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ショートショート「バーチャル・ディストピア」



21世紀末から22世紀初頭、そこには暗いディストピア社会が広がっていた。経済格差の拡大、環境破壊、政府の監視と統制が支配する現実に、人々は精神的な逃避とストレスの軽減を求めていた。その中で、革新的な技術であるイマジネーションプラントが普及している。
イマジネーションプラントは特別な植物を通じて開発され、脳との相互作用によって感情や創造力を刺激する成分を放出する。人々はその葉を摂取することで現実からの解放とリラックス、そして想像力の向上を体験できるのだ。更に、バーチャルリアリティ技術と組み合わせたイマジネーションプラントは、VRヘッドセットと脳波センサーを用いて、ユーザー自身のイマジネーションを鮮明に再現することも可能なのだ。

しかし、この技術には懸念も存在する。政府や企業がイマジネーションプラントの使用を監視し、個人の意識や夢想を制御する可能性がある。その監視と統制によって個人の自由とプライバシーが侵害される危険性が潜んでいる。また、イマジネーションプラントへの過剰な依存や使用は、現実との区別がつかなくなり、ユーザーが社会から孤立してしまう恐れもある。更には品質や成分の問題が引き起こす身体や精神への悪影響にも警戒が必要である。

物語は夢幻の都と呼ばれる場所を舞台に展開する。この都は必要とするものが何でもそろう近未来的な空間である。そこには高層ビルがそびえ立ち、光り輝く広場が広がり、美しい庭園が存在している。人々は洗練されたデザインの店舗やレストランで贅沢な食事やショッピングを楽しむ。最新のテクノロジーによって作られた快適な住居や娯楽施設があり、暗い現実の日常から逃れることができる。
しかし、その光輝く都市の裏には深い闇が潜んでいる。都の実情はイマジネーションプラントの普及によって形成された社会であった。最初のうちは人々が喜びと解放感を感じていたが、次第にイマジネーションプラントに取り憑かれた市民たちは現実世界への興味と関心を失い、幻想の中での生活を追い求めるようになる。夢幻の都は個々の幻想の集合体となり、社会全体が停滞し、腐敗が広がっていく。

物語の中心には、夢幻の都において変革を目指す一部の市民が登場する。彼らはイマジネーションプラントの中での自己の喪失や社会の腐敗に気づき、夢と現実のバランスを取り戻すために奮闘する。彼らは夢幻の都の闇に立ち向かい、変革を試みるが、その努力は表面的な変化にとどまる。夢幻の都は依然として変わらないキラキラとした日常を装い続け、市民たちは自身の幻想の罠に閉じ込められていくのだ。

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