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シリウス11F84 -光の色-: 教育LARPの視点から見たLARP体験

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さて、今回は2024年1月20日に、都内にて行われた教育LARP「シリウス11F84 -光の色-」について、レポートする中で、日本における体験型コンテンツの教育目的での利用の在り方と可能性について考察する上で、端緒の端にでもかかれるよう、記録のひとつとして記させていただきます。

さて、そもそも、教育LARPとはいったいどのようなものでしょうか?日本においては、あまり耳慣れた言葉ではありません。

教育LARPとは?

教育的な目的を持ってLARPとして設計された体験型のコンテンツを提供するものです。通常、これらのイベントは学習者が参加し、実践する事で、特定のテーマや概念を理解する機会を提供します。

教育LARPの特徴や利点

体験的学習: 教育LARPでは、参加者が単に情報を受け取るのではなく、実際に体験や実践が行われることが重視されます。参加者は自分自身がキャラクターとして行動し、特定の状況や課題に対処しながら学びます。

共感と理解: LARPとして状況を介することで参加者が他人の視点や感情に共感する機会を提供します。特定の役割を演じることで、参加者は他人の立場や状況を理解し、異なる視点から問題を考えることができます。

問題解決能力の向上: 教育LARPは、参加者に特定の課題や問題を解決するための能力を養う機会を提供します。参加者は現実的な状況に直面する中で、創造的な解決策を見つける必要があります。

コミュニケーションスキルの発展: LARPはチームワークやコミュニケーション能力の向上に役立ちます。参加者は他のキャラクターと協力し、情報を共有し、効果的な意思疎通を図る必要があります。

自己成長: 教育LARPは現実的な実践を通して、参加者の自己成長を促進します。新しい状況や役割に当事者性をもって対処することで参加者は自信を深め、リーダーシップ等の能力を発揮する機会を得ることができます。

海外においては、教育LARPは、学校や教育機関、地域NPO、企業のトレーニングプログラムなど、さまざまな機会に活用されています。参加者は現実的な状況を体験すること、体験後のディブリーフィングを十分な時間を行う事で、理論や概念を実践的に理解し、持続的な学びにつなげる事ができます。

シリウス11F84 -光の色-とは何か?

「シリウス11F84 -光の色-」は、教育的なLARPの視点から内容が構築され、それを基にしてLARP体験が提供されるイベントでした。LARPによって提供された経験を通して、参加者は、普段の生活ではあまり自覚することが難しい、異なる状況や感覚に置かれる人々のストレスや制約を理解することに至るものでした。

シリウス11F84 -光の色-のスペックは、以下のように整理できます。

プレイ時間 :10時間 実プレイ:6時間 プレイサポート(休憩を含む):4時間
参加者の構成:オレア星人:10名  地球人:4名
スタッフ構成:GM:2名 サポートスタッフ:2名

ルール:「参加者とキャラクターはイコールではない」「見たものもそのまま、できることもそのまま」など

スタイル:サイエンスフィクション、近未来、運命劇、対立・論争・衝突を演じる、配役配布型

コンテンツの詳細について、まだまだ調整が行われている最中の出来事であるため、コンテンツのコアとなる部分についての詳細を記載することは難しいため、公開された情報を基にし、レポートさせていただく形になります。

運命劇というスタイル

シリウスは、運命劇という概念を用いており、参加者たちに物語の大まかな流れや結末を予め伝える事で、その過程に起こる出来事に対して「対立」したり「孤立」したり「言い争う」などの要素をあえてプレイすることができる余地を作り出す仕掛けとして機能するものでした。

例えば、プレイの最序盤にはメインキャラクターである地球人たちが彼らの目的としたことを「成し遂げる事ができた」ことを印象付ける場面が演出されます。

もちろん、参加者達はその途中経過について一切わからないため、振る舞いがぎこちなくなるところですが、実は大丈夫。前もってGM(ゲームマスター)から「この後のシーンでは、〇〇のような内容が展開されます。皆さんは内心戸惑うでしょうが、成し遂げる事ができた事について胸を張って堂々と受け答えをする振る舞いさえすれば大丈夫です!」など、説明がされます。

こうした説明は、ある程度のプレイ単位の都度にサポート時間の中で定期的に行われ、参加者自身が困惑したり、ストレスを感じたりといった事柄にならないための機能として働いていました。

プレイサポートの時間に行われるワークショップ

本LARPは、見たままがその通りであるなど、現実的なアクションが可能な反面、参加者とキャラクターたちの知識や常識、文化的理解などについては、著しい乖離が存在することがありました。これは、オレア星人という宇宙人を演じる参加者たちにとっては、より顕著なものでした。

予め提供されていた情報だけでは十分に理解しきれない事を、実際のロールプレイをワークショップとして行う事で理解していく事はとても大切なプロセスでした。

また、オレア星人たちは地球人をテストする立場でしたが、そのテストの内容については当日に自分たちで決める必要があり、そのためのワークショップなども行われていました。

異文化との遭遇? 理解ができない不愉快さとの付き合い方

本LARPが提供する時間は、キャラクターにとっては必ずしも「快適」な状況を提供するものではありませんでした。参加者のキャラクターのうち10名がオレア星人という、地球に住む我々とは全く異なる価値観・文化を持つ存在であり、地球人としてのキャラクターたちはオレア星人たちと出会った瞬間から、コミュニケーションをとるには困難な環境、全く会話が成立しない、などといった困難さに直面します。それでも、地球人のキャラクターたちは、交渉の成立に対して強いモチベーションを持っているため、なんとか成立させようとしますが、最序盤においてはこれは全く成功することができない状況に陥りました。

勿論、これはLARPとして行われていることをその場の全員が理解している上での出来事ではあるものの、その場面の後に設けられた休憩時間では、地球人達の「インプレイ時の」部屋の中は「まるでお通夜」のように沈鬱な雰囲気となったのは、とても印象的な出来事でした。

しかし、それを打開するように「このままでは交渉にならない!」「言葉は理解できるのに、こちらの言葉が通じていないようだ」「どうすれば、こちらの言っていることを相手に伝える事ができるだろうか?」といった議論がキャラクター同士で真剣に交わされることで、今目の前にある問題に対して強い当事者性を持って解決にあたることを、参加者たちが意欲的に取り組んでいる様子が見られました。

これは、「ゲームとして仮定の状況を仮定の目標を達成するために、キャラクターとして振舞っている」ことで、もしこれがリアルにわが身に起こったとしたら、という冷静にはなりにくい事柄について、努めて客観視しながら、冷静に問題解決に向かう事ができる。といった効果があったようにも思われました。

地球人たちが上記のようなエピソードの中で自然と行っていた「理解ができない不愉快なこと、に対して、それでも自分自身の価値を認めてもらうために環境に順応し、相手のルールを理解した上で対応すること」これが、本LARPにおいて、肝となる設計思想に繋がっています。

ここまでに述べてきたように、本LARPでは、私たちが稀に直面する「理解しがたいルール」や「コミュニケーション相手との間で発生する齟齬」「環境的な不愉快さからくる強いストレス」等に曝されながら、それでも「社会的に承認を得なければならない側の人間」として振舞う(側に立つ、もしくはしている他者を見る)事になります。

そして、この体験は、私たちが実世界で直面する可能性のある様々な課題に対する理解と対応能力を高める機会となります。例えば、異文化間のコミュニケーション、困難な対人関係の管理、さらには自己認識の拡大に至るまで、LARPは参加者に多様な視点からの世界の見方を実践を通して体感させてくれます。

「シリウス11F84 -光の色-」がもたらすもの

参加者が自らの内面に眠る潜在的な能力を引き出し、自身の周囲の環境を踏まえて、行動や考え方を深く見つめなおす機会を提供するものでした。このような機会は、日常生活においても、より良い決断を下すための基盤となり得ます。

教育LARPはまた、そこで過ごす時間を通して参加者が自身の強みと弱みを認識し、それを受け入れる過程を大事にします。その過程を受容することは、自己肯定感の向上に繋がり、他人との関係を築く際にもポジティブな影響を与えます。参加者は、彼らが体験した架空の世界での学びを通じて、現実世界で直面する課題に対して、より柔軟で創造的なアプローチを取ることができるようになることが期待されます。

LARPはまた、集団内での役割分担や協力の重要性を経験します。参加者は、目標を達成するために他者と連携する経験を通じて、チームワークの価値と、個々の行動が集団全体に与える影響について学びます。このような経験は、職場や社会生活においても非常に重要なスキルとなります。

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