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夏の猛暑が影響?負傷者続出で棄権が相次ぐラグビートップキュウシュウリーグ

 リーグワン昇格を目指して現在トップキュウシュウAリーグを戦っているラグビーチームのルリーロ福岡。昨年2022年に創設され、福岡県うきは市を拠点に置く地域密着型のチームである。このルリーロ福岡に「不戦勝」という事態が起きた。

 10月14日(土)開催予定だったJR九州サンダーズ戦が、対戦相手の棄権により開催されなくなった。規定によりこの試合はルリーロ福岡の不戦勝となる。理由は、10月8日の試合で複数名が負傷し、10月14日の出場選手がいなくなったためだ。
 公式HPの発表は以下のとおり。
https://www.rugby-kyushu.jp/kyushuleague/2023-2024/topkyushu/2023101401.html

 「負傷者続出による棄権」実はほかにも起きていた。トップキュウシュウBリーグでは、鹿児島県に拠点を置く山形屋が、10月1日の試合での複数名の負傷によりその後2試合を棄権、今シーズンのリーグ戦を終了することとなった。山形屋にとって残る公式戦は11月の順位決定戦1試合だけになってしまった。
 公式HPの発表は以下だ。
https://www.rugby-kyushu.jp/kyushuleague/2023-2024/topkyushu/2023101001.html

 2チームが相次いで負傷者続出で棄権してしまう事態。これは偶然なのだろうか?部員数確保の問題もあるのかもしれない。ただし、私なりに思いついた理由が1つあった。これは、この夏の猛暑により、調整がうまく進まなかった可能性だ。

 2023年の7月、8月の平均気温は以下の通り。括弧内は平年との比較だ。体感でもわかる通り、平年より高い状態が続いた。
福岡 :7月28.9℃(+1.5℃) 8月29.7℃(+1.3℃)
鹿児島:7月28.9℃(+0.8℃) 8月29.3℃(+0.5℃)

 練習、トレーニングはパフォーマンスやスキルの向上だけでなく故障防止の面からも重要である。9月に始まるリーグ戦を前にして、6月、7月、8月の練習・トレーニングは非常に重要なはずだ。暑くて熱中症の危険が高いからやらない、というわけにはいかない(※1)。だからといって、脱水症状や熱中症に対して無頓着でいいわけがない。コンディショニングの観点からは、選手が故障しない、事故が起きないのが最大の使命でもある(※2)。そのジレンマを抱えながらトレーニングしているはずだ。この結果、この2~3か月が暑すぎて思うようにトレーニングできないとなると、その反動は、故障リスクの増大という形でシーズンに回ってくる。その反動はシーズン直後にやってくるとは限らず、涼しくなって動きやすくなった、あるいは疲労が出始めた10月にやってくるのかもしれない。

 この点、思い当たる節があった。私が観に行った、10月1日(日)に福岡のJAPAN-BASEで行われたルリーロ福岡-日本製鉄八幡戦。終盤は日本製鉄八幡の選手を中心に、負傷したり足をつったりして動けなくなる選手が続出した。1プレー、あるいは1分毎にインジュアリーにより時計が止まる感じだろうか。この頃にもっとも近い時点である、10月1日16時の福岡の気象は、気温25.1℃、WBGT(暑さ指数)22.6℃。猛暑というレベルではない。この中での数々の負傷。振り返って考えると、その前の夏のコンディション調整の影響もあるのだろうか?と感じさせられた。

 トップキュウシュウだけでなく、大学ラグビーも、暑い時期にシーズン前のトレーニング時期がやってくる。アメフトも秋からのシーズンが多い。夏の甲子園の問題がクロースアップされる高校野球も、多くの高校にとって、夏は次春のセンバツ出場をかけた秋季大会を前にした貴重なトレーニングの時期だ。その多くが甲子園のようにベンチ裏の空調が整備されているわけではない。今後気候危機の進行によって猛暑が深刻化すると、秋のスポーツの活動機会や頑張りが奪われていく危険を感じさせる。こうした中で、今後は以下が重要になってくるだろう。

【現場目線からの「適応策」】
1)暑熱環境下でもできるだけトレーニング機会を守るマネジメント(例:水分補給)
2)テクノロジーの活用:IOTデバイスやセンシングを活用した安全対策

【世界が取り組まなければならない「緩和策」】
3)「産業革命前から+1.5℃」以内の目標に向けた脱炭素の取り組み

 3)はラグビー界、スポーツ界だけでできる取り組みではなく、様々なステークホルダーの連携が必要だ。このキーとなるのが「2100年も皆が目標に向かって頑張れる機会を守る」という未来に向けたターゲットであり、またこのメルクマークとなるのがスポーツであるはずだ。「スポーツの機会を守ることが一般社会の経済活動を守ることにつながる」と言っていい。

 余談だが、コンディショニングコーチの存在は重要で偉大だ。ラグビーを見るとそう感じることが多くなった。

(※1)
 夏のコンディションやトレーニングについて、私が思い出す別のシーンがあった。8月上旬に、ルリーロ福岡がJAPAN-BASEで練習試合を行ったとき、驚いたシーンがあった。真夏の日差しが照り付ける中、試合終了後、ルリーロの選手がゴール間を距離を伸ばしながら往復するシャトルランを敢行していた。距離を伸ばしながら4往復、実質ゴール間を2往復する感じだろうか。厳しいコンディションだったが、秋のためにはこれくらい鍛えなければいけないということだろう。その分コーチ側もマネジメントにさらに最新の注意を払わないといけないはずだ。(ちなみに、コンディショニングコーチの方に話しかけたら、さすがに「フル出場した選手はこの練習を行っていない」とのことだった)

(※2)
 FFGに快勝した9月のリーグ戦終了後に、ルリーロ福岡のコンディショニングコーチの方に話をしたところ、勝利のことよりまず先に出た言葉が「けが人が出なくてよかった」であった。

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