおかしくないんです。18歳の女の子が、恋に落ちた話をしているだけなんです。このドラマを見ている私たちですら、「あぁ、夕子は芸能界で精神的にやられちゃったんだな、おかしくなっちゃったんだな」って思うんです。当たり前が、当たり前じゃない世界にハッとしました。幹子もきっと、それに気づいたんでしょうね。

「ニュースも、スポーツも、戦争も、季節も、笑い声も、悲しみも、音楽も、教育も、政治も、宣伝も、商品も、会話も、悪意も、善意も。動物が居ても、問題があっても、答えがあっても、見たことがない国があっても、知らない誰かが居ても、もしかしたらどこかに夢があっても。それは全部、リモコンのスイッチひとつで簡単に消せてしまう。手に入るものは、テレビの中になんかなんにも無かった。」「すごくさみしいけど、そのさみしいって気持ちは、スイッチひとつじゃ簡単に消せないってことが、いまはちょっとだけ嬉しいよ。ありがとう。」「私は、リモコンのスイッチひとつで、簡単に消せる夢です。」

私の中でこのドラマの最大の魅力はここですね。このシーンの、この言葉の中に作品のすべてがあったと言っていいと思ってます。実はこのセリフ、私の記憶が正しければ原作の中には無いんです。私はこの作品の脚本を担当されている高橋泉さんの言葉選びが好きなのかもしれないですね。脚本作品探して見ようと思います。


まとめ

自分が自分でいられないのが普通な世界、それが芸能界。自分は自由に生きていられてよかった。そんな風にはじめは思っていたんですが、2話のところで触れたように、程度の差はあれど、どの世界もみんな少なからず何かに制限されているよなと思いました。(国なのか時代なのか社会なのか人なのか、それが何によるものなのかはわかりませんが)

自分を抑えることも必要だとは思います。むしろこれが自分!といって曲げないのも考え物ですが、自分が属している集団や周りの人の影響で、自分の感情を殺して、自分を削って、そんな風にそこに属している夕子に、なぜか共感してしまいました。

自分が自分でいられる場所、感情に素直になること、それってもしかしたら当たり前にあるものじゃないかもしれないですね。自分にとっての「当たり前」を忘れないようにしたいなって思いました。


おわり。


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