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気候危機を日常生活の話題にするために

 この夏もまた気候変動が世界を襲って生活や経済活動に影響を及ぼし、気候危機が当たり前になっている。エルニーニョ現象が始まったこともあり、世界の平均気温や平均海水温は今年に入り過去最高の水準が続き、7月には何日も「過去最高の平均気温」が記録された。最近は、日本、韓国、アメリカ北東部での豪雨、ヨーロッパや北米大陸での猛暑や干ばつ、カナダでの大規模な山火事が記憶に新しい。
 今回のテーマは現象面でなくて、気候危機に対する人々の意識がテーマである。ワークショップなどの機会に私がよく話すのは、「自分ごとにできることが大事。そのためには、まず日常生活の中で気候のことを気軽に話せる環境づくりが必要だ。」ということだ。これに関して興味深い調査やグラフがあった。

 気になったグラフは、電通総研「気候不安に関する意識調査」に掲載されていた以下のものだ。同調査の対象は16~25歳のいわば「Z世代」であるが、世代を超えて共通して当てはまる部分も強いように見える。

(出典:電通総研コンパスvol.9「気候不安に関する意識調査(国際比較版)」2023.03.22)https://institute.dentsu.com/articles/2823/

 このグラフからわかる特徴を私なりにまとめると以下のとおりになる。
 1)日本人は、気候変動のことを話したがらない
 2)日本人は、気候変動の話題で拒絶や無視されることが少ない

 1)はある程度私の想定通りだったが、2)は意外な結果となった。ヤフーニュースなどネットで気候の話題の記事が出ると、ほとんど必ずと言っていいほど批判的で時には中傷的なコメント投稿が見られる。こうしたコメントの頻度からみると、「拒絶や無視されることが少ない」のは意外かもしれない。しかし、この2つの現象は、日本人の場合むしろ表裏一体である気がするのだ。「自分ごとになり切れていないうえに、対立を生みやすく、拒絶や無視が嫌なのであえて話にしない」こういう層が一番多いというのが正しいところではないだろうか。
 これを「危機感や心配度の低さ」「話したがらない空気」「国際的なディベート力の問題」の3つの観点から考えた。

A)危機感や心配度の低さ
 この調査には、「気候変動が人びとや地球を脅かすことを心配している」を尋ねる設問もある。その結果は以下だ。

(出典:電通総研コンパスvol.9「気候不安に関する意識調査(国際比較版)」2023.03.22)https://institute.dentsu.com/articles/2823/

 「とても心配している」が3.4%と比較対象10か国では最低だった一方、「心配していない」が14.6%と最高になった。「ほどほどに」「少し」といった、軽度な心配も比較対象10か国内ではトップクラスにある。心配の程度が低い分危機意識が低くなり、話にする割合が低くなる可能性が考えられる。
 なお、電通総研は、日本国内別に世代別の意識調査を行っている。年齢が高くなるほど「心配していない」割合が減って「とても心配な」割合が増えているが、「極度の心配」の割合はいずれも5%未満だ。

(電通総研コンパスvol.9「気候不安に関する意識調査(日本国内版)」2023.07.11)https://institute.dentsu.com/articles/2964/

B)話したがらない空気
 
多くのサイトで具体的に取り上げられているように、避けたほうがいい雑談テーマとして、よく言われてきた「政治、宗教、野球」に加え、「意見が分かれやすい話題」が取り上げられている。日本人が気候危機のことを「話したがらない」のは、「政治」とニュアンスが近い、意見が分かれやすい話題と考えているからだろう。
 その根底にあるものとして、「負担意識」の問題が多く取り上げられる。多くの日本人が、気候変動対策に際し「生活の中で我慢が増える」と感じ、環境問題への取り組みに負担感を持つようだ。World Wide Views on Climate and Energy 世界市民会議「気候変動とエネルギー」開催報告書(2015年7月)によれば、日本では、世界とは異なり気候変動対策が「生活の質を脅かす」と捉えられている。その具体的内容は以下のとおりである。

問:「あなたにとって,気候変動対策はどのようなものですか」
「生活の質を高めるものである」世界平均66%、日本17%
「生活の質を脅かすものである」世界平均27%、日本60%

 世界平均と日本では真逆の結果で、日本では「生活の質を脅かす負担」と気候変動対策が捉えられている。この結果、多くの日本人は意見の対立や人間関係の破壊を避ける代わりに、「話題にしない」ことで心理的に自己防衛するようになっているのではないか。その一方でネット世論では懐疑論に同調して強い拒否反応を示す人もいるが、その割合は全体には少ない方だろう。

C)国際的なディベート力の問題
 これはB)と関わる問題かもしれない。一般に、日本人は人間関係を保ちながら激しく意見を戦わせること、すなわちディベートが下手と言われる。「反対意見=和を乱す」といった感じで、反対意見と人間性とが同じように考えられて混同され、感情と切り離した意見の交換や議論が苦手である。「同調圧力」もその性質の延長線上に考えられる。その原因として、「日本では世界の他の国と比較して教育の場でのディベートの機会が足りない」「日本の教育は自分で考えることをしない」ことを挙げる人は多い。
 気候危機の問題に関しても同じことが当てはまるといえよう。「ちょっと関心はあっても、場の雰囲気を壊さず話題にする自信がないので、あえて話題にしない」「それなら相手も自分ごとになりやすそうな他のトピックを選んだ方がいい」「楽しく明るい話題がいい」こういう人も多いのではないか。それ以前に、気候のことについて考えて議論する機会が少ないままだというのもあるだろう。これは、他の社会課題の多くに関しても当てはまる。

まとめ
 一言でいうと、日本には、気候危機対策の最も根本となる「日常生活で話題にする空気」ができていないということだ。
ではどうすればいいか?「自分の生活の関心、興味、情熱を持てること」に結びつけて気候を考えていくことが一番のきっかけになると思う。スポーツをやっている人、スポーツのファンならスポーツと結びつけて考えるのが一番いいだろう。これからは「夏の全国高校野球」「甲子園」という恰好の題材もある。そのうえで、多くの人が自分の未来や目標と結びつけて気候の問題を考えていけば、気候危機をより自分ごととして話題にしやすい空気が生まれていくと思う。
 さらに、教育の段階でディベートや自分の意見の発信機会をもっと増やし、感情対立を生まずに意見を戦わせる癖をつけていくことが、気候危機を日常の話題にしやすくなることにもつながるはずだ。これは他の社会課題に関してもあてはまろう。

(追記)
 この問題には、私も苦い経験がある。食事中、コロナ流行の話題が出て、ここで私が「気候の問題や環境破壊がコロナに影響している」旨の話題に振ろうとしたところ、「気候の問題なんてどうにもできないじゃない」と言われ、そこで話がぶっ壊れてしまったことも。その日以降、当の相手とは一言も話しておらず、SNSのやり取りも皆無になってしまった。

【参考】
World Wide Views on Climate and Energy 世界市民会議「気候変動とエネルギー」開催報告書
https://www.jst.go.jp/sis/scienceinsociety/investigation/items/wwv-result_20150709.pdf

江守正多「なぜ日本人は気候変動問題に無関心なのか?」2020/8/17(月) 6:35
https://news.yahoo.co.jp/byline/emoriseita/20200817-00193635

タウンワークマガジン「初対面で会話が続く話題・ネタ26選&避けたい話題・ネタ6選|バイト先/大学などシーン別で紹介」2023年4月3日
https://townwork.net/magazine/skill/51136/

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