ココが変だよ!? 日本の広告業界 〜スケジュール篇・前編〜

■企画決定から納品までの最短記録

この業界を長くやっていると、シビれる仕事というのがいくつかあります。 中でも、企画決定から3日後にタレント撮影。翌日仮編集して、翌々日に納品というスケジュールのCMがありました。

そういう時はアドレナリンが出まくりで、「やってやるぞ!」という気持ちで、いかに成立させるかを考えながら、担当したことを覚えています。

えてして、そういうヤバい仕事の方が、後に思い出話になったり、盛り上がったりするものです。ただ、「できてしまった」という実績を残すことが良いのか悪いのか。とはいえ、自分の中で「やってやれなくはない」というハードル設定が上がってしまった案件でした笑

■日本と海外の制作スケジュールの違い

海外との制作スケジュールの違いを語る上で、欠かせないことがあります。
それは、「作業範囲記述書」=「SOW(scope of work)」の存在です。

SOW例

上記例は、かなり簡略化しています。
もっと詳細に取り決めるSOWもたくさんあります。
海外では、クライアント(以下CL)⇆広告会社(以下AG)⇆プロダクションの間で、SOWの取り交わしが基本になっています。

SOWとは、納期や作業範囲を明記した上で、金額を取り交わす契約書です。 この範囲を超えたものは、追加でチャージされます。
日本でも発注書を事前に送るようになりましたが、現状の発注書はここまで明確な範囲が規定されておらず、曖昧な状況で作業を進行していくことがほとんどです。

このSOWを元にして海外では進行していくので、例えば、進行していく上で修正や変更があった場合、改めて納期や金額を設定して都度、修正SOWを更新していきます。特に納期に関してはフレキシブルな印象です。

一方日本では、納期が絶対的に決められていることが多く、途中の変更や修正に対して、制作スケジュールを圧縮させて間に合わせるという違いがあります。修正費用が認められない場合もあります。
(もちろん、追加費用に理解があったり、納期をずらす判断をされるCLもたくさんいます)

日本と海外のスケジュール進行の違い

このSOWの動きは日本でも少しずつ広げようとする動きがあります。(日本におけるSOWの書面は下記参考)
https://i-c-e.jp/file/tool/production/sow/SOW(%E4%BD%9C%E6%A5%AD%E7%AF%84%E5%9B%B2%E8%A8%98%E8%BF%B0%E6%9B%B8).pdf

しかし、
・AGのFEE制度が広がらない
・手付金(前金制度)が無い

という、実は本質的な部分のせいで、難しいところもあります。
書くとかなり長くなってしまうので、追々書いていけたらと思っています。

この問題は、日本人の文化的な慣習として「根性でなんとかする!」という点が色濃く残っています。もちろん、良い面も悪い面もありますが、AGの皆さんも、プロダクションの皆さんも、この慣習には非常に苦労されている点だと思います。


■短納期進行のデメリット

AGの皆さんがスケジュールに関して、CLへ強く言えない事情も理解しています。特に、CLによっては戦略上、オリエンが直近にならざるを得ない事情があったり、過去の制作実績など、ケースバイケースなので、一概にこうするべきという解がないのも悩ましいところです。

ここでは、プロダクション目線で、実際に短納期におけるデメリットの例を挙げてみます。

例えば、演出コンテ決定から撮影までの期間が1週間しかないとします。

その期間、スタッフ打合せを行い、美術プランを上げてもらう。
当然、プロダクションから大体の予算は伝えて発注はしますが、美術費が見積もりとしてでてくるのが、撮影の3日前とかになります。

もし、この見積額が大幅に超えていた場合、演出プランの変更や、場合によってはAG・CLに対しても説明する必要があります。

しかし、その時間が無い。撮影日も間近に迫っている。
そうなると、この見積額でやるしかない
結果、プロダクションが赤字になるという例が何度もありました。

つまり、進行していく上で、費用面と内容の折り合いがつかないケースの場合、企画や演出に戻ってプランの変更をするというリードタイムがないことが、コスト面において、プロダクションの大きなリスクになります。

海外では、その部分はCL、AG含め一緒に考えます。
だったら、このカットを削ろうとか、この美術でできる範囲にしようとか、納期をずらそうなど、CLとAGとプロダクション間で、建設的な話し合いがなされます。

ここはパートナーシップという点でも、大きな違いがあります。
「プロダクションが監督をコントロールできていないだけ」という側面も当然あるのですが、ここを一緒になって考えていくというスタンスや意識の違いがあるのだと思います。


■企画段階と演出段階での見積増が許されない

さらにコストの面で追記すると、企画段階で出した見積もり金額から、演出段階で予算が増えるケースはほぼないという点にも触れる必要があります。

当然、CLやAGが考える制作費予算のキャップがあり、その範囲内で企画を考え、演出プランに進みます。

プロデューサーの責務として、与えられた予算の中で最大限のクオリティを上げることが最も大事な役割だと思っています。
ただ、監督からのアイディアで企画が何倍も良くなることもありますし、そこにはエキストラの費用がかかる場合もあります。

進行していく上で、予算が多少超えるけど、このプランならこのようなメリットがある。無理なら範囲内のプランでやる。といった、クオリティとコストに関わる議論がもっとできたらと思うことが多々あります。

スケジュールがないことで、そういう議論ができなかったり、そもそも、演出プランを変更する時間もない場合は、プロダクションにコストリスクが降りかかってきます。なんとかするしかないのです。

問題点をまとめると、

・作業開始時に作業範囲、期日、予算が明確にされないこと(口頭で受注)
・納期逆算による進行によって、修正変更の度に制作期間が短くなり、クオリティやコスト面でのデメリットが生じること(納期遵守が第一)
・進行スケジュールはCLの特性や過去の制作実績から策定されてしまうため、企画ごとによるスケジュールの提案が難しいこと
・演出プランによる費用増が難しく、交渉できる期間がないこと
・根性論で、短納期のスケジュールが成立してしまうこと
・スケジュール変更がコストに跳ね返ることを理解されていないこと

では、これらの問題点を解決するためにどうすればよいのか。

(後編へ続く)
https://note.com/clever_macaw763/n/ndedd478c0387

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