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猛暑を避け早朝か夜に働く危険性―気候危機下の農業従事者に関して

 屋外で働く人にとって、気候変動による猛暑への対策として、考えられるものの1つが以下のものであろう。

「暑い昼ではなく早朝か夜に作業をする」

 しかし、この「ソリューション」も、実は別の問題を引き起こすようだ。

 この問題を取り上げていたものが、夏季の収穫作業にあたるアメリカの農業従事者を取り上げた以下の記事である。

Extreme Heat Pushes More Farmworkers to Harvest at Night, Creating New Risks
By Kristoffer Tigue
October 31, 2023

 ここで挙げられている問題を先に簡潔に書くと、以下のようになる。こうした問題に関連するデータも実はない。
猛暑を避けて早朝と夜に働くと-
1)睡眠のリズムが妨げられる
2)家族との団らんの時間が損なわれる
3)事故のリスク-農作業中、自宅から農場への往復の運転中
 
2019年に出されたUC Davis Western Centerの以下のレポートによれば、夏の夜間の収穫作業が増加している一方、見えにくく労働者も疲れているので事故のリスクが増加するとしている。特に危ないのが機械を操作する農業従事者であり、睡眠やホルモン周期が妨げられて、流産の増加可能性などの長期の健康のリスクにつながるとのことだ。
Night Work: A Growing Trend in Western Agriculture?
March 07, 2019

 早朝2時に自宅から作業する農場まで運転する際の事故の危険性のほか、これまで息子を連れて農場に来ていた女性が、収穫作業時間が深夜になるとそれをやめたエピソードも。この女性によれば、「午前3時のような時間だと、蛇などの動物に遭遇する危険があるほか、照明がほとんどないので手元が見えない」とのことだ。

 こうした状況の背後にあるのは、アメリカの農業従事者の置かれた厳しい状況である。環境防衛基金(Environmental Defense Fund)の今年7月のレポート(※)によれば、200万人を超えるアメリカの農業従事者が夏の太陽の下で働き、熱中症のリスクが他の職種より高くなっているとのことだ。こうした農業従事者の暑さによる死亡リスクは他の職種の20倍以上になる。政府データによれば暑さに関連する農業従事者の死亡数は年平均43人とされているが、実際は年2,000人以上ではないかの指摘もある。夏の数週間収穫作業にあたるこうした農業従事者の多くがラテン系のUndocumented Immigrant(法的手続きを経ていない移民)である。

(※)詳細は下記。

 気候危機が進行し夏季の猛暑が避けられなくなっている現状に対し、「暑い時間を避ける」という一見有効な対策にも限界やリスクがある。上記アメリカの農業従事者の多くが、「暑さをとるか暗闇をとるか」の問題から逃げられなくなっているのだ。暑さへの適応策に合わせ、「21世紀末までの気温上昇を産業革命前から1.5℃に抑え込む」パリ協定やCOP27で定められた目標へのコミットがどうしても求められる。

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