J・M・クッツェー「イエスの幼子(おさなご)時代」
初老の男シモンが、5歳の孤児ダービドの母親を探している。二人に血のつながりはなく、移民船であったばかりで、過去もよくわからない。
最初はダービドの親友であるフィデルの母親エレナがダービドに愛情を注いでくれた。エレナは針仕事をする傍ら、趣味でヴァイオリンを教えている。エレナも母子家庭で、4人は家族のように行き交う。
そのうちテニス場で見かけた30過ぎの処女イネスを、シモンはダービドの母親だと直感で思い込み、ダービドを彼女に託す。イネスは母親代わりになるが、フリルがついたブラスを着せて女の子のように扱ったり、ベビーベッドを買って幼児のように扱ったり、母親の適格性にひやひやさせられる。
ときどき心配でシモンはイネスの家を訪れ、ダービドにスペイン語を教えたり、ドン・キホーテを読んであげたりするのが微笑ましい。
ダービドは学校に行くのが嫌なのか、文章の読解力があるのにわざと知らないふりをしたり、教師に反抗的で、学校になじめなかった。そのうち学校側から登校を拒否される。
シモンとイネスとダービドは、車でエストレリータに向かい新しい生活を始めるところで物語は終わる。
ダービトを取り巻く人々が、本当の肉親ではないのに、保護者としてダービドに温かく愛情を注ぐ、不思議な物語でした。主要な登場人物の誰もが、過去の履歴が分からないというのがこの物語に奇妙さを添えています。続編の「イエスの学校時代」はもうすぐ発売なので楽しみです。
読書のBGMは、メシアンの「幼子イエスに注ぐ20のまなざし/Vingt regards sur l'enfant Jésus 」。ピアノは大好きなピエール=ロラン・エマールの演奏で。
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