ココが変だよ!? 日本の広告業界 〜スケジュール篇・後編〜

■スケジュールを契約書の代わりにする。

現状、海外のようにSOWを取り交わすことは、すぐには難しいと思います。
大手制作会社で実践しているところもありますが、なかなか広がりません。

契約書文化じゃない日本において、「面倒くさっ!」と思われてしまうデメリットは、AGにとっても、プロダクションにとっても、現段階では大きいと感じます。(もちろん、変わっていかないといけないと思っていますが。)

私は、スケジュールを作成する際、企画コンテと演出コンテにおける、承認デッドラインを明記するようにしています。

スケジュール例

明確にデッドラインを記載することで、 ここまでに決まってないと、納期及びコストが変更になることを、 AGがCLに対して、説明しやすくなります。

KEY proルールにも書きましたが、プロデューサーがスケジュールを作る意味はこういうことです。コストに直結する責任と同時に、CLの特性を踏まえ、高度な知識や経験がないと、正確なスケジュールを引けないからです。

納期や制作費が決まっている以上、スケジュールの遵守は必要不可欠です。
見積もりにも「スケジュール通りの進行が条件」であることを明記します。

つまり、承認スケジュールが守れない場合は、コストか納期が変わることを、 もっとCLに認識してもらいたいと思っています。

その上で、自由な議論や修正を頂く分には、いいものを作る上で、むしろ歓迎されるべきことです。逆に、承認タイミングを超えた後に修正があった場合は、コスト増をCLがわかった上で指示してくるパターンになります。
そこはビジネスとしても正常であると思います。

最近はCLからの修正が、タイミング問わず、かなりフランクになってきたように思います。涙

特に、PPMでの修正は、撮影までのリードタイムを考えても、プロダクションにとっては、相当な負担です。
(PPM=pre production meetingとは、撮影前の最終確認のこと)

そもそもPPMは、提案の場所ではなく、確認の場所です。
限られたスケジュールの中で、衣装やロケ地、香盤など、「こうします」ということを確認していただく場所。自由な議論や修正をするタイミングではありません。

私は、PPMに至るまでの経緯において、CLが気にするポイントは、PPMの前(変更ができるタイミング)に別途プレをすることを提案します。プレPPMと言われるものです。

タグボートの故・岡康道さんが「PPMはプロデューサーのステージ」だと言っていました。まさにその通りで、PPMは、クリエーティブに関わらない物理的な段取り、事前に承認された内容を改めて説明する場です。

「このプランで行きます」という自信と覚悟を、CLが信頼したAGと、そのAGが信頼したプロダクションが伝えているのであって、それはスケジュール逆算の中でベストなプランなのです。

もちろん、修正は一切受け付けません。というつもりはありません。

修正できる部分は当然対応しますが、前提としてスケジュールとコストが絡むこと、PPMに到るまでの承認プロセスの重要性、そして、そもそものPPMの意味を、CLがもっと理解してくれたらと思います。


■企画決定は納品日の80日前までに

実は、2018年にJAAA(日本広告業協会)、JAA(日本アドバタイザーズ協会)、OAC(日本広告制作協会)、JAC(日本アド・コンテンツ制作協会)の4団体で、「企画決定は納品日の11週前(55営業日)までに」という合意がなされました。

これは、過労死問題で広告業界全体が話題になった際、働き方改革の一貫として策定されたものです。上記団体には、主なCL、AG、プロダクションが加盟しており、健全なスケジュールの遵守が、働き方改革の抜本的な部分であることが明記されています。

制作プロセスマネジメントガイドブックより

おそらく、この合意はほぼ知られていないと思います。
明確に11週前=80日前ということが書かれており、改めてこの合意はもっと広めていけたらと思いました。

その他にも、この2018年に発行された制作プロセスマネジメントガイドブックで様々な取り決めがなされています。お暇な時に、ぜひ目を通してもらえると嬉しいです。
https://www.jac-cm.or.jp/wp-content/uploads/2018/10/jac_process_management_handbook_201809.pdf

前述した通り、CLの事情は様々で難しいと思います。
ただ、業界全体で合意されたひとつのベンチマークとして「企画決定は納品日の80日前までに」という認識を、頭の片隅にでもおいてもらえたら嬉しいです。


■修正=追加費用ではない

CLもAGも監督も、実際に進行してみてわかることがあります。
承認したこと、思っていたことから変わることも多々あります。

それがより良い方向に向かう軌道修正もありますし、
承認したことから変わることは、人間なので当たり前だと思います。

でも、ビジネス上では簡単に変更できない=納期内で動いていることを忘れてはいけません。もしそれが担当者の好き嫌いで判断される場合は、より注意が必要です。

これまで、スケジュールとコストの話をしてきましたが、
修正が即追加費用になるという誤解は招かないでください。

お金もスケジュールも無限にあるわけではありません。
タイミング次第ですが、軌道修正する場合、限られた予算のなかで、修正に対応する方法論を生み出すこともプロデューサーの大事なスキルです。

例えば、ここの部分を削って、こちらの修正に対応する。そもそも手法を変える。など、そういうプロデュースの部分で、CLもAGもスタッフも全員が納得して進められる方法を考えることが、プロデューサーとして、なによりも楽しい部分です。

逆に、修正即追加費用という手法は、言い方がアレですが、かっこ悪いと思います苦笑
だれもそこを望んでいないし、弱みにつけ込む感じもあります。

まずは、考える。
その上で、無理な場合・タイミング的にどうしようもない場合は追加費用のお見積もりをすぐに(事前に)提出する。

その費用を見た上で、実際に修正をやるかやらないかの判断をして頂く。
事後でこうなりました。と出すことは絶対にやらないようにしています。
それが、たとえその場で判断して頂かないとといけない場合でも。

そういう意味でも、やはり健全な制作スケジュールの確保は、
クオリティを上げる、コストコントロールという側面でも、
最も改善が必要なポイントだと思います。


■最後に

今回はスケジュールとコストという面での記述が多くなってしまいました。
短納期という部分で、実は一番負担になるのは、AGの方々含め、そこに対応するスタッフの労働時間です。

プロダクション業界に有望な若手が入ってこないという問題提起からこのnoteを書いていますが、このスケジュールの問題は、AGの方々にも同じことが言えるのだと思います。

無茶なスケジュールに対応しなければならないということは、
休日深夜問わず、どうしてもマンパワーが必要になってきます。

例えば、ヘビーなプレゼンが月曜の朝一に設定される。
そうなると、AGもプロダクションも日曜に稼働せざるをえなくなります。
(金曜までに全部終わらせれば良いのでは?という意見もありますが、ギリギリまでアイディアを考える、思いつく可能性があるものですし、、現実的には難しいものです)

せめて、休日明けのプレゼンをやめる
それは、CLの方々にお願いすることかもしれませんし、AGの方に1日だけ遅らせてもらうように一言いってもらう。
それだけでも、意外と労働環境は変わってきます。

いいものを作るために、健全なスケジュールは欠かせません。
無茶なスケジュールに対応することで、家族やプライベートを犠牲にしている人たちがいることを忘れてはいけません。

難しい問題ではあるのですが、ここも、パートナーシップをベースにしていけば、 徐々に改善できる問題だと思います。

またもや長文になってしまいましたが、この問題はCLの意識による部分もかなり大きいので、もし共感頂いた方は是非シェアして頂けると幸いです。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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