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大人の夏休み〜10日間の療養待機期間〜

発症

姑のショートステイから電話が入った。朝から元気がなく、37度の熱があるとのこと。
「ついに来たな」
要介護5の姑は生活の全てに介助が必要で、ほぼ寝たきりの状態。
なので、月に一週間ほど毎月施設に預かってもらっている。いわゆるショートステイというものだ。私は一時、介護から解放されるわけ。
昨日からショートが始まり、やれやれとホッとしていたところだった。
お昼にもう一度熱を測ってみて、下がらないようなら感染が疑われる。
その後「申し訳ないがショートステイは中止させていただきたい。早急に家族に迎えに来てもらいたい」と連絡が入った。
主治医に連絡しPCR検査を実施。姑は陽性と診断された。

介護と仕事

仕事をしながらの介護はかなりハードだ。ただ、私の場合、介護の専門家であるケアマネジャーとして働いている。そのため、介護と仕事を両立させる手段を、多分一番知っていると思う。
姑の介護が始まってもうすぐ20年になり、介護に携わる仕事を初めて10年以上になる。その間、介護保険制度をめいいっぱい利用してなんとかやってきた。夫とは、何度も喧嘩と話し合いを繰り返し、今に至っている。
しかし、今回ばかりは大ピンチである。
同居家族として濃厚接触者となり、まず仕事はしばらく休まねばならない。そして、万が一感染してしまったら…
悪い予想は当たってしまい、程なくして私も熱を出した。医師からは、PCR検査をするまでもなく陽性と診断された。
上司に連絡し、私は10日間自宅で療養することとなった。

寝室で隔離生活

熱を出して1日目は、本当に体が重く起き上がることもできなかった。
「どうするのよ、姑の世話」「オムツに食事介助誰がするのよ」「家族のご飯もどうなってるの」
頭の中で様々な心配事が浮かんでは消え、朦朧としていた。
2階の寝室で一人でずっと横になり、朝なのか昼なのかさえわからない。
皆が寝静まった頃、なんとか階段を降りてトイレに行き台所で水を飲んだ。
意外にも食器は片付けられ、冷蔵庫には食べかけの食材が少し入っていた。
リビングのソファには畳まれた洗濯物があった。娘と夫でなんとか家事はできている。どうにかこうにか、家は回っているようだ。
ふらつきながらも、また、一人寝室に戻り横になった。夫は今日もリビングで寝てくれる。おでこに貼った『冷えピタシート』が気持ち良い。
次の朝、姑は熱も下がり、体調は落ち着いていると聞いた。配食の弁当を夫が食べさせてくれたようだ。オムツも替えてくれている。
そして、夫も私が発熱して2日後熱を出した。

家族全員家に缶詰

熱は最高38度くらいまで上がり、丸2日間続いたが、3日目にはほぼ平熱に戻った。喉の痛みもなく咳もそれほど出ない。多分私は、症状として軽い方だったようだ。ただ、なんとなく体がだるい。
どうせ二人とも感染しているのだからと、寝室で夫婦で寝ることにした。娘たちは部屋で過ごしている。
日中家族全員家にいるなんて結構久しぶりのことだ。飼い猫たちもなんか落ち着かない様子。
夫も高い熱が2日ほど続いたが、その後は特に症状もなく日中は二人ともリビングで過ごした。
姑は朝昼夕といつものごとく「なんかくれ。腹が減った」と訴えるようになった。すっかり元気になったようだ。
しかし、10日間は外に出れないし、訪問介護の支援も全て断った。唯一訪問診療の看護師が一日一回様子を見に来てくれるだけ。
お願いすれば、ヘルパーさんが来てくれて、いつものように食事の世話やおむつの交換をしてくれたのだろう。しかし、防護服を頭からすっぽり着て、感染しないかハラハラしながら支援するのは、かなりキツイだろう。
幸い夫婦が時間差で熱を出し、その後症状も無くなったので家族でこの局面を乗り越えることにしたのだ。
うちは、もともと食材は生協やなんかでまとめ買いをしており、家庭菜園をしているので野菜も豊富にある。特に買い物などで困ることはなかった。
(夫は症状がなくなってから、朝早く誰にも会わないように畑に収穫に行っっていた)

時間はあるが何もできない

毎日朝5時に起きて、弁当を作って姑の世話をして洗濯をして仕事に行く。仕事から帰って一度も座ることなくそのまま台所に立ち夕食を準備するYouTubeを横目で見ながら洗濯を畳んで、寝る前には明日の仕事のことを考えながら姑のオムツを交換した。
毎日、テープの早送りのように行動し、息つく暇もないと感じていた。
おまけに、仕事と家事の合間には自分の好きなこともやりたいと、ヨガや料理の教室に行ったりと、自分の趣味の時間もちゃっかり作っていた。
しんどいと言いつつ、そのために時間をやりくりするのが楽しかった。
「もう少し時間があれば、もっと人生楽しめるのに」
そんなことを時々考えながら、バタバタと毎日過ごしていたように思う。
そして、ここへきて急に時間ができた。
家からは一歩も出れないが、時間は有り余るほどある。10日間も仕事を休むことになったのだから。
しかし、何もやる気が起こらなかった。病気のせいかもしれないが、熱が下がった後も、本当に体がだるく何もできない。
リビングで、夫婦でずっとNetflixを見て、時々姑の世話をしてご飯を作って1日が過ぎた。3日過ぎた。9日過ぎた。

10日間で得たもの

私は、いつも何か目に見えるものや、結果を残したいと考える性分。そして、そのために動いて充実した時間を過ごすことに快感を覚えていた。
なので、何もせずぼんやりと時間を過ごすといことが一番嫌いだった。
今回、否応なく突然10日間という時間を与えられた。
姑の世話と家事はもれなくついてきたが、時間は存分にあった。
しかし、思いのほか本当に何もできなかったし、何も残せなかった。
あんなにもっと時間があれば良いのにと考えていたのに、不思議なもの。
忙しくて時間を作り出すのに苦労する時の方が、次々に行動を起こせるようだ。
リビングや寝室で何もせず過ごす時間を持つようになって何日かするうちに、こんな時間の過ごし方もあるのだと改めて感じれるようになった。
そして、夫婦で会話する時間が増え、家族が家でどんな風に過ごしているのか、ずっと見ていて向き合うことができたように思う。
病気のせいでしんどい思いはしたが、時間を無駄にゆっくりと過ごす「夏休み」をもらったのかもしれない。

これからも姑の介護は続くけれど、夫と娘たちの協力を得て、まだまだ頑張れるような気もする。
10日間の療養期間を経て、明日からいよいよ仕事復帰。


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