創作短編小説(最後に自己紹介あります)

【桜の世界の夢】

不思議な夢を見た。

辺り一面が桜の花びらで覆われている。相当深く降り積もっているようで、油断すると足が沈んでしまいそうだった。
それでも私は臆することなく、花びらを踏みしめながら前へと進む。
空は白く、地面は地平線まで淡い桃色だ。何処からともなく桜の花びらが降り注ぐ。建物も何もない、異様なその世界を、一人歩いていく。数日後に入学する高校の制服を着て。
後々考えると不思議なことばかりだけれど、夢の中では起こる全てが当たり前なのだ。だから私は何も疑問に思わずに、目的地へと向かった。

目の前に、一本の桜の木が現れた。
公園や学校に生えているのと大差ない、標準的な大きさのその木の下で私は立ち止まり、にわかにしゃがみ込む。
私は、積もった花びらをただひたすらに掻き分け始めた。柔らかく滑らかなその手触りは心地よかった。掻き分けた桃色は山になっていく。
そうして掘り進めるとやがて、白い布地が中から見えてきた。
人が、埋まっているのだ。

『ーーちゃん。』

満面の笑みで、私はその名を呼んだ。嬉しい気持ちで溢れていた。
聞いたことの無い名前だった。けれど何故か、聞いたことのあるような名である気もした。

彼女は、花びらの中から起き上がった。
ヒラヒラとたくさんの花びらが舞っていく。

私と同じ制服を着ていたが、彼女は知らない人だった。ただ、同い年くらいの彼女は、どことなく見覚えのある顔にも思えた。
『……おはよう。』僅かに微笑んだ彼女の声は、落ち着いた、優しい声だった。

そこから私達は、座ったまま向かい合って沢山の話をした。何を話したかはあまりよく覚えていないけれど、
『何の飲み物が好き?』と尋ねたら、
『…ミルクかな、あなたは?』と返ってきた。
『健康的だね!私はコーラが好きだよ、でも健康に悪いっていうからなぁ……』
主に私が話し手で、彼女は聞き手だった気がする。
私は、その間ずっと幸せだった。何故かは分からないけれど。
『あ、前髪に花びら…』
『えっ、取って』
『うん。』そう言って彼女の手が私の前髪に伸びた。ひんやりとした白い手だった。
『ありがとう。』お礼を言うと彼女はまた微笑んだ。

『……そろそろ、行かなきゃ。』私は立ち上がった。何処へ行かないといけないのか、分からないけれど、行くべき場所があったらしい。
『そっか、じゃあね。』私を見上げた彼女の顔は、少しだけ儚く見えた。
『またね。』私は手を振り、彼女に背を向けて歩き出した。
振り返ると、彼女は座ったまま私に手を振っていた。
『さよなら。』微かな声でそう聞こえた。


私はもう一度その不思議な世界を進んでいく。

何となく哀しい気持ちになった。

足を進める。

心が締め付けられていく気がした。

足を進める。


涙が零れてきてはじめて、その気持ちが[寂しい]というものなのだと気がついた。

私は立ち止まり、元来た道を引き返した。
私は走っていた。目的地に、桜の木の下に、一刻でも早く着くために。


彼女は、そこに横たわり、再び眠っていた。
その寝顔がとても綺麗で、とても安らかそうだったから、私は彼女を起こそうとは思わなかった。
彼女の身体は早くも桜の花びらに埋もれつつあった。私は暫くそこに立ち尽くしていた。
そして『…おやすみなさい。』と呟くと、また歩き出した。
❀❀❀
これが今しがた私の見た不思議な夢だ。
部屋の窓から朝日が差し込む。その向こう側では何処からともなく桜の花びらが降り注いでいる。
私1人のためにしては広いような部屋を見渡す。カレンダーが目に入る。そういえば、今日は私の誕生日だ。

部屋を出て、階段を降りて、リビングのドアに手をかけた。

「本当に、言うのか?」
「ええ……あの子ももう15歳、高校生なんだし。」

「何の、話?」

そう尋ねたけれど、硬直した親の顔と、テーブルの上に置かれたそれを見て、私は何を言われるのかを察した。

リビングのテーブル、何時もは新聞や雑誌やテレビのリモコンが乱雑に置かれている筈のそこには、今日はただ、小さなロケットペンダントだけが置いてあった。

中にはきっと、15年前に死んだ「彼女」の遺髪が入っているのだろうと分かった。








【自己紹介】

はじめまして。四葉と申します。

マイペースに小説を上げたいなぁ……そんな事を思いアカウント作ってみました。まだ全然使いこなせてないですが、どうぞよろしくお願いします。

小説に関しては新しく書く予定もありますが、少し前に趣味でいくつか短いものを書いてあったりするので、それらを改稿したものを上げたりもします。

主に、少女2人のシチュエーションを好んで書きます。(百合のように感じるものもあるかもしれません。そこは読み手の皆さんの捉え方にお任せします。)

今回の作品、実は半年以上前に書いたものです。桜っていいですよね。

それではまた。


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