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社員戦隊ホウセキ V/第47話;支え合うこと

前回


 五月二日の日曜日、出現した念力ゾウオをホウセキ V は取り逃がした。
 出撃よりも大会を優先してしまった光里はその選択を悔いて涙したものの、十縷と話し合うことで気持ちが整理できた。
 その夜、光里と十縷は念力ゾウオを攻略する為に、二人だけで自主トレに臨んだ。


 レッドとグリーンの自主トレの様子を、ひっそりと木の陰から覗いている者が居た。リヨモだ。
   トルコ石の能面のような顔は微動だりしないが、耳鳴りのような音を鳴らし続けている。そしてグリーンに弾が当たると、思わず鉄を叩くような音を立ててしまう。リヨモもまた、気が気でなかった。

「こんな練習をして、光里ちゃんは大丈夫でしょうか?」

 リヨモは呟いたが、これは離れた場所に居る時雨たちに向けた言葉だ。彼女はティアラを使って、この練習の光景を彼らに映像として送っていた。

『見たところ弾丸の射出速度は遅く、怪我をしない程度に威力は調節できているらしいので、内容に問題は無いかと。大会の後なので、神明の疲労がどの程度なのかが気になりますが、あの動きならそこも問題なさそうです』

 時雨はスポーツ中継の解説のように、映像を見た所見を述べた。一先ず、練習の内容に問題は無いとのことだ。

『念力ゾウオの攻撃に対抗できるのは、神明の身軽さとジュールの曲がる弾丸くらいです。この二人に懸かってるんですから、止めたらいけません』

 そう言ったのは和都。彼は厳しさと共に、二人への信頼も忘れていなかった。それでも、リヨモは耳鳴りのような音を止めない。
 そんな彼女には、伊禰が言葉を掛けた。

『ご心配ですわよね。でも、光里ちゃんは大丈夫ですわ。あの子、すぐ泣きますけど、逃げ出しませんもの。何回蹴り倒されても、泣きながら私に向かって来ました。そうやって、あの子は強くなったのです。今回も同じように、必ず強くなりますわ』

 伊禰は過去の訓練を振り返り、当時の光景と今の光景を重ねていた。しかし、楽観視するばかりでもなかった。

『ただ、光里ちゃんの方は確実に疲れている筈ですから、練習時間は制限したいです。適当なタイミングで私が通信を入れるか、姫様がお声掛けするか致しましょう』

 伊禰は産業医らしく、練習が長時間になり過ぎないよう気にしていた。リヨモはその言葉に「はい」と返した。


 かくして仲間に見守られながら続いた練習は、約一時間後にグリーンの意思で打ち切られた。と言うのも、その頃にはグリーンが十発ほどの弾丸を掻い潜って、レッドに迫れるようになっていたからだ。

「今日は遅くまで付き合ってくれて、本当に迷惑しちゃね。明日、全体の訓練が始まる前、また同じ練習したいけど……。付き合ってくれる?」

 変身を解いた光里は、満足そうな表情を浮かべていた。十縷は遅れて変身を解き、同じく充実した表情を見せた。

「嫌だって言ったら、また口利かないとか言うよね? 勿論、やるよ」

 十縷は笑い飛ばした。
    光里は「動機が不純」と返したが、表情は明るい。十縷はこの理由だけで応答している訳ではないと、光里は何故か確信していた。そんなやり取りを経て、二人は解散した。

    一連の光景を陰で見ていたリヨモは、見つからないよう気を付けながら足早にその場を後にした。
    リヨモが送る映像を見ていた時雨たち三人も、ようやく通信を切った。


 翌日、五月三日。十縷は五時起きで、和都と共に朝の自主トレに臨むのだが……。今回は、意外な人物も一緒だった。

「おはようございます。隊長って、男子寮にお住まいだったんですか?」

 インターホンに応じて自室を出た時、和都と一緒に時雨が居たので、十縷はかなり驚いた。
    簡素な返事で十縷の問を肯定した時雨は、珍しく朝練に同行する理由を語り出した。

「昨日、神明と二人で訓練に精を出していたな。あれは念力ゾウオとの戦いを想定したものだな。心掛けは凄く良いと思う。しかし、想定が足りないのが少し痛い」

 時雨はいきなり、昨晩の練習を見ていたことを明かした。
    驚く十縷に、和都が「姫が近くで様子を見ていて、映像を自分たちに送っていた」と説明した。

   そのまま三人は、こんな調子で話しながら寿得神社へと向かった。

「物を飛ばしてくる攻撃には、あの訓練で対応できるだろう。しかし、問題は距離を詰めた後だ。攻撃を掻い潜って満足していては駄目で、その後の接近戦で勝たなければいけない。相手は中距離攻撃が得意のようだが、だからと言って接近戦が苦手とは限らん。だから昨日のような練習に加えて、接近戦の練習をする必要もある」

 寿得神社への道を歩きながら、時雨は語る。早朝で人通りが無いので、構わず専門用語を連発して。彼の話は、寿得神社の境内に入った後も続いた。

「前の戦いで念力ゾウオは、俺たちの体を飛ばさなかった。奴が人体を飛ばせないのか、それとも偶然その手を使わなかったのか、そこは定かではない。しかし姫が送られた映像を見ると、奴は念力でバスを投げ飛ばしていた。重さだけで考えれば、バスを飛ばせるなら人体も確実に飛ばせる。だから、奴に飛ばされる場合も想定した訓練も必要だ」

 聞き手の十縷は、時雨の洞察力に感心させられた。

(凄いな、隊長。これだけ考えられるから想造力も強いのかな?)

 そして考えていたら、ふとこんなことを思い出した。

(そう言えば、隊長って国防大学校を出てるんだっけ? だから、剣道以外に射撃もできるし、作戦も考えられるんだろうけど…。だけど、なんで国防大を出て宝石屋になったの? 入社6年目だから、社員戦隊の為に国防隊から出向した訳じゃないし…)

 十縷が思い出したのは、入社式の前日に見た入社案内の運動部の見開きのページ。左側の頁に光里、右側の頁に時雨という構成で載っていた。
 記憶中に甦らせた右側の頁を読み進めた十縷は、時雨の経歴を再確認して改めて疑問に思った。しかし考えても解からないし、時雨にこの質問をするも何だか気が引けた。

 そんな感じで歩いていると、朝練の場所に到着した。ここからは定例のメニューに臨まなければならない。
    十縷は和都と共に、木刀や徒手空拳の素振りに精を出した。

    十縷と和都が素振りなどをしている間、時雨はいつもの空き地の方に向かっていた。
 彼が言うには、「指摘した点を補える訓練ができる準備をしておく」とのことらしい。そして時雨は朝練が終わる前には姿を消していた。

「どうせお前ら、午後の訓練の前に二人でやるつもりなんだろう? 俺と姐さんも付き合うぞ。隊長は即売会で午後からしか来れないけど、隊長が来るまで特訓するぞ」

 朝練が終わった時、和都は十縷にそう言った。

(行動、完全に読まれてる……。って言うか、皆さん気にしてくださってるんだな。それに、めっちゃ真面目だ。立派な先輩方だ……)

 つい三週間前までは訓練の厳しさに疲弊しきっていた十縷だが、今はその厳しさから周囲の優しさや直向きさを感じ取れるようになっていた。


 そして午前八時半、朝食を摂った後で十縷が寿得神社の杜へ向かうと、訓練場の空き地には光里に加えて、和都と伊禰が本当に揃っていた。

(凄っ……。八時半だよ。平日とやってる内容が違うだけで、休日も完全に仕事だよね。みんな、ストイック過ぎ……)

 この光景に十縷は驚きに似た感服を覚えた。その一方で、光里は和都と伊禰に謝意を述べていた。

「昨日の夜、リヨモちゃんが近くに居たのは音で判ってたんですけど、まさか皆さんも通信で見られてたなんて。本当に迷惑掛けます」

 光里の話は長めで、昨夜のうちに伊禰から通信があり、この件を知らされていたことが判った。話していると光里は涙ぐんできて、そんな彼女を伊禰が抱いて頭を撫でた。

「礼には及びませんわ。隊員の状況は把握しておかないといけませんから。それにゾウオのことは、全員で対処しなければなりません。お一人で責任を感じ、抱え込まれるのは厳禁ですわよ」

 泣く光里と抱擁する伊禰。象徴的なこの構図に、十縷は頷かされた。

    さて、和都は光里と伊禰とは少し離れた場所に居たが、十縷が来ると二人に歩み寄って彼の到着を軽く耳打ちした。それから、和都は全体に向けて語った。

「と言う訳で、念力ゾウオに対抗する為の訓練を早速始めましょう。組み合わせは、ジュールと俺、神明と姐さんで……」

 和都の話の後、和都と十縷は空き地に残り、光里と伊禰は杜の木々が覆い茂った部分に移動した。
   それから四人とも変身し、訓練を始めた。


次回へ続く!

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