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部屋に冷房がない…パリオリンピックの選手村

 今年2024年のパリオリンピックは選手にとって過酷な環境になる可能性がある。気候危機が進行し夏の猛暑が頻発する中、特に屋外競技を行う環境が厳しくなるだけではない。選手はフィールド外でも暑さとの闘いを強いられるかもしれない。
 それは、一言で言うと、選手村の各部屋に「冷房がない」のだ。正確にいえば、「冷房をあえて設置しない」のだ。
 
 これを取り上げていたのは以下の記事。写真は下記記事からの引用である。
‘We’re not going for a picnic’: The Olympic teams hitting back against Paris’ no A/C green policy
By Rosie Frost
Published on 25/02/2024 - 08:00

 この記事、よく読むと、冷房をつけないのは各部屋であって、共用部分を含む選手村の建物自体に全く冷房を設置しないことではなさそうだ。

 「冷房がない」「冷房をあえて設置しない」理由は、気候変動対策のためだ。これまでで最も環境に配慮したオリンピックをうたっているパリオリンピックは、2012年ロンドンオリンピックや2016年リオデジャネイロオリンピックと比較して温室効果ガスの排出量を削減することを目標にしている。その達成の柱が、「選手村に冷房をつけないこと」のようだ。
 選手村に宿泊するのは、オリンピアン10,500人、パラリンピアン4,400人。パリ市長のAnne Hidalgo氏は、選手村に入ってくる自然の風が冷房の役割を果たすというが、言う通り冷房なしで暑さをやり過ごせるのか、各チームから疑問視されている。その一方で、パリオリンピック期間中には前例のない暑さがパリを襲い、期間中に観測史上最高の気温を記録する可能性があるとの研究もある。パリは、2019年に気温42℃を記録したほか、ヨーロッパ854の都市の中で暑さによる死者の割合が最も高いとの研究もある。このパリでは1月の平均気温が今年史上最高を記録し、2月も最高になると見込まれる。
 オリンピック関係者によれば、この懸念に対応して、屋外の競技時間の柔軟な対応のほか、屋内の会場も気候変動に配慮した設計にしている。選手村もその1つだ。セーヌ川沿いに立地する選手村が位置するエリアでは、68%が再生可能である地熱のネットワークを活用して、宿泊施設、オフィス、さらにオリンピック後に整備が予定される住宅の冷暖房が供給される。設計や家具の工夫、ソーラーフィルムの使用により、常に外気温より6℃低い状態が保たれる。それでも選手にとって不十分ならファンが追加で用意される。この工夫で、外気温が39℃でも室内温度は23~26℃に維持されるという。こうした対策は各国の選手団にも伝えているとのことだ。
 それでもなお不十分と考える国・選手団も多い。この記事では、ギリシャ、オーストラリア、アイルランドが空調対策の方針に不満を挙げ、わざわざ自国から携帯のエアコンを持参する予定の国として取り上げられている。オーストラリアオリンピック委員会CEOの Matt Carroll氏は、「脱炭素のためにエアコンを設置しない方針は分かるのだけど、これは高いパフォーマンスの試合だ。ピクニックに行くのではない。」と述べている。
 これに対して、オリンピック運営側も、携帯型のエアコンをレンタル備品として準備する用意があるとのことだ。

整備中のパリオリンピック選手村(出典は上記リンクの記事)

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 以上が元記事の内容の概括だ。
 オリンピック運営サイドの言う通りに、各部屋の空調なしに温度を保つことができるならば、素晴らしいイノベーションになるかもしれない。それでも不完全な部分が出てきた場合に限り、必要最低限のレンタル型のエアコンを活用するという場合でも、温室効果ガス削減の効果は見込めると思う。問題はその基準設定か。選手というペルソナが求めるのは、ただ普通に暮らしていければいいというだけではない。パフォーマンスやコンディションを維持するための環境も求められ、その水準は一般人よりも高くなるはずだ。
 大会後選手村は住宅に転用されるだろう。そこでの各部屋の空調はどうなるのか(エアコンなしにはいかないだろう)の問題もある。オリンピック後撤去される仮設施設部分の空調の整備や撤去コストの問題もあるだろう。そして、そもそも選手村のエリアに整備される地熱ネットワークがどんなもので、どれだけ効果があるのか…これも現在の情報ではよく分からない。
 理想は、オリンピックの選手村を契機に温室効果ガス排出を画期的に減らした効率的な空調システムができ、これが世界に広がるレガシーとなっていくことだろう。これが選手にも満足する水準になれば、さらなる気候危機の進行にも対応可能なものとなってくる可能性がある。

 選手にとっては、自分たちのプレー環境が地球環境から受けてきた恩恵や、スポーツと気候変動対策の密接な関係を理解する好機になるだろう。一方で、どんな猛暑でも金輪際エアコンはないというのは…やはり酷いな。使い方の工夫という余地はあるにせよ。

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