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『ILY.』と電子書籍

なるめ先生の『ILY.』を読みましょう。
この記事は、表現や装丁に関しての感想を述べたものです。要約すると「『ILY.』すごい!」です。

はじめに

はじめまして。神乃です。

ぴーす(してない)


この記事ではファンとしての視点で勝手に『ILY.』の良さを書きます。ストーリーに関する内容ではなく、表現や装丁に関する内容です。ネタバレは含みません(カバー裏には言及しています)

この文章を執筆時点で、神乃はCOMIC FUZでの連載で13話(Sub13)、紙の書籍で2巻まで読んでいます。(最終回が待ち遠しいような怖いような気持ちです)

『ILY.』とは

なるめ先生による漫画です。
全編フルカラーのドット絵で描かれています。

あらすじ

「俺はずっと、愛理のこと想ってるよ。」姿をくらました高校時代の恋人に、届かぬメールを送り続ける基生。遠い思い出にすがり続けるそんな彼のもとに、彼女は突然現れた――10年前と、全く変わらない姿のままで。1通のメールから始まる、異色の恋愛ミステリー!

出典:COMIC FUZ ILY.

『ILY.』が4/4まで無料で読めます。
(PCからは登録なしでブラウザで見られました。スマホはアプリでしか読んだことがないので未確認です。)

1話もTwitterで読めます。

書籍も2巻まで出ています。

1巻書影
COMIC FUZより引用

1巻は1~4話、2巻は5~9話まで掲載されています。
検索するときや本屋さんで探すときのためにISBNを以下に書いておきます。
1巻は「ISBN978-4-8322-3816-9」
2巻は「ISBN978-4-8322-3846-6」
です。


ドット絵の漫画!

『ILY.』は全編フルカラーのドット絵で描かれています。
(ふきだしと文字はドットではない)
フルカラーという点とドット絵という点で2回驚くと思います。
『ILY.』は全編フルカラー しかもドット絵で描かれています!
作画にかかる時間や労力を考えるとくらくらします。

本誌ではカラーだった扉絵が単行本だと白黒で収録されることも多い地球において、紙の書籍も全編フルカラーです。
「青」が印象的に使われているので、モノクロにしたら捨象されてしまう情報や感動があると考えます。
(出版社さんと印刷所さん、フルカラーで出版してくださってありがとうございます……1人の読者が救われました……)

そして、ぱっと見一般的な漫画の絵に見えますが、ドット絵です。書影と同じ書き込みの絵が最後のページまで続きます。
背景の海とか本当にすごいです。
自分自身がドット絵を描いたり見たりしていて、ドット絵は見る人に「それが何を表しているか」が伝わることのハードルが他のデジタルイラストよりも高いように感じています。プロの漫画家さんの絵を「伝わってすごい」というのは褒め言葉にならないのかもしれませんが、伝わる分かりやすさと表現を両立できることがすごいと思います。

イラストを描いてからドット絵に加工しているのではなく、ドットを手打ちしているらしく、驚きました。(個展に行った際に作者さんが在廊してらっしゃって、質問にやさしく答えてくださいました。)
当時の僕は小さいドット絵しか描いたことがなかったのですが、大きいキャンバスサイズの絵や等身の高い人物を描くようになって、あらためてすごさを実感しました。

また、題材とドット絵という表現技法が合っていて、読者に訴えかける力(「良い作品に殴られる!」感じ)を強めていると思います。

電子媒体の『ILY.』の良さ

色の鮮明さ

『ILY.』では目が痛くなるくらいの鮮明な青が印象的に用いられています。
みんなで一緒に眼球を青さで焼きましょう。
部屋の明かりのせいもあるのかもしれませんが、印刷版だとどうしても少し青が暗く見えてしまうように感じました。

もしかして、デジタルだと作者さんが見ていたのと同じ色を読者も見ることになるのでしょうか。アナログだと原稿だと作者さんが見ていたものからスキャナやカメラを通ったものを読者や鑑賞者は見ています(だから原画展に行き「これが肉筆かー! すごーい」「作者さんって実在してるんだ……」をする)が、デジタルはそのままのデータが載ってるんですか。産地直送ってことですか。

閲覧するデバイスが発している光によって、ページ全体が光っています。
それが、『ILY.』において魅力的な舞台装置として機能しています。

作中では、バグって映像が乱れているような表現や、デジタルっぽいビカビカの光が出てきます。また、スマホやガラケーなどの画面も登場します。それに実際のデバイス(読者が閲覧している)が与える機械的な光がよく合っていると思います。

また、作中で光っているものも本当に光って見えます。(印刷物と色が違って見えるせいもあるのかもしれませんが)
例えば1話のガラケーのボタンが光っているところは、電子媒体で読んだ時の方が紙媒体で読んだ時に比べて印象が強く残りました。
加算発光レイヤーはデジタルデバイスで閲覧するものと相性が良い気がします。

液晶越しに見ること

デバイスの液晶は普段物語を読んでいると感じませんが、確かにそこに存在しています。

スマホで手に持って読んでいると、1話や13話の、1ページ全部を使って描かれたガラケーの上半分が、実際に自分が手に持っているように感じました。

パソコンに向かって見ていると、1話の「大好きだよ 基生」と手を広げる愛理のシーンは本当に愛理が僕(読者)に向かって出てきたように感じられました。(演劇の「第4の壁を破る」ってこんな感じですか)

しかし、読者と物語世界を隔てる液晶の平たさが、冷たさが、無機質な硬さが、それは現実でないことを突き付けてきます。
液晶に映ることで「現実のように」感じられ、液晶に映っているから「現実ではない」と分かる、不思議な体験をしました。

『ILY.』の表現や物語とデジタルデバイスの親和性が高いです。

紙媒体の『ILY.』の良さ

落ち着いて読める

前述したように、『ILY.』では目が痛くなるくらいの鮮明な青が度々登場します。
僕は単行本では9話まで一気に読めたのにCOMIC FUZの13話までの無料キャンペーンは途中で目がきつくなってしまいました。
個人差はあるかもしれませんが、一気読みには紙媒体の方が向いているのではないかと考えました。

また、電子媒体の方がインパクトが強く感じられましたが、紙媒体の方が物語の内容に着目して読めたように感じました。

この辺は主観的な部分が強いと思うので、他の人にも話を聞いてみたいです。

ドット感

前述したように、『ILY.』はドット絵で描かれています。
電子媒体よりも紙媒体の方がドット感を強く感じました。

一般的に電子媒体で閲覧する作品を作る時は印刷時よりも解像度を下げてデータを小さくします。
COMIC FUZで掲載されている漫画も同じか、『ILY.』がどのくらいのサイズで描かれているのかは分かりませんが、電子媒体よりも紙媒体の方が鮮明なのかもしれません。
紙媒体の方がドット絵であることが分かりやすかったです。
単行本はスマホよりも大きいサイズをしており、パソコンの画面よりも近くで読むことができることも関係しているのかもしれません。

デジタルでドット絵を見ることは多くても、アナログでドット絵を見ることは少ないのでその点も新鮮でした。
読者に違和感を与えられて、ドット絵であることを強く印象付けられるのではないかと考えました。
(リアルに寄せすぎたドット絵はただの画質の悪い画像に見えてしまうことがありますが、『ILY.』を読んでいてもそれが少ないのでなるめ先生はデフォルメがうまいのだと思います)

装丁

表紙のカバーは、1巻2巻共にメインキャラクターである愛理が同じ位置に同じ大きさで描かれています。そして上部にはガラケーを想起させる電池マークや時間の表記があります。
1巻よりも2巻の方が電池が減っていて電波もバリ3ではなくなっています。そして、愛理の姿もノイズがかかったように変っています。
(このままいくと3巻で電池と電波が1目盛になって、愛理の画像がもっと乱れるのでしょうか)

カバー裏は、ブルースクリーンのような青色に白い線で愛理が書いてあります。本文よりつやつやの紙を使っているのと、カバーよりも明るい青で印刷されています。「電子媒体で見た色だ!」となりました。

ガラケーの中の愛理(=カバー)の裏、或いはもっと見ようとすると、ブルースクリーン(=カバー裏)なの良くないですか。苦しい……

背は可読性が高いし、1巻と2巻で色が対になっています(3巻どうなるのか楽しみです)
また、個人的な好きポイントなのですが、青と白を基調にしているため、たとえ長期間本棚に入れていて日に焼けてしまっても(そうならないことを願いますが)退色しにくいと考えられます。赤系の文字は読めなくなってしまうので、長く手元におきたい本の背が青や黒ではっきり書かれているとうれしくなります(自分が装丁するときは意識的にそうしています)100年後まで残れ……

電子書籍・紙の書籍

電子媒体の『ILY.』には、色の鮮明さ、光や液晶といったデジタルデバイスによって引き立てられる作品の魅力、インパクトなどの良さがありました。
紙媒体の『ILY.』には、落ち着いて読めて一気読みがしやすいことと装丁(この2つは『ILY.』だけでなく紙の書籍全般に対していえるかもしれません)、ドット絵であることが際立っているという良さがありました。

自分は今まで紙の書籍派でした。
自分の作品(特に小説)も、サークルやTwitterで発表する時には電子媒体で発表していましたが、それは一時的な状態であると考えていて、文学フリマなどの機会に同人誌として紙でまとめていました。

電子書籍のメリットは持ち運びやすさと検索できることぐらいしか知りませんでした。
しかし、『ILY.』を通じて、デジタルデバイスを物語の魅力を引き立てる舞台装置として利用できることに気がつきました。

「電子書籍VS紙の書籍」に関しては、自分も使用者としての議論は散々しました(ディベートなどの題材でも使われます)が、表現者としての議論はあまり見かけたことがありませんでした。
せいぜい「手軽」(手間や金銭面、個人でもしやすいか)の尺度でしか語られてこなかったように思います。
(神乃が知らないだけだったら教えてください)

電子書籍は、デジタルでしかできない表現(動画やリンク)を使えるだけでなく、電子書籍でしか出来ない(メタ的な)表現があると思います。『ILY.』はそこを上手く使って演出出来ていると思いました。(COMIC FUZでの連載で、次回予告が入ってブルースクリーンのようになっていたページが紙の書籍だと真っ青+ロゴだけになっていました。次回予告の入れ方も上手いと思いました。)

おわりに

最後までお読みくださりありがとうございました。

『ILY.』すごい!

『ILY.』大好き!!


参考文献

(閲覧日2022年4月3日)

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