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社員戦隊ホウセキ V/第50話;残ったのは雑感

前回


 五月三日の月曜日、香洛苑こうらくえん遊園地で猛威を振るった念力ゾウオは、ホウセキ V に撃破された。
 念力ゾウオは自分を救おうとしようとしたゲジョーを負傷させ、その行為でレッドを激怒させてしまったのが痛かった。


 地球から遠く離れた小惑星、ニクシム神の祭壇のある部屋にて、ニクシムの三将軍は銅鏡に映し出す映像で念力ゾウオの敗北を知った。

「この程度か、念力ゾウオ。まあ、想造力や憎心力の無いヤツしか動かせないショボいあの技じゃあ、ザコしか殺せんわな」

 スケイリーは嬉しそうにふんぞり返った。仲間が倒されたにも拘らず…。
 隣でザイガは、一切の音を立てずに後ろに聳えるニクシム神を確認する。その不気味な巨岩が放つ粘性の高い鉄紺の光は、まだまだ勢いを失っていなかった。

「念力ゾウオは倒されましたが、充分に地球人共を苦しめたようですね。奴が使った以上の力が送られています。念力ヅメガを送りますか?」

 ニクシム神はまだ限界ではないと判断し、ザイガはマダムに進言した。その時、猛烈な悔しさを顔に滲ませていたマダムは、叫ぶようにその問い方に応じた。

「さよう! このまま引き下がるつもりは無い! 行くのだ、念力ヅメガよ!! 其方の相棒、念力ゾウオの仇討ちじゃあっ!!」

 マダムが叫ぶと、彼女のティアラに備わったアメジストのような紫の石が輝いた。

    その光は一直線に伸び、小惑星を抜け出して比較的近くの惑星、グラッシャまで届いた。極彩色の粘菌と、巨大な動物たちが巣くうその星に。
 その中には、額に羽毛のような金細工を備えた巨大な蛙も居た。


『社員戦隊、まだ終わってない! 次の敵が来るぞ!!』

 念力ゾウオを撃破した後、そのまま撤収しようとしていた一同に、ホウセキブレスは愛作の声を届けた。

 切迫したようなその声が届いた次の瞬間、彼らの目の前で蜘蛛の巣状の皹が空に走り、ガラスのように砕け散って七色の光が渦巻く穴が開いた。その穴の向こうから、一体の巨大な影が飛び出してくる。

「ヅメガ……でしたっけ? 額には、念力ゾウオと同じ装飾がありますわね。前に出たカムゾンと同じで、強化されているのでしょうか?」

 出現した巨大生物を見て、マゼンタがそう言った。

 現れたのは、体が灰色で四肢に薔薇色の鍵爪を備えた巨大な蛙。額には羽毛を模した金細工が施され、右肩には烏の頭部のような装飾がある。念力ゾウオと同じ憎悪の紋章を授かったヅメガ、念力ヅメガだ。

「ブゥオォォォッ!!」

 念力ヅメガは、現れるや野太い声を一帯に響かせながら、右肩の烏の目を光らせた。すると、遊園地から逃げようとしていた乗用車が次々と念力に捕まり、浮遊させられては吹っ飛ばされる。車たちは更地や道路、店舗など思い思いの場所に叩きつけられ、中の人と共に周囲の景観を破壊した。

 この光景を前に、ホウセキVの面々が黙っている筈がない。

「宝世機を呼ぶぞ! ホウセキングであの憎悪獣を殲滅する!」

 そう言ったのはブルーだが、彼が叫ぶ前から全員の意思は一致していた。

 五人はそれぞれの宝世機の名を叫び、五色のイマージュエルが空を突き破って姿を見せる。五つのイマージュエルは空を突き破った勢いをそのままに、次々と念力ヅメガに突撃。
    車を操るのに夢中だった念力ヅメガは対応が遅れ、イマージュエルの当たりを五連続で食らい、堪らずその場に裏返った。
 念力ヅメガを裏返すとイマージュエルたちは旋回して元来た道を戻り、その過程でホウセキVの面々をそれぞれその中に引き込み、姿を宝世機に変える。

「宝石合体!……完成! ホウセキング!!」

 宝世機に乗り込んだ五人は同時にそう叫び、その声に呼応して五つの宝石は合体。ホウセキングとなって、念力ヅメガの前に立ちはだかった。

「ブゥオォォォッ!!」

 相手が合体している間に体勢を立て直した念力ヅメガは、再び念力を発動。遊園地のバイキングシップをもぎ取って宙に浮かすと、そのままホウセキングに向けて吹っ飛ばした。

「人が乗ってないなら、構わず壊すよ!」

 グリーンがそう言うと、ホウセキングは甲を翳すように右腕を前に出し、右肘辺りに位置するヒスイのリアウイングから緑の光を放った。その光は放射状に広がり、盾となった。
 念力で飛ばされたバイキングシップは光の盾に衝突し、バラバラに砕け散る。しかし砕かれてもまだ念力は作用していて、破片がホウセキングに襲い掛かるが、これは恐れる程ではない。

「その破片、全てお返ししますから。お受けあそばせ」

 次にホウセキングはマゼンタの意思を受け、左腕に位置するガーネットのプロペラを旋回させる。プロペラが巻き起こす風は念力に操られた遊具の破片を巻き込み、そのまま念力ヅメガの方に飛ばした。

     風に捕まると共に細かい瓦礫を次々とぶつけられ、念力ヅメガは怯んだ。
 この隙にトドメを刺そうと、五人は同時に思った。

「ホウセキングカリバー! 豪華絢爛……宝石斬り!!」

 示しを合わせたかのように、五人の声が揃う。その声は、ホウセキングの左腰に位置するピジョンブラッドの梯子をホウセキングカリバーに変え、更にはその刃に五色の光を宿らせる。いざ念力ヅメガを葬るべく、ホウセキングは走り出した。

 念力ヅメガも負けじと爪を振り翳しながら前方に跳躍したが、これが大失敗。
 正面からホウセキングカリバーの斬撃を受ける結果となり、敢え無く一刀両断された。左右に別れた念力ヅメガの体は、地面に落下するより先に五色の光の粒子となり、一帯に舞い散った。

「宝暦八年、五月三日、午後零時二十分、憎悪獣を殲滅」

 ブルーがブレスに向かって呟く。今後こそ、本当に戦闘は終了だ。一同はようやく胸を撫で下ろした。

「図に乗るな、地球のシャイン戦隊。次こそは必ず……」

 それまでずっと、左肩の怪我を押して戦闘の様子を撮影していたゲジョーは、ホウセキングの勝利を見届けると、苦々しく呟いた。
 それからスマホをしまい、宙を叩き割って小惑星へと戻っていった。念力ゾウオに切り裂かれて、痛々しく血を流す左肩に右手を添えながら。


 念力ゾウオ、そして念力ヅメガを倒したホウセキVは、キャンピングカーに乗って香洛苑遊園地を後にする。その車内で意外な会話があった。

「ジュール君。先の戦いで気になったことがございまして、お説教致しますわよ」

 居室で光里の隣、そして十縷の正面に座る伊禰は、唐突にそう切り出した。
 優しい口調でお説教と言われ、十縷は独特な緊張感を覚えて背筋が伸びる。その雰囲気の中、伊禰は滔々と語った。

「念力ゾウオを過剰に攻め立てたのは、仲間なのにゲジョーちゃんを傷つけたのが許せなかったからですわよね? その心を否定するつもりはございません。その正義感は、貴方の想造力の源になっている筈ですし」

 苦言を申し立てたのは、念力ゾウオへの猛攻に関してだった。頷くなどの十縷の所作や表情を確認しつつ、伊禰は語る。その顔は至って落ち着いていた。

「しかし、我を忘れて相手を傷めつけはいけません。怒りに支配された瞬間、武術は暴力に堕ちます。結果的には相手を倒すのですが、目的は倒す為ではなく守る為。そのことを忘れずに、どんな時でも必ず理性は保つよう、お心掛けください」

 伊禰の話は十縷にとって納得できるもので、全く反感は抱かなかった。しかし、この件は少し意外だった。

(あの時の僕、そんなにヤバかったのか? 頭に血が上ってたかもな……。反省! ところで祐徳先生、初めて精神論みたいな話をしたな。今まで、戦い方しか教わらなかったけど、やっぱり根は武道家で、そういう心は大切にしてるんだな)

 意外だったのは自分が荒れていたことより、伊禰が武道家としての顔を見せてきたこと。伊禰はお喋りの割に、こういう話は余りしていなかった。

 このことが少し気になった十縷だが、すぐに話題が逸れて、気にしている余裕は無くなった。

「マゼンタ。移動中も色で呼べ。帰投するまでが任務だと忘れるな」

 と、時雨が伊禰に指摘して、伊禰は「ごめんなさーい」といい加減な返事をする。
 しかし時雨は伊禰のふざけた態度には頓着せず、次はこの人に物申した。

「ところでグリーン。傷ついたゲジョーに駆け寄ったが、奴に情けを掛けるな。姿こそ俺たちと同じだが、奴はニクシム。ゾウオやウラームと同じ、侵略の尖兵だ。奴に手を差し伸べる行為は、地球を滅ぼすことに繋がる。忘れるな」

 それは光里だった。
 いつも通り、帰路は無口だった光里は驚いたように目を見開き、先の戦いを振り返って溜息を吐いた。

「ゲジョーって、ニクシムのゴスロリ少女のことですよね? ごめんなさい。やられた清掃員があの子だって判ってはいたんですけど、なんか放っとけなくて……。ごめんなさい」

 光里が素直に謝ったので、時雨はこれ以上の言及をしなかった。

(この戦隊に選ばれてなければ、情けを捨てる必要なんかなかったんだけどな)

 時雨は遊園地でのグリーンの行動を思い出し、下唇を口に巻き込んで少し溜息を洩らした。
 ところで件に関して、光里ではなくハンドルを握る和都が話題を引き継いだ。

「それにしてもニクシム、意味不明ですよね。あのゲジョーとか言う女、展示即売会に現れて隊長に接触して。今日は今日で、ゾウオがゲジョーに攻撃して……。一体、何を考えてんでしょうね?」

 ここ数日のニクシムの動きを振り返り、和都は首を捻っていた。時雨は助手席で、「さあな」と適当な相槌を打つ。
    話題について行けていないのは光里。実はゲジョーがG Wゴールデンウィークの即売会に現れたことを知らされていなかったので、「何のことですか?」と驚いていた。それどころか彼女、ゲジョーと言う名もこの車内で初めて知った程だ。
 伊禰はそれに気付いたのか、光里に知らせなかった理由も含めて、ゲジョーが時雨に接触したことを光里に説明した。

 その様子を眺めながら、十縷は思った。

(ニクシムの行動が理解できないのは、僕の知識が足りないからだと思ってたけど、そうでもないのかな? あいつら、意味わかんない集団なのか?)

 和都の「何を考えてんでしょうね?」という発言を受けて、十縷はあながち知識不足が理解の足枷になっているばかりではないと思った。とは言え、やはり彼は知識が足りない。

(昨日の祐徳先生の喋り方やワットさんの反応だと、元ジュエランド王家のマ・ツ・ザイガとかいう奴がニクシムに居るってことは、僕以外の全員が知ってたんだよな。意味わかんないと言えば、こいつが一番意味わかんない存在だけど……)

 ふと思い出して気になったのは、昨日ふと伊禰が口にした【ジュエランド王家出身のマ・ツ・ザイガ】のこと。
     一体、彼は何者なのか? 何故、自分の母国を滅ぼしたニクシムに身を置いているのか?
 十縷はザイガのことが気になって仕方なくなっていた。 


次回へ続く!


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