社員戦隊ホウセキ V/第114話;怒りが再び…。
前回
六月四日の金曜日、ゲジョーがSNSで地球人を集めて、辺鄙な採石場に連れて行った。ゲジョーら集められた彼らはそこで呪詛ゾウオと邂逅し、自分たちが憎む人物を呪詛ゾウオに呪わせた。
これはすぐ社員戦隊に察知された。マゼンタの活躍で呪われた被害者は解呪されたが、レッドたち四人は呪詛ゾウオに呪いを掛けられ、窮地に追い込まれていた。
マゼンタの活躍を呪詛ゾウオは感知していた。
「なんと。初めの四人は、全て術が破られたか…」
サーモンピンクの色紙を巻いた人形に刺した針も消失し、これで柱仙人掌に残ったのは十縷たち四人を呪ったものの四つのみとなった。
しかし呪詛ゾウオは相変わらず全く焦る様子を見せない。人形が減っても、残った人形に針を打ち込み続ける。それは十縷たち四人の激痛に還元され、彼らを苦しめる。
「死ね! お前ら、全員死ね! 私の呪いを邪魔した罰だ!!」
十縷たち四人の苦悶の声を聞き、金髪女たち四人は狂ったように騒ぎ立てる。
寿得神社では、愛作とリヨモが歯軋りするような思いでこの光景の映像を見守る。
(もう少しの辛抱だ! なんとか持ち堪えてくれ! あと少しでマゼンタが…!)
愛作とリヨモの心の声は、殆どの同じだ。もしかしたら、二人の願いがマゼンタを後押ししたのだろうか? ガーネットの到着は思ったよりも早かった。
「ヘリ? まさか、もう来たのか!?」
採石場にて、遠方から近づいて来るプロペラのローター音にいち早く気付いたのは、ゲジョーだった。彼女が空を見上げると、そこには予想通りの影があった。
「紫の戦士の宝世機!? いかん、お前ら腕輪を持って逃げろ!!」
青い空には、ピンク色の宝石でできたヘリコプター、ガーネットが舞っていた。ゲジョーは他所行の喋り方も忘れて、退避するよう金髪女たちに呼び掛けたが、時既に遅し。
「反撃開始ですわよ! 受けてご覧なさい!!」
マゼンタの意思を受け、ガーネットは急速に高度を落としてきた。すると一帯には下降気流が強烈に叩きつけられ、そこに居た者たちに襲い掛かる。ゲジョーと四人の男女は吹っ飛ばされた。これでゲジョーは術に割く余裕が無くなり、十縷たち四人を拘束していた光の縄は消失する。
四人の男女は、その手に持っていた奪ったホウセキブレスを離してしまい、ホウセキブレスは風に乗って宙を舞う。
また呪詛ゾウオも強風の前に柱仙人掌から引き離された。呪詛ゾウオは必死に踏ん張り、吹っ飛ばされるのを回避するので精一杯の様子だった。
「人を呪わば穴二つ。貴方が人に与えた痛み、お返ししますわよ!」
旋風を地面に送り続けるガーネットから、マゼンタが飛び降りる。その軌道の先には、風に耐える呪詛ゾウオが居た。マゼンタは降下の過程で「キックフィニッシュ」と呟き、右足の先にイマージュエルの力を蓄えてピンク色に光らせる。
「花英拳奥義・打法・野茨!」
マゼンタ呪詛ゾウオから見て時計回りに回転し、呪詛ゾウオの高さまで降りて来たところで、回転の勢いを乗せた右の前蹴りを繰り出した。
イマージュエルの力も上乗せされたその蹴りは呪詛ゾウオの胸板に炸裂すると、その表皮を突き破って黒い粘液を飛散させる。これで呪詛ゾウオは完全に脱力し、そのままガーネットの風に飲まれて吹っ飛ばされた。
野茨を決めたマゼンタは鮮やかに着地し、それと同時にガーネットは光りながら直方体のイマージュエルに戻って風を止めた。
「皆さま、お疲れとは拝察致しますが、まだまだ働いて頂きますわよ!」
マゼンタは解放された十縷たちの元へと駆け寄りながらグロブリングを右手の薬指に装着し、抗体型の光を彼らに照射した。その光は、地にへたり込んでいた彼らを苦しめていた針を捕まえ、胸の中から取り出してマゼンタの前に差し出す。凝集した抗体型の光が捕らえた四本の針にマゼンタは回し蹴りを見舞い、右から左へと四本を一気に圧し折った。
すると四人の胸からは痛みが消え去り、それを待っていたかのように、宙を舞っていたホウセキブレスが彼らの手許に降りて来た。まるで示しを合わせたかのようで、非常に都合が良かった。
「反撃開始だ! 行くぞ! ホウセキチェンジ!!」
立ち上がった時雨の声に触発され、十縷たち三人も立ち上がる。そして四人はホウセキブレスを装着し直し、すぐさま変身した。
ところで呪詛ゾウオは、キックフィニッシュを受けてもまだ生きていた。と言っても渾身の一撃を受けた胸の傷は深く、依然として黒い粘液が流れ続けている。覚束ない足取りで、吹っ飛ばされた道を戻って来るのが精一杯だった。
「ホウセキャノン!」
その呪詛ゾウオの姿を確認すると、すぐにブルーはホウセキャノンを召還した。
普段通りブルーが先頭、マゼンタとグリーンが右を、イエローが左をそれぞれ支え、レッドが最後尾で把手を握るという配置だ。
「今すぐ撤退しろ。でなければ殲滅する」
ブルーがいつもの警告をしている間に、ホウセキャノンの中には五色のイマージュエルの力が注がれ、五色の光が駆け巡って発砲の準備が整う。このチャージは威嚇だ。
しかし呪詛ゾウオがこの威嚇に屈する筈が無い。
「我は負けぬ…。ウヌら、末代まで呪ってやる!!」
呪詛ゾウオは怒りを露わに、残った力を全て絞り出す。その咆哮に連動するように、全身に生えた無数の針が、それぞれロケットのように飛び出し、不規則な軌跡を描きながらホウセキ V を狙って飛んでいく。
対するホウセキ V は、呪詛ゾウオが体の針を発射したタイミングでホウセキャノンに蓄えた五色の光を一つにし、赤い光球に変えた。
「ホウセキャノン・クラスター!」
レッドが引き金を引くと、赤い光球はホウセキャノンから発射された。光球は砲身から飛び出すや、瞬時に分裂して無数の光弾となった。これらは螺旋や波状など複雑な軌跡を描きつつ、呪詛ゾウオが放った針を全て迎撃する。そして無数の赤い光弾は針を破っても勢いを保ち続け、そのまま呪詛ゾウオ本体に向かっていく。
弾道の読めない無数の光弾を回避する術など呪詛ゾウオにはなく、ただ受けるしかできなかった。光弾の嵐は呪詛ゾウオの全身に小さなクレーターを作り、そこから黒い体液を噴出させた。呪詛ゾウオは敢えなく両膝を折り、倒れ伏すより先に異臭を放つ泥と化した。
彼が生やした柱仙人掌も、同様に異臭を放つ泥と化してこの場に散った。
ホウセキVは呪詛ゾウオを撃破した。寿得神社の愛作とリヨモは、一先ずこの勝利に安堵したが、まだ事件は終わっていなかった。
「ちょっと、待て。こいつら、まさか…」
愛作は息を呑んだ。その時、ちゃぶ台に置かれたリヨモのティアラは、ホウセキャノンを元の場所に転送して変身も解き、引き揚げようとするホウセキVの姿を映していたが、その背景には彼らも見えた。
呪詛ゾウオに群がり、呪いを依頼した四人だ。先程ガーネットの風で吹っ飛ばされた彼らだが、猛烈な勢いで元来た道を戻って来ていた。その先に居るのはホウセキVだ。
何か叫んでいる。聞き取れないが、確実にホウセキVへの罵声だろう。そして、徐々に見えてくるその顔には、怒りが満ち溢れていた。
「この方々は心が汚過ぎます…」
その様を見たリヨモは思わずそう呟き、雨のような音を鳴らした。
リヨモに「心が汚い」と言われた四人は、現地で変身を解いたホウセキVに掴み掛かっていた。そして口々に叫ぶが、言っている内容は同じだ。
「何してくれたんだ、お前ら! 虐められてきた私たちに差し伸べられた、唯一の救いの手を…! この悪魔!!」
内に抱いた憎しみを、ホウセキVにぶつけてくる彼ら。
しかし、ホウセキVは彼らに共感できない。先程、十縷たち四人からブレスを奪った時に、彼らは自分たちが受けた虐めとやらを丁寧に語ってくれたが、どれも彼らが悪いとしか思えないものだった。
どうやら彼らは、自分の欠点への指摘を虐めと認識するらしい。
(どうしよう? この人たち、言っても理解しないだろうし…)
聞き分けの無さそうな彼らに集られて罵られる現状を、どうすれば切り抜けられるのか? 時雨たち四人は悩んでいた。
そう、四人は…。
(何なんだ、こいつら。自分が悪いのに、そのこと棚に上げて…!)
十縷の胸中だけは困惑ではなく、怒りが沸いていた。自分がしたことは棚に上げ、自分が被害者だと不当な主張をする彼らは、十縷の最も嫌う人種だった。
(こいつら、飲酒運転で轢き逃げの馬鹿息子と同じだ。長割肝司とも…)
彼らの姿は、長割肝司や引手リゾートの現社長とも重なった。この時、十縷の中で何か糸のようなものが切れる音がした。
「いい加減にしろ!!」
次の瞬間、十縷は一帯に轟く程の怒声を上げていた。リヨモの両親の首をザイガが破壊した時と、同じくらい大きな怒声を。
そしてあの時と同じで、空振に似た衝撃波も十縷の体を起点に発生した。その空振に、食って掛かって来た呪いの四人の他、仲間たち四人も吹き飛ばされ、彼らの周囲に転がされた。
(あの時と同じ? まさか、このままだと…!)
時雨たち四人が、この展開から先日のことを思い出すのは必然だ。彼らは伏せさせられながらも、心配した視線を十縷に送る。彼らが目を向けた時、十縷は鬼のような形相で吹き飛ばした四人を見据えていた。
「くだらない理由で人を呪いやがって! お前ら、あのゾウオと同罪だよ! お前らもホウセキャノンで吹っ飛ばしてやろうか!? いや、そうなるべきだよな…」
怒りの勢いで、十縷はかなり過激なことを口走っていた。このまま十縷はこの四人に手を出すのではないのか? そんな気配すら感じられたので、時雨たち四人はそれを事前に制止するべく、起き上がろうとしていた。
その一方、彼ら二人はこの光景を期待の目で眺めていた。
「赤の戦士、予想通り怒りましたね。流石です」
二人のうち一人はゲジョーだ。呪いの四人とは違ってホウセキVに詰め寄らなかった彼女は、含み笑いを見せながら隣の人物に話し掛けた。
その隣の人物とは、バスの運転手だ。ゲジョーより頭一つ分大きく、紫の宝石を備えた金のネクタイピンを付けた彼は、石のように表情を変えずにこの様子を見据えている。そして、何故か二人の周囲には鈴のような音が響いていた。
何処までも不可解なこの男性はふと左手の袖を捲り、顔の近くまで寄せた。その左手の手首には、黒耀石のような石を備えたブレスレットが覗いていた。
「マダム。次の作戦に移行します。お願いします」
男性はブレスレットに向かってそう呟いた。
その時、時雨たちは立ち上がって怒る十縷に向かおうとしていたのだが、次の瞬間に思わず足を止めた。
呪いの四人は、ただでさえ十縷に怯えていたが、更に震え上がった。
「黒のイマージュエルだと!? まさか……!!」
彼らの頭上で空がガラスのように割れ、黒のイマージュエルが出現したのだ。だから時雨たち四人は足を止め、呪いの四人は震え上がったのだ。
そう、戦いはまだ終わっていない。
むしろここからが本番だった。
次回へ続く!
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