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社員戦隊ホウセキ V/第31話;互いに危機一髪!

前回


 四月十二日の月曜日、午前九時頃に東京の多可駄婆駅付近で、扇風ゾウオと社員戦隊ホウセキVが交戦した。
 ホウセキVは作戦を読まれ、ブルーとグリーンがゲジョーの呼んだウラームたちに足止めされた。陽動役のマゼンタら三人は扇風ゾウオの強風に苦しめられ、ついにレッドがその風に屈してしまった。



 イエローは地に差した剣を握ったまま、扇風ゾウオが巻き起こす風に耐えていた。

(こいつは俺たちに集中して後ろには無警戒だ。だから、ブルーとグリーンが来たら一発でやられる。だけど二人はウラームに足止めされてて、いつ来られるのか解らない。ニクシム神の力が届かなくなる時間には、まだ早い…)

 イエローはこの状況を脱する方法を模索していたが、名案が浮かばない。今の状況は、イエローたちにとって悲観的な要素が多かった。
 そんなイエローの背を、彼の少し後ろで街灯にしがみつき、風に耐えているマゼンタが見つめる。

(ジュール君が飛ばされた。こうなると、ワット君は自分も飛ばされる想像しかしなくなりますわね。ですけど彼は気力で体力を補えますし、勝機を見出せればそこに食らいつきますわよね。でも、どうすれば彼が勝機を見出すでしょうか…)

 どちらかと言えば、イエロー=和都は悲観的な考えをしがち。そんな彼を突き動かすには、どうすれば良いのか? 難しそうだが、マゼンタ = 伊禰は柔軟な思考ができる方だ。割と短時間で答を出せた。

(性格的に、ワット君よりもゾウオの方が楽に動かせますわね! 一か八か!)

 マゼンタは閃いた。それが成功する保証は無かったが、取り敢えず試さなければ事態は改善しない。マゼンタは思い切った。

「お疲れですか? 風が弱くなってますわよ!」

 街灯にしがみついたまま、マゼンタは声を張り上げた。その声は扇風ゾウオの風に負けず、イエローや扇風ゾウオの耳に入った。
 扇風ゾウオはこの発言を笑い飛ばした。

「風が弱くなった? なのに吹っ飛ばされそうだな? お前ら、弱過ぎだな」

 扇風ゾウオはニクシム神の力がまだ届いているのを感じていたから、自分の風が弱くなる筈が無いと確信していた。だからマゼンタの発言をただの挑発と見抜き、挑発し返す余裕があった。
 しかし、この返答はマゼンタが期待したもので、彼女はメットの下でほくそ笑んだ。

「風が弱くなってないのに、私たちを飛ばせませんの? 弱いですわね! まあ、ゾウオなんて急にスタミナ切れして負けるのが黄金パターンですから、仕方ありませんわよね!」

 まさか、マゼンタ = 伊禰の口がこんなに悪いとは…。というのはさておき、この発言で扇風ゾウオは怒った。

「言ってくれるな! てめえ、絶対に吹っ飛ばしてやる!」

 扇風ゾウオは怒り、意地でもマゼンタを吹っ飛ばそうと思った。その結果、扇風ゾウオは五歩ほど前に出て、扇の振りも先より大振りにした。
 これで先よりも強い風が起こるようになったが、かなりの代償を払っていた。

(振りがデカくなったせいで、振り切った後の隙が大きくなった。しかも、わざわざ近付いてくれた。これなら、振り切った後を狙って反撃できる!)

 イエローはそのことに気付いた。理にかなった希望が見えると、彼は強かった。

(行ける! 黄のイマージュエル! 俺の筋肉に力をくれ!!)

 扇風ゾウオが扇を振り切った。先よりも強い風が襲い掛かるが、追撃はすぐに来ない。この隙を突いて、イエローは剣から手を離して前に走り出した。
 イエローが突進してきたことに、扇風ゾウオは息を呑む。すぐに扇を再び振って風でイエローを飛ばそうとしたが、それより先にイエローが扇風ゾウオとの距離を詰めた。

「しまった……! こいつ、放しやがれ!」

 扇風ゾウオに突撃したイエローは、そのままクリンチを掛けるように抱きついた。これで扇風ゾウオは両腕を完全に拘束されて扇を振れなくなった。いくら抵抗してもイエローの腕力には勝てず、身動きが取れなくなった。

「狙い通りですわ! イエロー、恩に切りますわよ!」

 もう風は止んだ。マゼンタも街灯から手を放し、猛然と走り出した。

英拳えいけん奥義おうぎほう細葉ほそば鳥兜とりかぶと!)

 マゼンタは円を描くような足運びでイエローに拘束される扇風ゾウオの左脇を通り過ぎ、その際に左の手刀を扇風ゾウオに叩き込んだ。
    回転運動に乗せた一撃を盆の窪に受けて、扇風ゾウオは全身が痺れて脱力した。イエローが締めていないと、その場に崩れてしまう程に。

「どりゃあああっ!」

 イエローは扇風ゾウオを高々と担ぎ上げ、それから力一杯に投げ飛ばした。細葉鳥兜で弱った扇風ゾウオは抵抗できず、車道の方に飛ばされて中央分離帯の柵に激突されられた。扇風ゾウオは柵を破り、中央分離帯の上にうつ伏せとなった。

「みんな。遅くなってすまん!」

 イエローが扇風ゾウオを投げ飛ばした直後、ウラームを一掃したブルーとグリーンがこちらに駆けてきた。二人は扇風ゾウオを怯ませたイエローとマゼンタを称えたが、同時にレッドの不在も気にした。

 しかし、彼らに長々と喋っている暇は無い。扇風ゾウオが四肢に力を込め、立ち上がろうとしていたからだ。

「あいつを仕留めるのが先決だ。ホウセキャノン!」

 敵の状況を最初に察したのはブルー。
 その彼の呼び声に、レッドが生み出した新兵器が空を割って出現した。金を施した水晶細工のような大砲が空から降りてきて、ブルーたち四人はそれを担ぐ。
    ブルーが先頭、マゼンタとグリーンがそれぞれ左と右を支え、イエローが最後尾で把手を握るという配置で。

(ソードフィニッシュやガンフィニッシュよりも、ホウセキャノンの方が短時間で撃てる上に威力も高い)

 という理由で、ブルーはホウセキャノンを選択した。しかし、懸念されることもいろいろあった。

(熱田が居ないから、赤のイマージュエルの力が入らない。反動は前より小さくなるだろうが、それでゾウオを倒せるのか?)

 まずイエローがそのことを心配し、次にグリーンがこのことを心配した。

(お姐さん、この前ホウセキャノンを撃った時、凄く苦しそうだったよね? 大丈夫なの?)

 しかしブルーが「四人で撃つぞ!」と叫び、砲撃が敢行されることとなった。
 四人はホウセキャノンにイマージュエルの力を注いだ。無色透明の大砲の内部には、青、ピンク、緑、黄の光が目まぐるしく駆け巡る。

「ホウセキャノン・ボンバー!」

 充分な力が充填されたと判断すると、イエローは引き金を引いた。砲身の中を走っていた四色の光は黄の光球となってまとまり、発射された。
 光球の大きさは、レッドを含む五人で放った時より大きかった。その割には反動が小さく、前回のように発砲した途端に横転することはなかった。しかし…。

「あれ? なんか、遅くない?」

 思わずグリーンが言った通り、射出速度が異様に遅かった。おそらく、普通の人間が走れば抜き去れる程度だ。大きな光球はゆっくりゆっくりと、扇風ゾウオに迫る。
    このまま扇風ゾウオが倒れていてくれたら良かったが、扇風ゾウオには味方が居た。

「扇風ゾウオ! 逃げるぞ!」

 交差点の方から、女子高生に扮したゲジョーが走って来た。その足は、黄の光球より速かった。だから光球が達するより前にゲジョーは扇風ゾウオの前に走り込み、宙を叩き割って穴を開けた。そして、立とうとしていた扇風ゾウオの腕を掴み、そのまま穴の中に引っ張り込んだ。光球が扇風ゾウオの居た位置に到達したのは、ゲジョーの開けた穴が塞がった後だった。
 かくして光球は中央分離帯に炸裂し、派手に爆発した。レッド抜きでもその威力は激しく、爆心地はクレーターのように穿たれ、四人は爆風で倒れた。

「逃げられたか…。くそっ!」

 イエローは上体を起こし、すっかり荒れた街を眺めつつ、ゾウオを仕留め損ねたことに舌打ちをした。


 あわや撃破寸前の窮地をゲジョーに救われた扇風ゾウオ。そのままゲジョーに連れられて、小惑星の地下空洞に帰投した。

    二人は生還を報告するべく、ニクシム神の祭壇がある部屋を訪れる。そこにはマダム、ザイガ、そしてスケイリーが待っていた。

「扇風ゾウオよ、よく生きて帰ってきた。まずは傷を癒せ」

 二人が姿を見せると、マダムは涙すら浮かべる勢いで駆け寄って来た。
 扇風ゾウオはマゼンタの細葉鳥兜で受けた体の痺れがまだ取れず、自分より小柄なゲジョーの肩を借りてぐったりしている。「すみません」と小声で返すのが精一杯の様子だった。

「やはり地球のシャイン戦隊は強いです。ゾウオ一体では厳しいかもしれません」

 装いをゴスロリに戻していたゲジョーが扇風ゾウオを岩壁に寝かせつつ、現場で戦いを見た感想を率直に述べた。彼女が送る映像を見ていたマダムも同じ意見で、「確かに」と呟きつつ頷く。
 しかし、スケイリーは違った。

「そこまで強くはねえよ。実際に地球のシャイン戦隊と戦った俺が言うんだから、間違いねえ。やられそうになったのは、こいつが弱いからだ」

 スケイリーは壁に背を凭れる扇風ゾウオに近づきながら、彼を罵る。
 マダムやゲジョーはこの行動を視線で非難したが、スケイリーは構わず続けた。

「俺の時と違って、赤の戦士が入ってたなんて言い訳は認めねえぞ。あいつは真っ先に吹っ飛ばされた。想造力は強いのかもしれんが、体力はクソだと見た。あいつ一人が加わったところで、地球のシャイン戦隊の力が跳ね上がったとは言えねえ」

 スケイリーは言いたい放題だ。しかし扇風ゾウオは敗走した手前反論しにくく、舌を打つしかできない。
 それをいいことに、スケイリーは演説を続けた。

「それと、ニクシム神はまだ力を送れてた。なのに、こいつはられかけた。黄の戦士と紫の戦士、たった二人にだ。弱過ぎる。俺はあいつらを、四人まとめて圧したぞ」

 スケイリーの言う通り、戦闘中にニクシム神の光が勢いを失うことはなく、地球に力を送り続けていた。これを筆頭に、スケイリーは扇風ゾウオには耳の痛い事実を列挙してくる。
 スケイリーの発言に間違いは無いが、貶められ続ける扇風ゾウオも黙ってはいなかった。

「図に乗るな、このクソ巻貝が!」

 扇風ゾウオの怒りが頂点に達し、強い憎心力に昇華した。その力は彼に消耗を忘れさせ、スケイリーへの攻撃を敢行させた。
 扇風ゾウオが弱っていると思って油断していたスケイリーは、相手が立ち上がって掴みかかって来たことに驚き、怯んだ。扇風ゾウオはそのまま勢いに乗り、スケイリーを他の部屋に続く通路の方まで押しやると、扇を取り出して豪快に振り、暴風を食らわせた。
 その風は通路に設けられた松明を一瞬で吹き消しつつ、屈強なスケイリーの体を軽々と浮き上がらせて彼方まで吹っ飛ばした。
    マダム、ゲジョー、ザイガは呆れたような様子で、吹っ飛ばされたスケイリーに同情的な雰囲気は見せなかった。

「もう一度、俺を地球に送ってください。次こそは必ずシャイン戦隊を……!」

 扇風ゾウオは振り返り、マダムたちに懇願した。これに対してマダムとゲジョーは困惑した表情を見せたが、ザイガは微かに鈴のような音を立てていた。

「其方はまだ戦える。しかし、地球のシャイン戦隊は強い。そしてスケイリーの言う通り、ニクシム神にはまだ余裕がある。ならば其方ともう一体、ゾウオを送り込み……」

 マダムは眉間に皺を寄せて呟きつつ、後方のニクシム神に目をやった。その視線の先では、ニクシム神が青黒い霞のような光を発し続けている。
    ニクシム神は少しずつでも成長しているので、ゾウオたちの活動時間は長くなっている。ならば、複数のゾウオを送り込んでも対応できるか? しかし、失敗すれば一度に複数のゾウオを失う。マダムはジレンマに駆られ、言葉を詰まらせた。
 するとザイガが別の案を提示してきた。

「ゾウオを二体送るより、あの計画を実行しませんか? 今のニクシム神なら、可能かと思われますが」

 鈴の音を小さく鳴らしたまま、ザイガは言った。「あの計画」と聞き、マダムとゲジョーは驚いたように目を見開いた。
 そんな彼女らを他所に、ザイガは扇風ゾウオに歩み寄る。

「扇風ゾウオよ。第一号になってみるか?」

 ザイガは感情の籠らない喋り方で、扇風ゾウオに問い掛けた。扇風ゾウオの方はまだ息が切れていたが、大きな青い隻眼で真っ直ぐとザイガを見据えて、深く頷いた。


次回へ続く!

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