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人が育つ仕組みに迫る!「遠くても、通いたい保育園。」の人材育成【社会福祉法人山ゆり会法人本部長・松山圭一郎氏インタビュー:前編】

少子化が進む中で、いかに持続可能性を持ち、選ばれる保育園になるか。
これは、多くの保育園が直面する経営課題である。選ばれる保育園になるためには、保育の質の向上が必須なのはいうまでもなく、より保育士の人材育成の重要性が増すことになる。

今回は【遠くても、通いたい保育園。】をテーマに、大手ディベロッパーを務めた経験を活かし、業務改善や人材育成で先鋭的な取り組みをしている、社会福祉法人山ゆり会法人本部長・松山圭一郎氏に、法人の取り組みや、人材育成にかける想いを取材した。

松山圭一郎
社会福祉法人山ゆり会 法人本部長 まつやま保育園園長
大手ディベロッパーを経て現職。茨城県守谷市、龍ヶ崎市で保育所4園、小規模保育所1園を経営。経営参画時にコンセプト「遠くても、通いたくなる保育園」を設定し、働き方改革、セルフブランディング等を実施した。現在、周辺市5市から利用者を獲得するなど、PR戦略等で成果を挙げている。

聞き手:中西助三


スキルをステージで分ける



山ゆり会の人材育成はどのようにおこなっているのですか?

「評価方法としてもともと、賞与に使用する人事考課はありました。ただ、職能評価と人事考課は違うので、ちゃんと職能評価を作ったんです。
職能評価は大きく分けて【専門性】【組織性】【指導性】の3つに分かれています。それぞれの分野でステージ1、ステージ2、ステージ3……のように、ステージを6つに分けています。ステージごとのチェック項目があり、それを全部満たすことで、次のステージにあがれるようになっています。」

人事考課…企業で定めた基準に基づき社員の実績や業務態度、能力を評価する制度。
職能評価…仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を、業種別、職種・職務別に整理したもの。

ステージに経験年数などの目安はありますか?

「ステージ1は新卒、ステージ2は2・3年目、ステージ3はクラスリーダー……といったようなイメージです。内容でいえば、例えばステージ1では『先輩の指導に基づき社会人の基本を学ぶ』と先輩からの指導に基づいて、仕事をこなせるようになっているか、などがあります。
しかし、この経験年数目安は取ろうと思っています。実際には、それぞれの個性や能力には差がありますし。」

ステージの活用方法について

このステージやチェック項目はどのように活用されるのですか?

「面談をする前に、自分のステージの課題をセルフチェックして臨んでもらいます。管理者も、面談する人それぞれのチェックをし、照らし合わせることで『自分はできていないと思っているけど……管理者の目線ではできていると思う』『自分はできているけど……管理者からすると、もう一歩!』という場合もでてきます。
こうしたキャリアパスを可視化しておくことで、それぞれの目線からの評価を話しやすくすることができるようになります。これはとても大きいですね。
自分はできていないと思う項目、管理者もできていないと思う項目、それを指標としてわかりやすくする。すると、『じゃあ、どうやったら出来るようになるのかね?』という、次のステージに向けた建設的な話し合いをすることができるようになるんです。」

"自分の立ち位置を知る"ことが重要


【できない部分を責める】というような構図ではなくなり、同じ目線で課題解決を考えることができるようになるわけですね。
しかし、例えば、ずっとステージ2にいるな、成長が止まっているな……という職員がでてきませんか? そのような職員へはどのようにアプローチしますか?

「ずっと同じステージで止まっている人は、そんなにいないです。同じステージにいても、全く何も変わらないなんてことはありませんからね。仮にチェックが大幅につかなかった人でも、『前回はこれがつかなかったけど、できていないことが減ってきたよね』ということを認めてあげることが大切だと思っています。
【できないこと】を責めるつもりは全くなくて、自分の"立ち位置”をちゃんと知ってもらうこと。これが大事なことだと思います。」

“自分の立ち位置を知る”これはとても大事な気がします。経験年数の割りにはスキルが伴わなかったり、役職に就くことを嫌がる職員もいますものね。

「そうなんです。評価基準を明確にしておくと、職員が評価に対する納得感をしっかりもってもらえます。
例えば、クラスリーダーのポジションに配置されない職員がいたとする。そんな時も『クラスリーダーではない理由』が理解できる。逆に『なんで私がクラスリーダーなの?』と思う職員には、『あなたはこれだけ能力があるからだよ』と伝えられる。指標をしっかり持っていれば、説得材料にも使えることができるんです。
仮に、若くしてクラスリーダーになった場合でも【この部分を学んでいけばいい】というフォローもできて、前向きに話ができます。」

"人が育つ"指標を作る


それがキャリアパスを作成した理由なのでしょうか?

「まさにその通りです!
保育という業界は、園長の主観や主任の主観、保育士の主観など……誰かの主観が大きくモノをいうのが特徴的な業界だと感じています。
『この子はいい子だ』『この子はちょっとできない子だ』のように。でも、ひろゆきさんじゃないけれど、それって【あなたの主観ですよね?】って話なんです笑。
例えば、園長から見たらそうかもしれないけれど、主任から見たら全く逆の評価になる、なんてことよくありますよね。あとは、保護者から人気があるけど、職員から人気がない場合や、その逆のパターンも。
それって違うと思うんです。その人の主観や判断で教育をするのって、ものすごく難しいし、数字で結果がでてこない。
逆に、数字で結果が出る仕事であれば、その人に多少の課題があっても、数字さえ達成していればいいよ、なんて考え方もできますが、保育の業界はそうじゃない。本来は平均的に、ある一定のラインでみんなからキチンと評価されることがあるべき姿なんです。
でも、どうしても評価するのは人だから……バラつき感や凸凹感がでてしまう。その凸凹感を『この人のこういう部分良いけど、こういう部分は苦手だよね』で終わってしまって……『じゃあダメな所をどうやって変えていくのか?』っていう話にならないのです。
何をどうやったら改善できるのか、指標がない中で、ダメ出しされて、終わってしまって、その人の何が本当にダメなのか分からないままに、気持ちが落ちて……『なんかこの園あってないな。ダメだな』という状態になってしまう。
大切なことは、何ができて、何ができないのか、きちっと分かるようにしてあげる。その上で出来ている部分は認めてあげて、出来ていない部分はどうやったらできるようになるか一緒に考える。人間、自分ができていない部分は何となくわかるんですよ。そうなると、自分ができていない部分をどうやって出来るようにしていくのか、建設的な議論ができるようになってくるわけですよ。それをするためにはちゃんと指標が必要なんです。」

職員と同じ目線で歩む

”人が育つための指標”を明確にしてあげることが、成長や育成に大切なのですね。指標を明確にしたことで、職員の意識は変わったのでしょうか?

「離職が減ったという実感があります。働きがいに繋がっているかどうか……は少し微妙なところです。どちらかというと、ケア的な側面が強いのです。
ただ、不満には繋がらないですよね。管理者が決定したことに『なんでですか』となりにくい。管理者も職員も分かりやすい。園長との面談が『楽しいです』っていってくれるんです。それはとてもありがたいですね。
例えば、ある課題を抱える職員がいたとする。その職員に課題を正直に伝えて、一年間、顔を向き合って、課題をどうやって乗り越えようか考えて……最後に一緒に振り返って、達成できた時は喜び合って。そうやって管理者と職員が一体となって歩むことが大事なのかと思います。」


なるほど。同じ目線で歩むために指標の存在が必要になってくるのですね。


後編では「キャリアパス作成におけるポイントやファーストステップ」について、引き続き松山氏よりお話を伺います。

文・中西助三(こびと園長)

社会福祉法人 山ゆり会


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