ココが変だよ!? 日本の広告業界 〜ディレクター篇〜
※今回は「変」ということではなく、海外と日本の違いをきっかけに、自分が思ったことを書いてみようと思います。
■ディレクターって?
今から19年前。
就職活動で電通クリエーティブクロス(旧:電通テック)を受けた際のエントリーシートが「CMプロデューサー職」と「CMディレクター職」のどちらかに○をつける形でした。
当時は、違いもわからず「プロデューサーの方が偉そうだな笑」くらいの気持ちで○をつけたのを覚えています。
今となっては、ディレクター職にしなくてよかったと思います。
絶対に受かってないと思います苦笑
■日本と海外のディレクターの違い
ここからが本題です。
① トリートメント競合文化
日本も海外も、ディレクターがアウトプットにおけるクオリティの総責任者であることは変わりません。一番の違いは、アサインの仕方が日本と海外で異なるという点です。
日本はプロデューサー(プロダクション)に最初に指名が行き、その後ディレクターをアサインするという形が一般的です。
海外では広告会社(以下AG)から複数のディレクターを指名・競合させ、その演出プランと、ディレクターに紐づくプロダクションが出す見積をみて判断します。
いわゆる「ディレクタートリートメント競合」というものです。
もちろん例外はありますが、海外ではトリートメント競合が一般的です。
なので、ディレクターはトリートメントを書きまくり、プロダクションはそのトリートメントを元にして見積もりを算出します。
トリートメントには、演出プランや参考イメージの写真が並びます。
基本的には、絵コンテではなく文字と写真で構成されており、このイメージを元に進行するので、途中の資料探しなどはあまり発生しません。
あったとしても、ディレクター本人が追加でリファレンスを出します。
海外の場合は、プロダクションとディレクターが敵対するのではなく、タッグを組んで作品のクオリティとプロジェクトの利益を守っています。
ディレクターには粗利に対してインセンティブが発生することも多いです。
日本の場合は、AG&プロダクション vs ディレクターの図式になるので、どうしてもディレクターが孤立しがちです。
さらに、ディレクター目線で言うと、プロダクションがAGの御用聞きに見えてしまうことも多く、パートナーとして不満に思うディレクターも多いのではないでしょうか。
② REP会社の存在
AGから直接ディレクターに声がかかるので、監督の売り込みが大事です。
海外では、REP(Manufacturer's Representative)システムがあり、その会社がAGへ監督の紹介=営業をかけます。
REP会社は、アサインができたら成功報酬としてフィーをもらいます。
AGは採用された企画に対して、適切なディレクター複数に声をかけて、平等に判断するので、REPで紹介されたディレクターを、トリートメント競合に参加させることにあまり抵抗がありません。
ディレクターにとっては、チャンスが生まれやすい環境と言えます。
③ ディレクターは撮影まで
日本では最後の仕上げまでディレクターが担当しますが、海外では撮影までです。(国、地域によって関り方の程度はありますが)
仕上げ(ポストプロダクション)は、エディター等のスタッフ指名まではディレクターがして、できたものを確認はしますが、基本的には、仕上げ作業はAGが主導となります。
当然、プロダクションも仕上げには関わりません。
なので、日本でもよく聞く「ディレクターズカット」というものが存在します。 ディレクターの理想系の編集はつくって、REP会社を通じて、それを営業ツールとして見てもらうという意図もあります。
一方AGにとっては、編集作業において、クライアントの要望を叶えやすくなるというメリットがあります。
■トリートメント競合のメリット
①複数の演出プランから選べる
プランナーにとって、クオリティを左右するディレクターを誰にするかは非常に重要です。企画の生みの親が、直接ディレクターのプランをみて判断することはとても有意義だと思います。
そして、選んだからにはそこに責任が生じる。
AGとディレクターとプロダクションが一体となって進めていけるパートナーシップの醸成にも一役買うと思います。
②若手にもチャンスが生まれる
近年、活躍している監督の年齢層が上がってきていると思います。
もちろん、ベテラン監督にお願いする安心・安定感はあるのですが、今の現状だと若手が台頭する機会があまりに少ないです。
広告制作費が減っていて、失敗できないという現状もあるので仕方ないと思いますが、リールのみで判断する場合がほとんどなので、若手が採用されにくい=チャレンジがしにくい環境となっています。
そんな中、トリートメントがしっかりしてれば、若手にもチャンスが生まれやすくなると思っています。
③ 費用とクオリティの総合的な判断ができる
トリートメントの数と同じ数の見積もりを同時にみることになります。
コスト面で問題になるケースの大半が、演出コンテでのコスト増です。
その部分を事前に取捨選択できることは、費用面の問題を解決できることにつながります。
■「プロダクショントリートメント」の文化に
このように、海外ではAG→ディレクターという文化なので、日本とはシステムが違います。
日本では、AG→プロデューサーになっていますが、主従が違うだけで、日本でももっと積極的にトリートメント競合をするべきだと考えています。
例えば「ディレクタートリートメント」ではなく、「プロダクショントリートメント」という形にする。
プロデューサーに最初に話が入り、どの監督をアサインするかもプロデューサーに委ねられるとしたら、それも含めてプロデュースですし、プロデューサーのセンスが試されます。
そして、予算面のことも気にしつつ、ディレクターとの関係値が直接、受注の可否につながります。ディレクターとプロデューサーの関係値も対等になります。
これなら日本でも物理的に可能で、実際に自分も何回かやったことがあります。 外資系の広告会社では当たり前になっています。
ただ、日本ではまだトリートメントという文化自体が浸透していないので、ディレクターとしては困惑しますし、ディレクターを競合するという考え方自体が失礼であると考える人も多いのではないでしょうか。
しかし、若手にとってはチャンスが広がる機会が生まれ、トリートメント作成にあたって、プロダクションが協力する体制を組めばよいだけです。
(海外では、トリートメントを作るための専門職もいます)
なぜ、日本でトリートメント文化が生まれないかは、こういった日本人の文化的な側面もあるのですが、最も大きな理由は、企画からプロダクションが参加しているからです。
「ココが変だよ〜企画篇」でも書いた部分ですが、企画をAG内で完結できれば、企画決定後にプランナーがこのディレクターにお願いしたい!という逆算で、ディレクターと関係値があるプロダクションを指名することもできます。
つまり、ディレクターをフラットに指名することができます。
プランナーにとってもいいことだと思うのですが、今はそれができる環境ではありません。
やはり、トリートメント競合を進めるためには、企画をAG内で完結させることが必要です。プランナーにとっても、ディレクター選定を自分ごと化して、いいものを世の中にだせるメリットになると思います。
■ディレクターのギャラが安すぎる問題
ディレクターは、工数計算で算出できない職種です。
アーティストのフィーとして自分のギャラを設定してよい職種ですし、それだけの価値と責任がある職種です。
前述したREPが日本に存在しない理由として、システム上のこともあるのですが、このギャラが安すぎる問題も大きな原因です。
REP会社として利益がでないのです。
ディレクターは、演出コンテの制作から各種打合せまで、多くの時間を費やします。 ギャラによっては時給換算すると、国が定める最低時給以下になることもあると思います。
また、日本では仕上げまでディレクターが携わるので、かかる時間としては海外よりも多くなります。それでも、海外のレートに比べると、日本のディレクターのギャラは圧倒的に安いです。
広告制作費自体が下がっているので、難しい問題もあるのですが、ベースは制作費の8―10%が監督のフィーの基準になってよいと自分は考えています。 (それができないことも多々ありますが、、涙)
少なくとも、ディレクターのギャラは一番最初に守りたいと思っています。
そのようにAGにもお伝えします。
そうしないと、CMディレクターになりたいという夢をもつ若手がいなくなり、 アウトプットの責任者であるディレクターのスキルが育たなくなります。結果いいものが生まれなくなる。
現状では、責任と報酬がかなりアンバランスであると感じています。
■REPとマネージメントの両立を
KEY proには「トランポリン」という、若手クリエイターを対象としたマネージメント部門があります。
トランポリンは、初めて独立するクリエイターに限定して、マネージメント料は破格の3%に設定しています。
売上額に応じてそのパーセンテージは上がりますが、あくまで応援という意味でマネージメント料は安くしています。
会社としては、投資という意味合いでもあります。
そこに所属するクリエイターが育ってくれたらOKというスタンスです。
また、他のマネージメントと違うのは、機会創出も担うという点です。
これは、自分の考えでもあるプロデューサーとディレクターが二人三脚で成長していくという思いから、利益度外視で考えています。
例えば、積極的に他のディレクターの現場に参加してもらって勉強してもらったり、プロデューサーが、ディレクターやカメラマン候補の中の一人にいれたりと、REPに近い動きもできるようにしています。
CMという業界が、狭くて閉じられた世界に見えている部分をもっとオープンにしていくためには、若手の台頭は大事だと思うので、それの一助になることが、業界全体の活性化につながると思っています。
■プロデューサーはディレクターの味方に
ディレクターという職業は結構孤独で、責任も重い職種。
アーティストという側面と、広告というクライアントオーダーも消化しながら進めていかなければいけないという、ジレンマも半端ないと思います。
そのために、プロデューサーは常に近くにいて味方になること。
噂になる人気プロデューサーは、例外なくディレクターを大事にしています。 これは、本当に例外がありません。
自分もまだまだ未熟ですが、すくなくとも進行する上で、ディレクターへのリスペクトを忘れずに、二人三脚でやれるように心がけています。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?