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社員戦隊ホウセキ V/第38話;凸凹コンビ

前回


 四月十三日の火曜日の夜、良極りょうごく須見田川すみだがわ沿いには扇風ゾウオが、詩武屋しぶやには扇風ゾウオと同じ憎悪の紋章を持つ扇風ゾカムゾンが、それぞれ出現した。

 十縷は過去に和都が考えたハーフリングからヒントを得て、赤、緑、黄のイマージュエルを新たな想造神・シンゴウキングに合体させて、和都、光里と共に扇風カムゾンに立ち向かった。


 寿得神社の離れでは、リヨモがティアラの映す戦況を見守っている。
 ティアラは二つの映像を投影していて、うち一方は詩武屋で扇風カムゾンの起こす風に耐えるだけのシンゴウキングの姿だ。リヨモは耳鳴りのような音が止まらない。

「遅くなりました。姫、様子はどうですか?」

 離れの一階に、愛作が駆け込んできた。本社からここまで走ってきたから、かなり息遣いが荒くなっていた。

 リヨモは一瞬だけ愛作の方に目をやり、静かに語った。

「ジュールさんの発案通り、合体はできましたが……。しかしイマージュエルが揃っていないので、ホウセキングよりは力が劣るようです」

 リヨモの言葉とティアラの映像を受け、愛作も苦々しく唸った。

「確かに苦戦していますね……。しかし、ブルーとマゼンタが先にゾウオを倒してくれれば、合流してホウセキングになれます。それを期待しましょうか」

 そう呟いた愛作の目は、ティアラが投影するもう一つの映像、良極の須見田川沿いで暴れる扇風ゾウオの方に向いていた。


「苦しめ! 溺れろ! ニクシム神に恐怖と苦しみを捧げるのだ!!」

 扇風ゾウオは河川敷に立ち、川の方に扇を仰ぎ続ける。その風の為に川面は荒れ狂い、宴会に繰り出していた五隻の屋形船は全て転覆されられていた。船の客、料理人、給仕係などは川に投げ出され、風と波によって激しく振り回される。
 扇風ゾウオはその様を嘲笑い、気分が高揚する。それが少なからず、隙を作っていた。

「苛めてばかりでは駄目ですわよ。英拳えいけん奥義おうぎ極法きょくほう玉蔦たまかづら

 不意に背後から女性の声が聞こえた次の瞬間、扇風ゾウオは首を締められた。

 マゼンタが気配を断って忍び寄り、背後から腕を扇風ゾウオの首に巻き付けて締め付けたのだ。締められた扇風ゾウオは一時的に意識が飛び、全身から脱力して両膝を折ると共に、頼みの扇も落としてしまった。これで風は生じなくなり、川は静まる。

「皆さん、助けに来ました! 安心してください!」

 風が止むと、闇夜でも青く輝くホバークラフト艇が、海の方から川を上ってきた。ブルーの操るサファイアだ。サファイアは船首の上部からサーチライトのような光を発し、これで水面の人々を照らす。照らされた人々は重力から解放されたかのように浮遊し、そのままサファイアの中に吸い込まれた。
 すぐに全員を乗せると、サファイアはマゼンタと扇風ゾウオの居る岸の方へ進み、そのまま河川敷に乗り上げた。サファイアはコクピットから木漏れ日のような光を出し、ブルーを降ろした。

「救助、お疲れ様です。失神されている方などがいらっしゃるなら、救護措置に当たりたいところですが……」

 マゼンタは降りてきたブルーに駆け寄り、扇風ゾウオの落とした扇を彼に手渡した。するとブルーは、剣にしたホウセキアタッカーでこれを切り裂く。

 マゼンタが提案したサファイアの中に収容した人々の治療などについて、ブルーは即答した。

「俺もそう思うが、あっちが先のようだな」

 ブルーの視線はマゼンタの後方に向いていた。ブルーが見ている方向、つまりマゼンタが振り返った先では、扇風ゾウオがふらつきながらも立ち上がっていた。

「あら? 思ったより早くお目覚めですわね。でも、貴方の武器はもうございませんわよ」

「お前に勝ち目は無い。今すぐ撤退しろ。さもなくば、殲滅する」

 睨み付ける扇風ゾウオを、マゼンタは拳を握って構えを整え、ブルーは剣を前方に突き出し、それぞれ威嚇した。
    しかし、扇風ゾウオは屈しない。

「黙れ! 俺はお前らを倒し、必ず将軍に昇進する!!」

 壊された扇に替えて、ウラームと同型の鉈を手に取った扇風ゾウオは、ブルーとマゼンタに突撃していった。ブルーとマゼンタは「おそらく、こうなるだろう」と予想していたので、特に動じなかった。

「ソードフィニッシュ」

「キックフィニッシュ」

 二人はそれぞれ、技の名前を囁いた。するとブルーの剣の刃には青の、マゼンタの右足の踵にはピンクの光が、それぞれ形で宿り始めた。各々のイマージュエルの力を蓄積しているのだ。

「まだパワーが七割くらいしか溜まっていないが、俺はこれで行く。お前は十割まで溜めて仕留めてくれ」

 マゼンタにそう言うと、ブルーは走り出した。青く光る剣を振り翳して。

 扇風ゾウオは迫るブルーを迎撃するべく鉈を大きく振り被ったが、その為に胴ががら空きになる。ブルーは扇風ゾウオの左脇を通り抜ける際に、がら空きの胴に青く光る斬撃を見舞った。
 扇風ゾウオは腹を斬り裂かれ、堪らず悲鳴を上げて足を止める。マゼンタはこのタイミングで走り出した。

英拳えいけん奥義おうぎ打法だほう落椿おちつばき!)

 立ち止まる扇風ゾウオの前でマゼンタは踏み込み、上から見て時計回りに回転しながら跳び上がる。そして回転動作に乗せてピンクの光を放つ右の踵を、相手の右側頭部に叩き込んだ。
 これを受けた扇風ゾウオは首を左側へ直角に折り、膝から体勢を崩す。すると体が溶け始め、倒れ伏すより先に異臭を放つ泥と化してその場に散った。

「宝暦八年、四月十三日、午後九時三十七分、ゾウオを殲滅」

 扇風ゾウオが溶けたのを確認すると、ブルーはブレスに向かってそう告げた。
 そのブルーに、マゼンタは訊ねる。

「レッドたちの援護……よりも、助けた人たちの救護を優先して宜しいですかね?」

 この問にはブルーではなく、ブレス越しに愛作が答えた。

『ああ、救護を頼む。あっちもフィニッシュに入る頃だ』

 そう伝えた愛作の声は落ち着いていて、遠巻きに聞こえるリヨモの音も、鈴の音になっていた。その通信を受け、ブルーとマゼンタはメットの下で表情を和らげた。


 ブルーとマゼンタが扇風ゾウオを倒す数分前、詩武屋ではまだシンゴウキングが扇風カムゾンの風に耐えるという図式で、戦いが続いていた。

「さあ、ここからですよ……。二人とも、インスピ湧かせまくってください!」

 シンゴウキングの中で、レッドがイエローとグリーンを鼓舞する。すると意外に、即答で良い反応があった。

「ねえ。サファイアとガーネットが抜けた分、シンゴウキングは軽いんだけど……。軽い分、ホウセキングより速く動ける筈だよね?」

 反応したのはグリーン。勿論、とレッドは頷く。するとグリーン、次はイエローに告げた。

「私、合図したらすぐにシンゴウキングをロケットスタートで突っ込ませます。そうしたらイエロー、亀の手許から扇を吹っ飛ばしてください」

 グリーンの脳裏には、勝利への青写真が浮かんでいるらしい。そして、その青写真はすぐイエローとレッドにも共有された。

(亀はだんだん、扇を振り切った後の隙が大きくなってる。これだけ間隔があれば、次に扇を振るより先に、あいつとの距離を詰めることができる……!)

 三人の心の声が一致し、作戦は決行されることとなった。
    次、扇風カムゾンが左から右に扇を振り抜いた瞬間、グリーンは「今!」と叫んだ。するとシンゴウキングの右腕に備わったヒスイのタイヤが回転し、シンゴウキングの全身が緑色に発光。シンゴウキングは高速で扇風カムゾンの方に突撃する。
     その素早さは扇風カムゾンをたじろがせたが、それでも「接近されるより先に吹っ飛ばせ」と言わんばかりに、扇風カムゾンは右から左に扇を振ろうとする。
 しかし、シンゴウキングはそれよりも速かった。

「させるかよ! こっちはリーチが長いんだ!!」

 イエローの意思を受け、シンゴウキングは左腕を伸ばす。しかしまだ距離は遠く、腕は扇風カムゾンに届かないように見えた。だがシンゴウキングの左腕には、トパーズのショベルアームが折り畳まれている。シンゴウキングは左腕を前に突き出すと共にショベルアームを伸ばし、一気に間合いを広げた。
    ショベルアームは扇風カムゾンの手許を捉え、扇が振るわれるより先にそれを上に弾き飛ばした。

「お見事、イエロー! それじゃ次は見よう見まねで、野茨もどき!」

 グリーンはイエローを称えつつ、次はマゼンタこと伊禰の技をシンゴウキングに再現させる。
    シンゴウキングは上から見て反時計回りに回転し、その勢いを乗せた右の前蹴りを扇風カムゾンの胸に炸裂させた。巨体に似合わぬ妙技の前に、扇風カムゾンは夜空を仰ぐ。

「で、扇はぶっ壊すとな!」

 野茨もどきを決めた後、イエローはシンゴウキングに再び左腕のショベルアームを伸ばさせ、これで宙に舞った扇を殴打し、木っ端微塵に粉砕した。

     かくして扇風カムゾンは武器を失ったが、まだ戦意は萎えておらず、シンゴウキングを睨みながら立ち上がった。

「まだやる気か? なら、こっちも必殺技で行くぞ!」

 レッドの声を受け、シンゴウキングは刀の鞘のように左腰に備わった梯子に手を掛け、そのまま抜刀するような動作で取り外した。すると梯子は、シンゴウキングの右手の中で剣に変化する。
    鍔に赤、緑、黄の三つの宝石を備えた、ホウセキングカリバーに似た剣に。

「ガゴオォォォォッ!!」

 シンゴウキングが剣を抜くと、カムゾンは対抗して強靭な口を全開にして突撃して来る。シンゴウキングの方は剣を中段に構えて、イマージュエルの力をこれに集中させる。その力は刃に宿り、赤、緑、黄の光として可視化される。
 充分な力が蓄積されると、いざシンゴウキングも走り出した。

「シンゴウキングブレイド! 麗美れいび……信号しんごうり!!」

 三人が声を揃えて叫び、シンゴウキングは大きく振り被った剣を豪快に振り下ろした。三色に光るその刃は、突撃してきた扇風カムゾンを脳天から一刀両断にした。

 斬られた扇風カムゾンは三色の光の粒子と化し、四方八方に舞い散る。電飾が鮮やかな街に、更なる彩が添えられる形になった。


 扇風カムゾンを倒した後、シンゴウキングの中でイエローは左に居るレッドの方を振り向いた。思わず背筋を伸ばすレッドに、イエローは言った。

「見えてきたな、お前のスタイル。地道な努力より、直感的な発想だな。もっと自由に発想して、もっと周りを巻き込め」

 イエローに誉められ、レッドはメットの下で顔を綻ばせる。

「だけど、地道な努力も続けますよ。身近な目標の伊勢さんに、少しでも近づきたいんで。まあ、倒れない程度にしますけど」

 そうレッドは返した。そして、二人は笑い合う。その光景を見て、グリーンは思った。

(案外、相性良いのかもね。ジュールとワットの仕事コンビ。凸凹具合が丁度良くフィットしたのかな? 面白い……)

 昨日、この二人に抱いた不安は不思議と消えていて、光里は微笑ましく見守れる気がしていた。


次回へ続く!


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