永井均(2011)『倫理とは何か:猫のアインジヒトの挑戦』ちくま文芸文庫

道徳的によいことは何故推奨されるのかというところから、最終的に道徳は虚構であり、全ては利己的なものが支配していると主張する本書。そして、利己主義の例外は他者への利益供与を目論む「愛」の状態だとしながら、その場合は道徳を推奨しないことを求める。

一見すると核心を突いているようだが、筆者もまた議論を回避している一つの前提を持っているように思えてならない。むしろ、哲学というものはいくら革新的な見方をしてみたところで、誰もが各々の前提に囚われるのだということを皮肉にも示してしまった感を受ける。「個人の意思」というものへの信頼が余りにも希薄ではなかろうか。

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