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ラヴェル管弦楽伴奏歌曲集「シェヘラザード」

RavelーShéhérazade 詩はTristan Klingsor
 イスラム圏。そこはどんな文化圏なんだろう。アラビアンナイトの物語位でしか知らない私には未知で憧れの場所です。
 フランスの作曲家ラヴェルも、オリエントに異国情緒(エキゾシズム)を感じるのか、歌曲集「シェヘラザード」を書きました。
 原詩は仏詩人で画家でもあったトリスタン・クリングゾルの詩集「シェヘラザード」。トリスタン・クリングゾルは、ペンネームでわかるようにワーグナー好き(トリスタンは「トリスタンとイゾルデ」から、クリングゾルは「パルシファル」の悪役)で、ラヴェルと共に前衛芸術家グループ「アパッシュLa Société des Apaches」に所属していた仲間でした。ラヴェルは作曲に当たって、詩人に何度も朗読させました。
 詩「シェヘラザード」は、東洋趣味で、詩節ごとに絵画のような夢幻の風景が展開されます。ラヴェルはこの詩のJe voudrais (I’d like to ..) ..の無限反復による陶酔感や、絵画的な描写に魅入られたと思われます。冒頭から鳴り響く、東洋の音を思わせる管楽器のフレーズ、詩の内容をうつしたパッセージの数々。
 今回取り上げる「シェヘラザード」第一曲目の詩「アジア」は、船出、前半がペルシア(中東、イスラム圏)、後半が中国、長い間奏を経て帰国という構成で、遠いアジアへの憧れを歌ったものです。
 私が愛読しているオルハン・パムク著「私の名は赤」(トルコ初のノーベル文学賞(2006年受賞))は、代々トルコのスルタンに仕えた「宮廷細密絵師」達の物語。その小説の中に登場する「ホスローとシーリーンの悲恋物語(خسرو و شیرین)」は長い間愛され、その時代の最高の技術を駆使した絢爛な絵巻として描かれる題材です。この細密画を見るたび、ラヴェルの音楽のようにキラキラとして恍惚とします。
 とても好きな歌ですので、良かったら聞いていただけると嬉しいです。フランス歌曲を歌ったら、当代随一のヴェロニク・ジャンスの歌声で。

https://www.youtube.com/watch?v=gOq3nMNM2Ic
●歌詞の一部
アジア、アジア、アジア
おとぎ話のなかの、古き驚異の国、
夢想が、皇女のように眠っている、
謎に満ちた彼女の森のなかで。
(略)
私はダマスカスと、ペルシャ人の街に行ってみたい、
イスラム寺院の塔が聳える街に。
私は見たい、シルクの美しいターバンが
浅黒い容貌と白い歯に映えるさまを。
私は見たい、愛に悩む憂鬱な眼と、
歓びに輝く眼差しと
オレンジのような黄色の肌を。
(略)
そして後に帰国したとき、
私の冒険を夢想好きの人たちに語ってやりたい
シンドバットのように、古いアラブの杯を
ときどき唇にはこび、
巧みに物語を中断させて...

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