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社員戦隊ホウセキ V/第49話;唐突で意外な展開

前回


 日本実業団陸上大会が開催され、新杜宝飾が春の即売会を催していたGWに、念力ゾウオは出現した。一回目は五月二日の日曜日の午後三時頃、二回目は五月三日の月曜日の正午頃に。

 ホウセキV は念力ゾウオの暴挙を阻止するべく、出撃した。


 香洛苑こうらくえん遊園地ではリヨモが送ってきた映像の通り、念力ゾウオが休日を満喫する人々に牙を剥いていた。行楽日和は一転、完全たる惨状と化していた。

 猛威の前に多くの人々が逃げ惑う中、一人の清掃スタッフだけは逃げる素振りを全く見せず、念力ゾウオにスマホを向けて撮影していた。この清掃員、アメジストのピアスとエメラルドのペンダントを身に付けており、意外に華美だ。この装具、言うまでも無くゲジョーである。

 念力ゾウオは清掃員に扮していたゲジョーにふと目を向け、釘を刺すように言った。

「シャイン戦隊が来ても、今日はそうやって撮影に徹していなさい。ウラームや憎悪獣を呼び出したらどうなるか、解っているわよね?」

 その言葉を受けたゲジョーは、念力ゾウオに辱められたことを思い出し、眉を顰めて舌を打つ。

「お前の方こそ、昨日のように追い詰められるなよ。ほら、相手は来たぞ……」

 皮肉たっぷりに言い返したゲジョー。
 このやり取りの間に、ゲジョーは念力ゾウオの遥か後方からホウセキVが走って来るのを視認した。

 念力ゾウオは放漫な動きで振り返り、向かって来るホウセキVと対峙する。

「来たわね、地球のシャイン戦隊。今回は五人揃ってるわね。五人とも葬って、必ず将軍に昇進してみせるわ!」

 念力ゾウオの高揚と連動して右肩のからすの目が光り、念力が発動する。ゴミ箱や看板、そして壊れた遊具の破片が次々と浮き上がり、走って来るホウセキVに向かって飛んでいった。

 五人は身を翻す、ホウセキディフェンダーを発動するなどしてこの攻撃を防ぐ中、ブルーが叫んだ。

「前回と同じ攻撃パターンだ。グリーン、突っ込め!」

 一辺倒な攻撃方法から相手は無生物しか飛ばせないのだろうと、ブルーは判断した。グリーンは「了解!」と即答するや、前に突っ走り始めた。

(真っ直ぐ来るか、緑の戦士。お望み通り、顔面に物を当ててやるわ!)

 念力ゾウオがそう思ったのは、グリーンが走り出す寸前。念力ゾウオはグリーンを簡単に迎撃できると思っていたが、彼女はその想定より遥かに速く、かつ運動神経も優れていた。

(何よ、こいつ!? 速すぎる!)

 頭に向かってきた物体には身を屈め、足を払おうとした物体は軽く跳び越え、背後から奇襲しようとする物体は難なく振り切るグリーン。その動きに念力ゾウオが度肝を抜かれた。

 すぐに両者の距離は縮んだ。相手が間合いに入るや、グリーンはすかさず短刀にしたホウセキアタッカーをホルスターから抜き、念力ゾウオに斬り掛かる。
 しかし念力ゾウオは、驚きながらも応戦した。猛禽のような鋭い爪を持つ右手で、水平に薙がれた刃を受け止めた。

(今のを止めた。こいつ、体術が苦手って訳じゃないんだ)

 斬撃を防がれて、グリーンはそう思った。しかし、狼狽えてはいない。

(でも、お姐さんに比べたら大したことない! 今の私なら勝てる!)

 マゼンタとの訓練で、グリーンは自信を付けていた。斬撃を止められた次の瞬間、グリーンは短刀を離し、腰を落として寝そべるような体勢になった。想定外のトリッキーな動きに、念力ゾウオの目が点になる。
 グリーンはそのまま臀部を軸に体を回転させて右脚で円を描き、円弧の先にあった念力ゾウオの足を払った。先刻、マゼンタから食らった浜昼顔だ。念力ゾウオは堪らず体勢を崩し、片膝を付いた。その間に、グリーンは回転しながら立ち上がる。

「浜昼顔からの……通常回し蹴り!」

 グリーンは回転の惰性を利用し、立ち上がりながら右の回し蹴りを繰り出した。片膝を付き、頭をグリーンの腰辺りまで下げていた念力ゾウオは、この蹴りを左の頬に被弾した。
 蹴りの威力で念力ゾウオは右方向に飛ばされ、右手に掴んでいたホウセキアタッカーも落としてしまった。

 更に次の瞬間、念力ゾウオに操られて宙を舞っていた諸々の物体は、いきなり宙で動きを止め、そのまま力なく地面に落下した。
 かくして、レッドたち四人は念力に操られた物体の攻撃から解放された。

「やりましたわね、グリーン! 蹴りも鮮やかで素敵ですわ!」

 グリーンに駆け寄る四人のうち、マゼンタが最も興奮していた。相手の落としたホウセキアタッカーを回収していたグリーンが、その勢いに少し引く程度には。

 レッドやイエローは落ち着いていて、「やったな」と簡素に賛辞を述べた程度だ。

 ブルーは戦いが終わっていないことを意識しており、賛辞は述べなかった。

「今のうちに、あのゾウオを倒すぞ! ホウセキャノンだ!!」

 ブルーの号令で、四人はホウセキャノンを初めて使った時と同じ位置に並び立つ。そして最後尾のレッドが天に左手を伸ばし、ホウセキャノンを呼び出そうとしたその時だった。

(このままでは、念力ゾウオがやられる!)

 ゲジョーが動いた。仲間の危機を目の前にした時、「手出し無用」という脅しは彼女の脳裏から消えた。気付けば右手が勝手に宙を叩き割り、人間大の穴を開けて多数のウラームをこの場に出現させていた。
 現れたウラームたちは、即座にホウセキVに飛び掛かった。

「またゲジョーか……。ホウセキャノンは後だ。ウラームを優先するぞ!」

 広い視野でその様を確認していたブルーが、すぐに指示を切り替えた。
    お蔭でホウセキャノンの召喚はお預けとなり、レッドら四人は剣にしたホウセキアタッカーで、マゼンタは徒手空拳で、それぞれ迫ってきたウラームに対抗する。

 その間に、ゲジョーは倒れ伏した念力ゾウオのもとに駆け寄った。

「念力ゾウオ、立てるか!?」

 ゲジョーはしゃがみ、倒れている念力ゾウオに寄り添う。彼女はこのまま念力ゾウオを連れて小惑星に逃げるつもりでいたが、念力ゾウオは違った。

「余計な手出しをしたらどうなるか、言ったわよね!」

 念力ゾウオは怒声を上げた次の瞬間、右手の爪をゲジョーの左肩に振っていた。鋭い爪はゲジョーの左肩を切り裂き、真っ赤に染めた。

「仲間の危機を見過ごせるか……。詰まらん拘りは捨てろ!」

 痛みに顔を歪めながら、ゲジョーは不平に似た説得の言葉を述べる。しかし念力ゾウオにそれを理解する気は無く、ただ怒るだけだ。

「黙れ! 私に二度も恥をかかせて。もう許さないわよ!!」

 念力ゾウオは怒鳴りながら立ち上がるや念力を発動し、乱雑に転がっていた整列用のロープを動かした。ロープは捕鯨銛のように勢いよく飛び、ゲジョーの首に巻き付いて強烈に締め上げた。ゲジョーは苦しみ、その場に倒れ込む。

 この様子は、現地のホウセキV、寿得神社の離れの愛作とリヨモ、更には小惑星のマダムたちにもしっかりと目撃された。

(あのゾウオ、何やってるの? 仲間割れ?)

 ホウセキVはウラームに対応しつつ横目でその光景を確認し、理解不能な相手の行動に驚いていた。寿得神社の離れで映像を見る、愛作とリヨモも同じ感想だ。

 そして、左肩を斬られた際にゲジョーが落としたスマホは、マダムの声を送ってきた。

『何をしておるか、念力ゾウオ! 今すぐ止めい!』

 小惑星のマダムは激高していた。
    首領が怒っていようが、この場に居ないなら関係ない。とでも言うように、念力ゾウオはその怒声に耳を貸さない。
 しかし、この状況はいつまでも続かなかった。

「お前、いい加減にしろ! ウラームはどいてろ!!」

 動きを見せたのはレッド。
    それまで二体のウラームと剣戟を繰り広げていた彼は、いきなり一帯に響き渡る程の怒声を上げたかと思うと、次の瞬間にはウラームを二体とも斬り伏せており、ホウセキアタッカーを銃に変形させて念力ゾウオに向けて発砲していた。

 念力ゾウオはゲジョーへの攻撃に躍起になる余り、レッドの怒気に反応するのが遅れた。彼女が振り向いた時、赤く光る弾丸は複雑な軌跡を描きながら眼前まで迫っていた。このタイミングでは回避できず、念力ゾウオは五発の弾丸を食らい、その場に片膝を付いた。
 そして、レッドは怒りをそのままに念力ゾウオに突撃していく。

「この子、お前を助けようとしたんだろ! 何で攻撃した!? ふざけんな!」

 レッドは走る過程でホウセキアタッカーを剣に変形させ、相手の眼前まで迫るやそれを乱雑に振り回した。
 念力ゾウオは怒気に押されてしまい、一方的に斬られた。異臭のする黒い粘性の液が周囲に散る。そのお蔭で念力は途切れ、ゲジョーの首を締めるロープの力も弱まった。

 その頃には、他の四人もウラームを全て撃破していた。

「大丈夫!? しっかりして!!」

 ブルーたち三人が念力ゾウオに猛攻を仕掛けるレッドの方に向かっていったのに対して、グリーンはゲジョーに駆け寄り、首に巻き付いたロープを解いた。
    ゲジョーは咳込みながら、自分に寄り添ったグリーンに目をやる。

「情けを掛けて惑わせるつもりか? 無駄だぞ。お前らに誑かされる程、愚かではない」

 自分を救ったグリーンにゲジョーが掠れた声で掛けた言葉は、礼とは程遠いものだった。
    しかし、グリーンは怒らない。むしろ、メットの下で光里は安堵の笑みを浮かべていた。

「そんだけ喋れたら、大丈夫だね。早くアジトに戻って、怪我を治療して貰いなさい」

 グリーンはそう言うとゲジョーに背を向け、レッドと念力ゾウオの方に走っていった。

 その一方、ゲジョーはメット越しに光里に微笑みかけられ、何とも不思議な感覚に襲われていた。

(何だ、この感じ? マダムに似てる? いや違う、そんな筈は無い……)

 グリーンに軽く介抱されて、ゲジョーは少し安堵していた。しかし、それを認めたくない。必死に否定しようと、首を横に振っていた。


 グリーンがゲジョーから離れた時、ブルーたちは猛攻するレッドを鎮めていた。

「レッド、落ち着け! 過剰に傷めつける必要は無い!」

 このまま攻撃を続けさせても良かったかもしれない。しかし思わずブルーが制止を呼び掛けてしまうほど、レッドの怒り方は激しかった。

 荒れている割に、レッドは聞き分けが良かった。ブルーに言われると、レッドは荒い息のまま攻撃を止めた。
 レッドが動きを止めると、ブルーは念力ゾウオに警告した。

「念力ゾウオとやら。お前に勝ち目は無い。今すぐ撤退しろ。さもなくば、殲滅する」

 その時、全身を滅多切りにされて地に倒れ伏していた念力ゾウオは、何とか力を振り絞って立ち上がろうとしていた。

「負けないわ……。この手でお前たちを倒して、私は将軍になるのよ!!」

 何とか立ち上がった念力ゾウオは、再び右肩の烏の目を光らせる。すると、先に脱線させられたジェットコースターが浮遊し始めた。
 戦意を失わない相手にブルーたちが溜息を吐いていると、グリーンが四人のもとに駆け寄って来た。

「ホウセキャノンで決める。砲手はグリーンだ。レッドはマゼンタの横につけ」

 五人が揃うとブルーは指示を出した。配置変えに戸惑いながらも、レッドとグリーンを逆にして五人は並び、ブルーの声に呼ばれて天から降りて来たホウセキャノンを受け取った。
    五人はイマージュエルの力を無色透明の大砲に送り、砲身の中に五色の光を掛け巡らせる。

「ホウセキャノン・トルネイド!!」

 グリーンが引き金を引くと、砲身の中を駆け巡っていた五色の光は緑一色になってまとまり、勢いよく射出された。緑色の光は円錐の形を得て、ドリルのように高速回転しながら念力ゾウオに向かって飛んでいく。もの凄い速さで。

    その速さは念力ゾウオにジェットコースターを投げる余裕どころか、避ける余裕すら与えなかった。

 かくして念力ゾウオはこの砲撃を胴体に食らい、大きな風穴を開けられた。
 宙に浮いたジェットコースターは再び地に落下し、念力ゾウオも両膝を折って体を溶かし始める。そして、念力ゾウオは倒れるより先に異臭を放つ泥と化し、足元に泥をぶちまけた。

「宝暦八年、五月三日、午後零時十七分、ゾウオを殲滅」

 ブルーがブレスに向かって、戦闘の終了を告げた。
    その後ろでは、負傷したゲジョーがスマホで撮影を続けていた。


次回へ続く!

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