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瀬戸内寂聴「源氏物語」ショパンのピアノとともに

 

源氏物語の現代語訳はいくつか出ていますが、瀬戸内寂聴さんの訳文は「です、ます」の丁寧語で書かれており読みやすく愛読しております。寂聴さんが仏門に入られたこともあり、源氏物語の女君の出家の決意には、自分で人生を決められなかった当時の女人の唯一の決断が伺え興味深いと源氏談義で述べています。藤壺中宮の出家、女三宮の出家、源氏が最も愛した女人である紫の上の出家は源氏に認められなかったなど、源氏ゆかりの女君について寂聴さんが語る見識は趣深いです。

 寂聴さんの源氏物語には、女優さんが担当した朗読CDが発売されていて、なんとショパンの音楽が伴奏に使われています。源氏とショパンだなんて最初は時代や文化が違うのでミスマッチだと偏見がありましたが、聞いてみたところ、典雅な音楽は平安の宮廷や貴族のサロンに違和感なくしっくりときました。

 源氏には四季折々の描写があり、秋と言えば、私は源氏物語の女君の中で六条御息所とその娘である秋好中宮(梅壺女御)を思い起こさずにはいられません。秋の花がしおれ虫の音がなく秋の野宮で、源氏が、斎宮になる娘と共に伊勢へ下る六条御息所と、最後の別れをする場面では、「暁の別れはいつも悲しいですが、今朝ほど秋の空を悲しく思えたことはありません」と御息所が和歌を詠むところに風情を感じます。

 その六条御息所が亡くなった後、源氏が斎宮の後見になり、冷泉帝に入内させ、斎宮は梅壺の女御となります。女御がニ条院へお里帰りしたとき、源氏が「春秋どちらにお心をお寄せになりますか」と尋ねた際、「秋の夕暮れこそ、亡くなった母の臨終の季節にゆかりがあって、ひとしお身に染みます」と和歌で答えた姿が可憐で、源氏の心を揺さぶるのでした(第十九帖薄雲)。

 寂聴さんも先ごろお亡くなりになってしまいましたが、物悲しい秋の季節にはショパンの夜想曲を聴きながら、源氏物語の雅な世界に浸りたいと思いました。

 ショパンの夜想曲は仲道郁代さんのピアノで、「ノクターン 嬰ハ短調 (遺作)」を。

https://youtu.be/s9SK6L8FE_k?t=8
注)2021年11月15日の過去記事です。

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