レジェンドカメラマンから学んだこと


■実はダテメガネです。


社会人になってから、20年間ずっとメガネをしています。
でも、実はダテメガネです。

メガネをかけると見た目の年齢が少し上がるんですよね。
新人の時は相手から舐められないようにと、メガネをかけ始めました。
実は視力は両方とも2.0で、目はとてもいい方です笑。

こんな話をしていると、あるカメラマンから「効き目」の話をされました。
利き足や利き手と同じように、目にも効き目があると。

その方は左目が効き目で、ファインダーを左目で覗いていました。
左利きは右脳を使うので、アーティストには左利きが多いと聞いたことがあります。

特に写真のような想像力や感性は大事な要素ですから、
なるほどなーと納得したことを覚えています。

もちろん、自分の効き目は右です笑

左脳的・論理的に物事を進めることはできるのですが、
この仕事はちゃんと右脳も使わないといけない。
だから、感性の部分で勝負されている方々に対して尊敬しています。

ここまで書いてみて、自分がダテメガネをかける理由がとてもしょーもなく思えてきました笑
そろそろメガネを外そうかな。。


■レジェンドカメラマンから学んだこと


ここからが本題です。

今まで数多くのカメラマンの方とご一緒させて頂きました。
今回は、3名のレジェンド級のカメラマンとのお仕事を通じて、
自分が感じたこと・学んだことを中心に、CMの価値という部分に少し繋げて書いていきたいと思っています。



■写真・映像の力を信じること<上田義彦さんとのお仕事>


去年から今年にかけて、上田義彦さんとご一緒しました。
上田さんと言えば、広告業界では最も有名なカメラマンのひとりです。


最初にお仕事の打診を、私のみで葉山のご自宅へ伺い、ご説明をしました。

高台にある、まるで映画のロケ地のような素敵な日本家屋。
私はめったに緊張しないタイプですが、その時はかなり緊張しました。
周りから聞く上田さんのお話(こだわり)から、ちょっと怖い人かなと想像していたからです。

でも、最初に上田さんにお会いした時、
とても柔らかい笑顔で私を迎え入れてくださり、
私の話を、静かに頷きながら聞いてくれました。

その時に上田さんから言われた言葉で印象的だったのは、

「その広告が世の中を少しだけ元気にする。クスッと笑える。
そんなチャーミングなものができたら、とてもいいですよね。」

と言っていたことです。

最後に「この仕事を受けて頂けますでしょうか?」と伝えた後、
3分くらいでしょうか。静寂な時が流れました。
私にとっては、とてもとても長い時間でした。

そして、上田さんが窓をみて一言。

「今日はいい天気ですね」

その時のことは、一生忘れないでしょう。
私でよければと快諾してくださりました。

上田さんはとにかく柔らかい空気を纏っていて、自然体です。
すべてを受け入れてくれるような、優しい話し方。
私は一気に上田さんのファンになっていました。

前段が長くなってしまいました汗。

ご一緒したお仕事は、技術スタッフは上田さんとアシスタントのみ。
全員で6名ほどの超最小クルーで、照明も美術も一切なし。
ロケ地も出演者も、上田さんがいいと思った場所・そこにいる人を直接口説いて撮影するという、プロダクション的には前代未聞のCMでした。

驚いたのは、自分がここのロケ地は難しい(画にならない)かもなあと思ったところでも、上田さんがファインダーを覗くと、必ずそこでいい画ができあがること。

そして、誰1人出演を断ることなく、その場で上田さんが撮影した映像を、その出演者に見せて、「ほら、こんな感じに撮れてますよ」と優しく話しかけていたことです。

上田さんと学んだことは、カメラマンは自分の感性に従って写真(映像)を撮ること。 うまく撮ってやろうとか、機材がどうとかではなく、「自分が」撮りたいと思った瞬間を大事にすることでした。

写真は自分が出る。
写真や映像の力を信じている人の想いを感じました。


■ただひたすらストイックに<藤井保さんとのお仕事>


2人目は、藤井保さんです。
藤井さんもレジェンドカメラマンのひとり。


藤井さんはとにかくストイックでかっこいい人でした。
ご一緒した長崎バスとボディメンテのお仕事。


どちらも遠方ロケでしたが、印象的なのは、ロケハンの際に早朝集合のロケバスの中で、 「こういうのはどうだろう?」という提案の話から入ることでした。

聞くと、ずっと宿泊先のホテルで考えているとのこと。
ロケバスの中でも、一切眠らずずっと外を眺めています。
そして、「止めてください」と道中ロケバスを止めて、ひとりでその周りを回っていました。

印象的なエピソードとしては、 屋上での撮影の際、その日は空が薄曇りで光がよくないからと撮影ができず、 翌日晴れて同じ場所で撮影スタンバイをしたのですが、全く別のアングルで撮影をされていたことです。

藤井さんに聞くと、「昨日の空気だとこっちのアングル。今日はこっちのアングルが良いと思ったから。」と。その画はコンテとは全然違う画でしたが、そこは関係なし。 結果、とても素敵なCMができあがりました。

藤井さんから学んだことは、純粋にストイックに自分の役割を全うする姿勢。 もちろん雑談もしますし、時折みせるチャーミングな笑顔も素敵です。
ただ、仕事の時は本当にまっすぐです。
そして良いと悪いをはっきり口にする。

上田さんもそうですが、カメラマンに委ねるというのは、こういうことかと実感します。 その場の空気、光で良い映像は変わってくる。

コンテ通りのアングルをただ切るのではなく、こっちの方がいいという感性を信じて、クライアントも広告会社の方々もそこに委ねた結果、CM全体の印象度が格段に上がるという経験をさせて頂きました。



■ 「頂きました」  <山崎裕さんとのお仕事>


最後は、山崎裕さんです。
山崎さんは、上田さんや藤井さんと違いスチールカメラマンではなく、純粋に映像カメラマン。そしてドキュメンタリーを得意とするカメラマンです。

有名なところは、是枝監督の映画「誰も知らない」のカメラマンです。

山崎さんはとにかくアグレッシブ。ご飯もすごい食べます笑
今は83歳!ですが現役バリバリなのも納得です。

山崎さんとはいくつかご一緒しましたが、印象的なのは、
九州朝日放送の60周年記念映像UBUGOEです。


この仕事は、赤ちゃんの産声で音楽をつくるというプロジェクトで、
撮影期間は3ヶ月。数名の出産前から出産までのドラマを描いた映像です。

出産のタイミングは読めません。
陣痛の一報を聞いて、すぐにスタンバイしてカメラを回す。
ドキュメンタリー映像の大変さを実感しました。

なにが起こるか分からないドキュメンタリー。
その一瞬を絶対に逃してはいけない。
私たち制作部の段取りミスや不手際でそのシーンを逃した時は、とても怒られました。

そして、ドキュメンタリーはどうしてもこちらの意図する(欲しい)シーンを撮りたいがために、出演者に対して指示や誘導をしたくなります。
それをした時もよく怒られました。

その人の嘘のない言葉で作るしかない。
それが人の心を打つドキュメンタリーになると。

そして、撮影が終わった後、山崎さんが必ず言う言葉。

「頂きました」

この言葉に全てが凝縮されていると思いました。

だから、山崎さんはずっとカメラを回す。
もういいんじゃないかってくらい、ずっと気づいたら回している。
疲れたとかそういうことは一切聞いたことがないです。

山崎さんから学んだことは、ありのままの強さ。
そして、ひたすら静かに我慢することで、得られる一瞬の輝き。

映像にすることはその一瞬を一生残すことであることの素晴らしさを教えてもらいました。


■CMは「作品」なのか?


私は、自分が携わったCMを「作品」と言わないようにしています。
「作品集」は「仕事集」としています。

理由は、自分がクリエイターやアーティストではなく、
そういう方々を繋げる役割なので、「作品」というには烏滸がましい
と思うから。

そもそも広告はクライアントのために作るものであって「作品」ではないという意見もあります。

自分もプロデューサーの立場として、そこは同感なのですが、
広告会社CRやスタッフの方々にはあえて「作品」と言って欲しい。

広告はクライアントのためのものですが、各方面のプロアーティストの方々の力をお借りしないと成立しません。

そんなプロの方々が胸を張ってこの仕事を「作品」と言えるように、みなさんの力を出しきって頂くのが私たちプロダクションの仕事だと思っています。

(※ちなみに、プロダクションのプロデューサーやプロダクションマネージャーが「作品」と言うことに対して、否定しているわけではありません。あくまで自分の考え方であり、ちょっと卑屈なところが出ているだけだと思います笑)

で、今回、私がこのテーマを書きたいと思った最大の理由は、
想いを込めてカメラマンが撮影した映像を、ただの画(コンテンツ)だと思っている人が多いことに対しての危惧からです。

アーティストの力を借りているという自覚がない。
つまり、リスペクトが著しく欠けているケースが増えています。

例えば、縦型動画。
カメラマンが撮影したCM用の映像を、SNS用にトリミングして縦型にできませんか?というオーダーを最近よく受けます。

もちろん物理的には可能です。
ただ、カメラマンがプロとして、16:9の画角でベストだと思う画作りをしたものを、 勝手にトリミングすることは、カメラマンに対してリスペクトに欠けた行為です。

例えるなら、レストランでオーダーしたステーキを、ミキサーでドロドロにして飲んで、美味しいですね。と言う行為だと思っています。
お金も払ってるし、こっちは客なんだから、別に食べ方は自由で構わないでしょ?と。

でも、それをみたシェフはどんな気持ちになるでしょうか。
カスハラという言葉もありますが、 お客さんが一番偉いわけでもなく、なにをしてもいいというわけじゃないと思います。

こうなると、本当に広告は文化をつくれなくなる。
ただのコンテンツとして消費される手段の一つにしかならなくなる。

だから、アーティストの力を信じて委ねることだったり、
効率だけじゃない、目に見えないアートの力を信じることが、
視聴者の心を動かす可能性につながって、より広告としてもジャンプできると信じています。

※ちなみに、縦型動画の依頼をされた場合は、まずは縦でカメラマンにアングルを切っていただく。その場合、お金や時間もかかりますので、それができない場合は、カメラマンの方にしっかりお伝えした上で、トリミングをしてもいいか、それに耐えられる横縦の画角を相談して進めています。


■おわりに


今回は、3名のレジェンドカメラマンの方のエピソードを書きましたが、
もしかしたら古き良き時代の話だと思った方もいるかもしれません。

撮影機材が進化して、誰でも映像を回せる時代。
極論をすれば、コンテがあるならコンテ通りの映像を作ることは、素人にもできます。
この時代にフィルムで撮影することに、全く意味がないと言う人もいます。

でも、自分はやっぱりカメラマンの感性、アーティストの力を信じたい。
そのカメラマンしか見られない世界を視聴者に届けるCMの力を信じたい。
そして、それがきっと視聴者に伝わるという人の感性を信じたい。

先日、上田さんの個展に伺いました。
そこには、上田さんが過去に撮影したたくさんの写真が飾られていましたが、 大盛況で、中でも若い人がとても多かったことが印象的でした。

時代は違えど、目に見えないなにかが人の心を動かす。

繰り返しになりますが、 カメラマンに限らず、照明技師、美術デザイナー、スタイリスト、ヘアメイク、エディター、ミキサー、音楽プロデューサーなど、CMは多くのプロアーティストの力を少しずつ借りて完成します。

広告はクライアントのもの。 だけど、それぞれのプロの方々の生業をリスペクトしないといいものは生まれませんし、 私は、そんなプロの方々には、自信をもってできる・できないを言って欲しいと思っています。

今の時代、柔軟に対応できる方々のニーズの方が高いと思います。
めんどくさいことを言って、仕事がなくなったらどうしようと。
でも、ただのオペレーターとしてお願いしているわけではありません。

年齢や経験値などに捉われず、自分の肩書きに自信を持って。
特に若いスタッフの皆さんには、どんどんわがままを言って欲しいと思います。

その環境をつくってあげるために必要なのは、まわりのリスペクトです。
CMがただのコンテンツにならないように。

広告が人の心に残り、ジャンプできる可能性を消さないためにも。
そして、若い人がこの業界を楽しいと思ってもらうためにも。

今回も長文読んでいただき、ありがとうございました!


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