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1月3日 「朝露」

ある晴れた朝、私が窓から差し込む朝日に目を覚まされて、うんと伸びをしようとお庭に出た時のことです。名も知らぬ植物の葉っぱの上に二人の朝露がおりました。朝露たちは私が近づくのも気づかぬ様子で、何やらぼそぼそと話し込んでいたようでした。
「やあ、おはよう。今日は寒いねえ。」
「ああ、おはようございます。そうですねえ。僕らもっとはやくからいたもので、もうすっかり冷えてしまいましたよ。」
「そうだろうねえ。今朝は5℃くらいだろう。いつもは鳴いている鳥達も今日ばっかりはあんまし見ないねえ。ところで、お前さんたちはこんな冷える朝早くから、何をそんなに話し込んでいるんだい。」
「ほうら、あそこにてんとう虫がおるでしょう。あの虫は我々を狙っているのです。あれはいつものどが渇いているものですから、朝方はああやって露を啜って喉を潤すのです。そうですから、僕らいつ飲まれてしまうのか、あてっこしていたのですよ。」
「わたしはあと半刻ほどあと、こやつはあと四半刻ほどあとと考えております。貴方様はどのようにお考えになりますか。せっかくだから、お聞かせくださいよ。」
「不思議な人たちだねえ。自分が飲まれるのが怖くはないのかい。わたしだったら怖くて、その場で震えるしかできないだろうよ。ましてや終わりのときを考えるなんて。正気の沙汰ではないよ。」
私の言葉を聞いて、露たちはきょとんとした顔をしています。何かわからないようなことをいっただろうか。すると、
「何も不思議なんてございませんとも。アレに飲まれてもここにいても、我々いずれ天に帰るのですから。何も変わることなんかございません。」
「もしかしたら、またいずれ会うことになるかもしれませんなあ。我々ここに来るのは初めてではございません。アレに啜られたこともございます。でもそういえば、以前すすられたときはまるで雲が生まれるときのようなそわそわした感覚がありましたなあ。」
「そうでしたねえ。」
「これは面白い話を聞いた。ありがとう。風が出てきたねえ。これはより冷えるなあ。」
その時、ふわりとそよ風が吹きました。露は1人になってしまいました。
「おや、風に吹かれてしまいました。冷えるねえ。」
「ああ、ああ、そうか、もう君は僕なんだねえ。そうかあ。そうかあ。返事がしないというのはほんの少しの寂しいねえ。」
「そうだねえ。」
私には頷くことしかできませんでした。それはどんな感覚なのだろうか、聞くこともできたでしょうが、私にはきっとわからないでしょう。また、それはひどく寂しいことな気がして、わたしは露に別れを告げてそそくさと部屋へ戻ることにしました。
半刻後、外はやや明るくなり気温も上がり始めました。お庭では鳥たちがくるくると鳴き始めいよいよ今日が始まります。再び外に出ると露はおりませんでした。わたしはそれだけ確認して、足早に仕事場へと出発しました。