ココが変だよ!? 日本の広告業界 〜プロデューサー篇〜

※ココが変だよシリーズは、これで最後です。
今回も日本と海外の違いに触れつつ、プロデューサーにまつわる自分が思っていることをメインに書きました。

■ここは動物園?プロデューサーって個性強すぎ・・・


電通クリエーティブクロス(旧:電通テック)入社当初、会社には異常なほど個性が強いプロデューサーが集まっていました。

ずっとデスクでギターを弾いているだけと思いきや、打合せでは場の空気を一変させるほど鋭い一言を言い放つプロデューサー。

部下に理不尽な要求をするが、異常なほどのホスピタリティでお客さんから愛され、頼りにされるプロデューサー。

言葉遣いは怖いけど、24時間365日、常にどんな時もクイックレスポンスで、信頼を勝ち取っているプロデューサー。

女遊びすることだけを考えていると思いきや、そのコミュ力とマメさで細かいところまで気が付くプロデューサー。

ある種、異常な人しか人気プロデューサーになれないのでは?と思って、「自分には無理だ」と思った記憶があります。

今では、おそらく自分も十分異常だと思われていると思いますが、理由はまわりにこんな先輩がいたせいです笑 
本当に自分は恵まれていたなと実感しています。(本当です)



■日本と海外のプロデューサーの違い


ここからが本題です。

今までのnoteでも触れてきましたが、日本と海外のプロダクションプロデューサーの一番の違いは、広告会社(以下AG)と「対等」であること。
この一言に尽きます。

この差を生み出したのは、今までの日本のプロダクション(プロデューサー)は、発注権をもつAGのクリエーティブディレクター(以下CD)から仕事を貰っているという受発注の文化が影響しています。

必然的に、プロデューサーはCDの顔色を伺いながら仕事を進めていく傾向にあります。誤解を恐れず超極端に言えば、CDへの接待で仕事がもらえたということです。

海外は、あくまで実力と特性とコストで判断します。
前回のnoteでも書きましたが、そもそも発注先がプロデューサーではなくディレクターなので、そうなるのは当然です。

AGが指名したディレクター。そのディレクターが指名するプロデューサー。そのプロデューサーが言うことは、ディレクターを指名したAGが責任を負うので、そもそもプロデューサーとAGが対等になれる環境があります。

日本と海外のプロデューサーの違い


そして、もう一つ大きな違いは、AGにも確固たるプロデューサーがいるということです。

クリエーティブチーム(以下CR)をコントロールするプロデューサーがAGにもいて、そのAGプロデューサーは、プロダクションのプロデューサーと密に連携をとります。

つまり、プロダクションプロデューサーは、通常時はもちろん、なにか問題が起きた時、CRに話すのではなく、最初にAGプロデューサーに話をいれ、CRにはそのAGプロデューサーから話が入ります。

AGのCR、AGのプロデューサー、プロダクションのプロデューサーがワンチームとなって、プロジェクトを進行していきます。


■女性プロデューサーがいなさすぎる問題


もう一つ、海外と日本で大きな違いがあります。
それは、女性のプロデューサーが極端に少ないことです。
特に子持ちの女性Pとなると、数えるほどしかいないと思います。

この問題は自分が入社した二十年前からずっと言われていることですが、 全く改善されていません。

Commercial Producers Council(Linked inより)

写真は、オーストラリアのプロダクション同士の取り組みで、
定期的に業界改善に向けてのミーティングを行なっている様子なのですが、
なんと7割が女性プロデューサーです。

オーストラリアは、フリーランスの女性PMやPが多いという側面もあり、
文化的に遅くまで仕事をすることが少ないというのもあるのですが、
日本では考えられない光景です。

日本でも女性PMはとても多いです。
そして、女性PMの方が優秀な傾向にあります。
なのに、プロデューサーになった途端、急に女性が減ります。

この問題は、各プロダクションの自助努力も大きいと思いますが、
広告プロダクションにおける女性の働き方に関しては、この項で書くには多すぎるので、また追ってnoteに書いていきたいと思います。


■AGにもプロデューサーが必要な理由


2020年、大手AGの営業さんの名称が、アカウントエグゼクティブ(AE)から、ビジネスプロデューサー(BP)に変わりました。
それと同時に、そのAGが提唱したのが「パートナーシップ」です。

実は30年ほど前、「営業局」は「連絡局」という名称でした。
その名の通りクライアント(以下CL)とCRや各部署を繋ぐだけの連絡役。

そこから時代が変わり、繋ぐだけの連絡役ではCLからの指名が得られなくなり、スタッフのアサインから媒体プランの立案など、「営業力」が必要になってきました。

営業はAGの花形であり、AGにとって最も大事なポジションになりました。

そして2年前、その花形である営業局がなくなり、「ビジネスプロデュース局」という名称に変化したことは、グローバル化と同時に、「プロデューサー」という言葉が持つ力が、これからのAGにとって、CLとパートナーになるために必要なコトだと決断したのだと思います。

いままで慣習上、CRの言いなりになりがちなプロダクションのプロデューサーという立場と、CLの言いなりになりがちな営業さんが、同じ「プロデューサー」という肩書を背負う。

この名称変更をきっかけに、私たちプロダクションもAGと、よりパートナーになれる環境が整えばいいなと思います。


■パートナーシップに必要なこと


CLとAGとプロダクション。
3者がお互いにパートナーシップを大切にすることは、これからの広告業界にとって必要不可欠であることは間違いありません。

プロデューサーが持つべき、パートナーシップに必要なコトを4つ書いてみました。(あくまで自論です!)

① 負けるが勝ちの精神

プロデューサーはバランサー。結果が全てだと思っています。
そのために必要なことは、常に俯瞰で客観的に。
過程において、たとえ自分たちが損をしたり、怒られたとしても、最終的にクライアントやスタッフが喜んでくれたらいいということに、どれだけ真摯にむきあえるか。

その原点がないと到底ワンチームになれるわけないと思っています。
長い目でみれば、その積み重ねこそが、様々なところで得を生み出してくれます。 自分はここまでそれだけで生きてきたので笑


② 誠実さとリスペクトを忘れない

大抵ウソはバレるし、一発で相手の信頼を失います。怒られるコトほど正直に。 一発のミスで離れてしまうような相手なら、正直その人とはパートナーにはなれないなとも思います。

そして、パートナーシップで一番大切なのはお互いのリスペクト。
そのためには、相手の立場に立つこと。
ただ、相手の立場に立って物事を考えることは、知識と経験が必要です。

なので、その知識や経験がない人には、それができなくて当たり前。
ミスを許せる。フォローする。そして、それを口頭で伝えることを心がけています。


③ 正論を伝え続ける。

正論vs理不尽。
広告業界では、この図式が様々なところで起こっています。
そして大体、理不尽が勝ちます。

理不尽が罷り通るのは、受発注の上下関係が根強く残る広告業界の悪しき慣習。 正論をいう側の足元をみているからです。(それだけではないですが) でも、広告という性質上、止むを得ないことがほとんどです。

理不尽は受けいれる。だけど、正論は絶対に伝える。

このままだと、理不尽が理不尽ではないと勘違いする人がでてくる。そういうものだと。 そんな中、正論はその人にとって学びや教育になる。

「この人はダメだから理不尽をつきつけてくる」なのか
「この人がいうのだから、この理不尽は、本当にどうしようもないことだな」なのか。

この違いは非常に大きく、後者こそがパートナーシップの最たるもの。
まずは正論を理解できていることが大前提で、お互いのパートナーシップが強固かどうか。プロとプロをつなぐプロが、プロデューサーだとしたら、この信頼関係が理想型だと思っています。

④ 役割をはっきりさせる=責任の所在を明確にする

CLと対峙するのがAGの役割。
監督やスタッフと対峙するのがプロダクションの役割。

プロデューサーの役目は、与えられた条件の中で最高の仕事をすることです。 よく聞く、「ディレクターをコントロールできずに制作費が増えてしまいました・・」 と自分は絶対に言いません。

そこはプロデューサーの責任です。
実際に増えてしまうこともありますが、それは請求しません。

逆に、クライアントやキャストのコントロールができずに制作費が増えてしまう場合は、しっかりと追加見積もりを出します。(もちろん、即追加とはしません。)

それが対等であり、お互いの仕事の責任。
責任の所在をはっきりさせることは、お互いの仕事をリスペクトしているからこそ。

最近多いのは、後出しで条件を与えられることです。
それは、ルール違反。
リスペクトとパートナーシップが著しく欠けている証拠だと思います。


■営業さんへ教育する立場に。


以前のnote「KEY proルール〜対広告会社〜」の中で、
「プロデューサーはAGの営業さんへ教育する立場に」と書きました。

こう書くと、めちゃくちゃ偉そうに聞こえてしまうのですが、それと同時に「営業さんの味方になる」ということでもあります。
これは本当に大事だと思っています。

私は、横のつながりで各プロダクションのプロデューサーと話すことがよくあるのですが、 営業さんのスキル幅が非常に大きいとよく聞きます。そして、そのせいでプロダクションが困窮しているということも。

別に営業さんが悪いわけではなく、そもそも、やり方がわからない営業さんが多すぎます。 それは、教える人がいないからという単純なこともあるのですが、それを教えるのもプロデューサーの役割。

そして、CLと一番近い営業さんに寄り添うのは、CLに対しての教育も担えるからです。
これからの広告業界のキーになるのは、間違いなくAGの営業さん=ビジネスプロデューサーです。

前述した、「正論を伝える」は、必ず論理的に説明できるものであり、それはCLに対して営業さんに武器を持たせるということでもあります。

営業さんを敵でなく、おなじパートナーとして、寄り添うことがプロデューサーにとって、非常に大事なことだと思います。


■おわりに 〜プロデューサーは個人商店〜


近年、大手プロダクションから独立して、フリーのプロデューサーになる方が増えてきました。動機は様々だと思いますが、個人的には、もっとフリーランスのプロデューサーが増えてもいいと思っています。

なぜなら、プロデューサーは本来、その人そのもののプロデュースに期待されているのであって、会社がどこかという部分は、発注側にとってはあまり重要視されないからです。 (もちろん、グループ内製化や、効率性という部分で全く意味がないわけではありませんが)

逆に言えば、プロデューサーは、
その人にお願いしている=代えがきかない職種です。

寿司屋に例えると、あの大将が握った寿司が食べたいのに、弟子が握った寿司だとがっかりする。それくらい、仕事を受注するということはとても難しく貴重なことです。

ただ、プロデューサーが独立できる風潮になってきていることは、よりプロデューサーの価値が上がってきたという証拠にもなります。

このnoteを書いているきっかけは、プロダクションに有望な若手が入ってきてほしい。業界が活性化してほしいという気持ちです。
なので、いまCMプロデューサーがちゃんと夢がある職種になることはその一助になると思っています。

私は、フリーという選択肢ではなく、プロダクションを作るという選択肢を選びましたが、 その理由は、月1で書いているこのnoteの最後に書こうと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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