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サービス業の生産性を上げ、おもてなしを輸出する「ClipLine」創業ストーリー

こんにちは、ClipLine株式会社 代表取締役社長の高橋です。

2020年4月7日の緊急事態宣言から1年。コロナ禍に翻弄される中で新しい生活様式が生まれ、非接触・非対面でのコミュニケーションが急速に浸透しました。当社の顧客にも店舗マネジメントや人材育成のデジタル化を一気に進めた企業が多数存在しますし、これから大規模なDXに取り掛かろうとしている企業もあります。まさに世相を映し出すような変遷を目の当たりにして、苦境に立たされている外食や旅行業などが活気を取り戻していく姿を一緒に思い描いているところです。それらの事例についても折を見てご紹介していきたいと考えています。

さて、今回は第1回目なので、創業ストーリーについてお話します。僕が起業してClipLineで実現したかったのは何か、改めて表明することで、自分自身を振り返る機会にもなると思っています。

サービス業はバラツキやすい

僕は新卒でアクセンチュアに入社し、ITを使ったコンサルティングを一通り経験した後、もっと経営に寄せた仕事をしたいと思い、ジェネックスパートナーズという米国大手戦略ファームからスピンアウトしたコンサルティング会社に転職しました。

そこで、外食や小売などのナショナルチェーンブランドの経営改革を支援する中で、多店舗展開企業の業績を上げるには、本部で優れた戦略設計をするだけでは不十分であり、アルバイトを中心とした現場の働き方を改善するための実行管理が不可欠だと感じるようになったのです。

皆さんも外食や買い物をする中で、お店の人の対応や商品のクオリティについて、同じチェーンなのに店舗によって違うと感じた経験があるのではないでしょうか。一部の企業を除き、たいていの場合は本部から指示された同じマニュアルに従って接客や調理をしているのに、現場で正しく再現できていないのです。

例えば製造業であれば、決められた製造工程があり、それに沿って作るヒトがいて、クオリティをチェックする工程やヒトが別に存在します。だから規格外のものは出荷されないのですが、多くのサービス業にはチェックの工程がありません。

マーケティングの第一人者 フィリップ・コトラーは、サービス業には無形性(形がない)、同時性(生産と消費が同時である)、変動性(顧客によって対応を変える)、消滅性(後に残らない)という4つの特徴があると言っています。

品質をチェックできないのは1番目の無形性(ヒトによるサービスは形がない)、2番目の同時性(料理を作ったら即消費される)などに起因するものですが、このため「店舗によるバラツキ」が発生し、業績の底上げを難しくしているのです。ここで言うバラツキは提供品質のバラツキですが、もっと言うなら店舗に配属されている人件費のバラツキや原価のバラツキなど、それはもう経営資源を配分するというマネジメントレベルでのバラツキもありますが、その話はまた別の機会に譲ります。

「店長支援」がキーになるのはわかったものの…

ではどのように現場の実行管理をすればいいのか。改善ポイントは色々あるのですが、間違いなく一つのキーとなるのは「店長・拠点長」と言われる人たちの存在です。

店舗力、拠点力を支えているのは多くの場合、パート・アルバイトなどの非正規社員です。その人たちにどれだけ活躍してもらうかは店長次第なのですが、その店長の力量にもバラツキがある。実務だけでなく人心掌握力に優れるような抜きんでた実力をもつ店長は何も必要ないかもしれないが、そうでない「普通の」店長には何か武器を与えないといけないのではないか。

前職での経験で僕がひしひしと感じたのは本当にこの点につきます。本部の施策、熱い想いを現場の数万人に届けるのに、クライアントは多大な労力を使ってきました。当時はスマホがありませんでしたから、PCのメールやガラケーを駆使し、テキストや図表、静止画像を使ったりとあの手この手で指示伝達するのに加え、本部に店長を集めて対面で指導という形です。

しかし、たいていの場合、その多大な労力を使って伝えるのは店長・拠点長まで。その先のパート・アルバイトには店長が持ち帰って伝えるケースが多かったのです。

サービス業が人手不足にあえいでいた当時、現場には外国人やシニア、主婦など多様な人材が続々投入されていました。文化や習慣が異なるそれぞれのスタッフが正しく理解し再現できるように、全員に指示を行き渡らせるのは簡単ではありません。シフト制の現場であれば店長が全員と顔を合わせる機会も少ないでしょう。そのような状況では当然、お客様に提供するサービスや商品の品質はブレてしまうのです。その状況を目の当たりにして、なんとかできないのかとジレンマを感じたものでした。

また、現場ではたらくスタッフにはすごい人たちがたくさんいることも日々感じていました。見たこともない速さで調理の仕込みをする人、ちょっとした工夫で店舗全体の業務効率を上げる人などを知って、日本のサービス業はこの人たちに支えられているんだと実感したものです。それなのに、惜しいことにそのすごい技術は同じ現場の人にしか共有されない。この技術を会社全体に広めることができたら生産性が一気に上がることは明らかなのに、その手段がないのです。

目指すのはサービス業の生産性向上とおもてなしの輸出

そんなことを感じながら、今後の自分のキャリアを照らし合わせたときに、ITを使って企業全体の生産性向上、店舗力の底上げに役立つ仕事ができないかと考えるようになっていったのです。

2013年2月ごろ、前職の社長にこの構想を話しました。僕は社内でできればと思っていたのですが、社長からは自分で(起業して)やったらどうかと言われ、少し驚きました。社員や僕の周囲の人たちは知っていますが、僕は自他ともに認める慎重派で、起業なんて考えたこともなかったのです。

迷いましたが、自分の描く構想を実現してみたいという気持ちは抑えられず、妻も背中を(強烈に)押してくれたため、清水の舞台から飛び降りるつもりで起業するに至りました。そこへ当時映像業をやっていた現取締役の遠藤ほか何名かの仲間が加わり、具体的なビジネス構想を進めていったのです。

ここからClipLineを開発し、事業がある程度の軌道になるまでのいきさつはまた次の機会にお話するとして、多拠点展開ビジネスの生産性を上げること以外にもうひとつ目標がありました。それは、ゆくゆくはグローバル展開していくことです。

日本発のグローバルサービスはまだまだ少ないのが現状です。1980年代の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代の日本企業の台頭から久しく、欧米はもとよりアジア圏においても中国に圧倒的な差をつけられ、グローバル市場での日本企業はすっかり存在感をなくしてしまいました。日本には、世界に誇る素晴らしいおもてなしの精神があり、几帳面で真面目な国民性による丁寧なサービスが外国人にも好評であるのは周知の通りです。これを世界に出さずしてどうするのかと思いました。ちょうど第125次国際オリンピック委員会(IOC)総会が行われた時期で、滝川クリステルさんが「お・も・て・な・し」のプレゼンテーションをするのを見ながら決意を新たにしたのを今でも覚えています。

かくして、ClipLineは日本のGDPの7割以上を占めるサービス業において、生産性を向上させるというミッションをひっさげ誕生しました。動画による伝達やマネジメントは確実に店長や拠点長の負荷を削減し、現場の最前線で働くスタッフが働きやすい環境を作り出します。また、いち現場のスタッフのすごい技術を全国どの店舗にも瞬く間に共有することが可能なのです。これは僕の個人的な望みなのですが、このような個人技が評価にも反映されて、仕事ができるスタッフの時給がぐんぐん上がるようなシステムができたらいいなと考えています。

また、当然ながら起業当初は想定していませんでしたが、コロナ禍においても非接触コミュニケーションの手段として活用され、これまでデジタルとは縁遠かった業界でも活用が始まっています。

第3次産業であるサービス業は世界的に増え続けており、これは世の中が豊かになっているということでもあります。これを縁の下から支えられる存在になりたいと思っています。デジタル化が進み、AIがどれだけ浸透しても、ヒトが提供するサービスの付加価値の源泉はずっとヒトでしょう。そして、サービス業におけるヒトに期待される役割はますます多彩に、高難易度になっていくと考えられます。店舗・拠点をあちこちに展開する企業ならまずClipLineが導入されている、そんな世界の実現を目指しています。

高橋 勇人
ClipLine株式会社 代表取締役社長
アクセンチュア株式会社、株式会社ジェネックスパートナーズにおいて多店舗展開企業の経営改革を主導。2013年、ClipLine株式会社を設立。趣味はスキーとテニス。

創業ストーリーについてはこちらもご覧ください!