胡瓜畑攻防戦 6

「へえー河童ねぇ、、」

重なった後の気怠い身体を起こして、女はキセルに煙草な葉を詰めた。
明かりの火に突っ込み紫炎を燻らせる。

「あんたの話を聞く限りじゃあ、そいつは斬るなんて
 もんじゃなさそうね。」

「お前さんも、そう言うかい?」

「鉄が曲がるんだろう?」

「うむ。」

「身体がヌメってるなら、刃は滑るからねぇ。」

「やはり、そう思うか。」

「その河童さあ。あの流れ星に関わりがあるんだろう
 ?」

「と、、思っている。」

「だったら、斬るのは河童じゃないね。」

女はまた紫炎を吐き出した。

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江戸を広げていこうと始めた中、
ある夜に流れ星が流れた。

青い夜を切り裂いたのは赤い欠片たちだった。
悲鳴の様な音が流れた。

多くには知られなかったのはまだ江戸に人がまばらで、力仕事に精を出す者たちは眠りの中に居たからである。

その星の行く先を捜す者も居たが見つからなかった。

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「本当に江戸に現れるとはな、、」

「深刻な顔だねぇ。」

「物の怪だ。普通の相手じゃない。」

「普通ね、、普通って何かねぇ。」

「謎掛けか?」

「あんたがあたしに聞かせた話なら、斬るのは河童じ
 ゃない。違うかい?」

「ん?確かに、、だが皆同じものなのか、、」

「どっちにしろ、河童だけで好きに暴れさせるのは違
 うだろ?傍に見てる奴は居るんじゃないのかい。」

「確かに。鉄斎が言っているのは、そういう事か。」

「だねえ。一人や二人で江戸を守れるなんて、思い上
 がりだよ。」

「だか、市井の者たちを巻き込んで良いものか。」

「別に巻き込まれてる訳じゃないだろ?自分の畑に河
 童が来るから追っ払おうってだけさね。」

「、、、、、」

「生きてる人はね、皆んな生きる為に必死なんだ。あ
 んたみたいに刀振り回すのだけが戦さじゃない。生
 きるって事自体が戦さなんだよ。」

「そうか。生きるとは戦さか。
 守りたいものを守るのは戦さか。
 そうであろうな。」

「だからさ、その人らが死なない様にする。最善の手
 を捻り出すのが、あんただろ!」

女の手が男の背を叩いた。
裸の肌がパシン!と鳴った。

「手を貸してもらうかもしれん。」

「いいよ。なら、もう一回だね。」

女はそう言って脚を開いた。

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ポチャん!と川に石が落ちた。

「良し!こっからもっかいやってみるか!」

中山鉄斎が勇也の下に付く人足たちに手を貸してもらっていた。

そこには奇妙な大八車がある。

荷台に棒が付けられている。
その棒が前後に動き石を投げている。

「感じが大事だ。どうしたら、どれくらい飛ぶか!
 そいつを調べなきゃなあー!」

「おっし!頭の仇討ちだあ!」

「そうだ、そうだ!こいつが上手くいきゃあ、河童を
 追っ払えるぜ。」

「鉄っあん、ホントかよ!?」

「おうよ!俺ぁよ御武家様の屋敷で調べてきたんだ。
 いいか河童はな、頭の皿を割ればやっつけられるん
 だ!」

「皿かあ!頭の上ときやがったかあ!」

「だからこいつで、こうポーンと石を飛ばして皿の上に
 落として割るって寸法よ!」

「頭いいなあー鉄っあんわあ!」

何とも和気藹々とした呑気な様子である。
ただ鉄斎の目だけは笑ってはいなかった。


つづく
https://note.com/clever_hyssop818/n/n704a3cbac2ca

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