斎藤幸平(2020)『人新世の「資本論」』集英社新書

資本主義の弊害を脱成長の主張で乗り切ろうとする試みの最新版。昨今話題の気候変動を絡めて脱成長の必要性を訴える点と、マルクス主義の新解釈として脱成長を唱える点が新規性である。

筆者は従来の脱成長を「脱成長資本主義」であるとし資本主義の内包する矛盾から決別できていないから実現不可能であるとする。その上で、消費ではなく生産にメスを入れ、資本主義そのものを解体すること、つまり「脱成長コミュニズム」を樹立することで真に脱成長は実現できると唱える。
しかしながら、この筆者の主張する資本主義観は果たして妥当なのであろうか。資本主義は本当に無限の資本増殖を実現し続けなければ存続しないシステムなのであろうか。緑の経済成長や定常型経済を斥けるには筆者の言はまだまだ不十分であると言わざるを得ない。

筆者の主張する協同組合的連帯による草の根からの社会変革を否定するものではないが、資本主義の枠組みのなかで「人にやさしい経営」などの取り組みを通して適正利潤を意識する経営者を否定することも出来ない。方策は一つに絞られるべきではないが、本書の問題意識を多くの人が共有しそれぞれの立場で行動することが死活的に重要であることには全面的に同意したい。

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