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MLB中継のスコア表示の考察-UX,UIの視点から

これを書いている時点で、MLBは現在ポストシーズン真っただ中である。

NHKの中継だと、画面がこうなるものが多いだろう。右下にあるスコア表示は、よくいえばシンプルだけど、デザインとしてはやや面白みがないし、コアなファンにとっては情報が少ない気もする。

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▲NHKのMLB中継画面


NHKの画面は現地の中継画面からスコア表示を自局のフォーマットに合わせて差し替えたものと考えられる。この差し替えがなく、現地の中継の表示をそのままスコア表示に使っていることもあるが、その違いはよく分からない。一方、オンライン中継のMLB.TV、ABEMAやJSPORTSの中継だと、現地の中継画面のスコア表示がそのまま出てくる。今回のMLBポストシーズンでは、局によるスコア表示の違いが特に興味深く感じるとともに、野球に限らずスポーツ中継のスコア表示のUX、UIについて考える貴重な題材になっている。
この記事では、UX,UIの観点から、プレー映像を含めた全体最適の視点から見やすい野球中継のスコア表示について考えてみる。

1.野球中継のスコア表示の要件

私が思うに、一言で言えば、見やすさとコンパクトさのバランスにあると思う。目立ちすぎて肝心の試合映像の妨げになってもいけない一方、目立たな過ぎて経過やカウント、アウトカウントがすぐわからないことも問題である、個人成績や投球内容などの情報量も多すぎても少なすぎてもいけない。また、画面内での配置も見やすさを左右する。

私なりに、バランスが求められる対立軸をまとめると以下になるか。

・情報量が多い←→情報がコンパクトで面積を取らない
・左上配置←→右下配置(ないしは真下)
・目立つ字体、デザイン、文字←→目立ち過ぎない字体、デザイン、文字

最低限必要な表示は以下になるか。
・チーム名の略記 ・スコア     ・イニング(表裏を含む)
・アウトカウント ・投球のカウント ・塁上の走者配置 

また、現在では表示内容に取り入れられるようになったものとして以下が挙げられる。
・投手名 ・打者名 ・打者の打順 ・投球数 ・球速
・打者の当該試合での成績

上記に加え、個人成績や広告も表示されるようになってきた。

2.スコア表示の事例-2021年MLBポストシーズンより

まずは、2021年MLBポストシーズンに絞ってスコア表示の例を示す。2021年MLBポストシーズンを中継する現地放送局は、以下のとおり。
・FOX (※):ALDSの大部分、ALCS、WS
・TBS:NLWC、NLDSの大部分、NLCS
・MLBネットワーク:ALDS、NLDSの一部試合
・ESPN:ALWC

(※FOXは系列のスポーツチャンネルでのFS1での中継を含む)

以下、上記4つの局の中継画面やスコア表示につき考察する。なお、下記画面はMLB公式HPの映像アーカイブから抽出したものである。そのため、下端に線や時間の表示が入っていることに留意されたい。通常の中継画面ではこうした表示はない

■FOX
・右下に配置
・点数の文字が大きくて見やすい
・チーム名の文字も大きく、背景にはロゴもイメージされていてデザイン性もいい
・フォントも凝っている
・塁の表示が大きくて立体的
・選手名やその日の打撃成績が常に表示されている
・一方、スコア表示が目立ちすぎてうるさく思えることもある。面積も大きすぎるかもしれない。バックの色に黒が用いられていないことも要因か。

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▲FOXの中継画面

■TBS
・左上に配置
・情報量が豊富で、シリーズの現在の行方もすぐわかるようになっている
・黒をバックにしているのも、球場のスコアボードに近い表示で見やすい
・選手名表示もある(投手も出てくる)
・チーム名表示がロゴでシンプル
・面積もコンパクトでうるささは感じない
・一方、肝心の点数の表示が小さすぎ、「何対何」なのかがすぐわからない
・面積に比べて情報量が過多に見える。以下の例だと、サイズと比べたら一番上の行は省いていいように思える。

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▲TBSの中継画面

■MLBネットワーク
・左上に配置
・最低限必要な情報に絞り込んでいる
・面積も大きすぎず、字も小さすぎずにわかりやすい
・デザインもよく、バックに青と黒の半透明を使用しているのもいい
・選手名がすぐわからない

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▲MLBネットワークの中継画面

■ESPN
・左上に配置
・縦の長さが短い分、画面表示を大きく割ける
・この画面のように、投球データの詳細をケースに応じて細かく出せることもある
・バックも黒基調で見やすい
・点数やチーム表示の文字が大きく、すぐに何対何かがわかる
・1球1球の内容を細かに表示する場合もある
・横長すぎて落ち着きがないかもしれない
・左打者のバットがスコア表示にかかる可能性もある

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▲ESPNの中継画面


FOXの中継画面のスコア表示は、実は最近になって変わったようだ。去年のポストシーズンでは、右下に以下のように表示されていた(画面は2020年WSの例)。黒を背景としている面では見やすく、シンプルにまとまってはいたが、文字が小さくスコアがすぐわかりにくかったとともに、字体も面白みがなかった。こうした課題が指摘され、ブラッシュアップしたものかもしれない。

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▲FOXの中継画面でのスコア表示(2020年WS時)

出典は以下のサイト。なお、下記サイト記事で紹介された引用元のツイートでは、「変えない方がシンプルでよかった」というものがみられた。
https://larrybrownsports.com/baseball/fox-new-scorebug-mlb-playoffs/585091

3.どれが最適か:私の見解

前項で取り上げた4局の例から、私の好みを取り上げると、以下になる。
1.ESPN
2.MLBネットワーク
3.FOX
4.TBS

私としては、まずすぐに目に入れたいものは、現在のスコアが「何対何」か。情報を知らないまま中継を付けたばかりのケースではなおさらだ。この点で見やすいのはESPNとFOXだ。さらに言えば、一番目に入りやすいのはFOXで、私の考えるニーズを率直に反映したものだろう。しかし、FOXはこのポイントを強調しすぎて、全体のバランスがやや崩れている感じがある。スコア表示が派手で目立たちすぎて肝心の選手のプレーのインパクトを奪うくらいだ。この点、ESPNの画面は全体のバランスは維持できているとともに、他の必要情報も網羅している。縦が短く画面が広く見える点、詳細なデータを時に見せてくれる点もいい。MLBネットワークの画面もバランスが取れていいのだが、点数の表示が小さいこと、選手表示がないことが難点。TBSは小さなスペースに情報を詰め込み過ぎるほか、肝心の点数の字が小さすぎて見にくいのが気になった。

もっとも、あくまでこれは私の主観であり、一つの見方にすぎず、各局の優劣を団体するものではない。野球への熟知度、デザインへの熟知度で見方が変わる可能性も高い。

さて、皆様は、どの画面が好きだろうか?

追記:レギュラーシーズンのローカル局の例

レギュラーシーズンの現地MLB中継は、フランチャイズがある都市のローカル局が中心になる。以下、ローカル局の例をいくつか取り上げる。

■YESネットワーク(ヤンキース)
ESPNに近い左上配置、横長の表示で、選手名も表記している。あえて言えばESPNより横幅が小さいか。スコア表示の背景は白地だが、決して派手過ぎずバランスが取れている。文字は小さいが、選手名やその投球数、成績もコンパクトにまとめている。

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▲YESネットワークの表示

■Bally Sports(エンゼルスほか多数)
FOXのローカル向けスポーツ専門チャンネルで、2021年3月31日にブランド名をBallyスポーツ(Bally Sports)に変更した。地域ごとに複数あるが、エンゼルス戦の中継を行うのはBally Sports Westである。
2021年から画面の下部に細長くスコア表示を行うスタイルになった。右側には案内や他球場の途中経過も表示できる。画面が広く使えるとともに、スコアの数字もそれなりに見やすいが、写真のように内野手や2塁走者が画面下部の帯の陰に隠れることがあるのが難点。あとは慣れるまでちょっと時間がかかる。
なお、以下の写真はBally Sports Westの例だが、Bally Sportsはどこも同じスタイルである。

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▲Bally Sports Westの表示

■MESN(レッドソックス)
プレーの画面を最大限邪魔しないように配慮されたとみられるコンパクトなスコア表示を画面左上に配置している。プレーが見やすい分、スコアの数字がやや見にくいか。

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▲MESNの表示

■Time Warner Cable SportsNet LA(ドジャース)
画面右下にコンパクトにスコア表示を配置している。チーム表示や球速表示にロゴや色分けを行う工夫がなされている。

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▲Time Warner Cable SportsNet LAの表示

個人的には、この項で挙げた4局の中では、YESがいいように感じた。ヤンキースファンなので見慣れているせいもあるかもしれないが。

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