天空凧揚げ合戦 6

「なあ、お雪さん。あんた、どうやって仇を討つつも
 りなんだい?」

「どうって、、何だってやってだよ。天狗を殺せるな
 ら何だってやる。」

「、、殺すかぁ。人の格好をしてるもんを殺すと、胸
 の辺りにしこりが出来るぜぇ。」

雪は身体をピクリとさせた。
だが、、、それでも天狗は許せない。
雪は拳に力を込めて中山鉄斎を睨みつけた。

「なあ、あんた刀や槍が使えるのかい?それとも喧嘩
 が滅法強ぇとかよ。」

「あたしは足に自信があるだけだ。それだけが取り柄
 だ、、、」

「なら、天狗を蹴り殺すかい?」

雪はじっと下を見た。
自分の足を見た。
大地を蹴り自分の身体を跳ばす足を。

さて、この足で天狗を蹴り殺せるか?
足の力には自信はある。しかし女の身だ。
身体が軽いからこそ、この力を十二分に発揮出来る。

これを天狗に向けたなら、この身の軽さが仇になるだろう。やはり刃物を使うしかないんだ。

「ここは刃物もあるんだろう?勇也からはそう聞いた
 んだけど。」

「ああ、あるよ。」

「あたしにひとつ貸してほしい。」

「あれ? 刃物、使えたのかい?」

雪は苛りとした。

「堂々巡りじゃあないか!あんたは、あたしに天狗退
 治を辞めさせたいのかい!

 冗談じゃない!冗談じゃないんだよ!」

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渾身の叫びを上げた。
何だよ!助けてくれるんじゃないのかよ!
ふざけるな!あたしの気持ちを馬鹿にするな!
雪はそう吠えたつもりだった。精一杯。

だが鉄斎は怯みもしなかった。
それよりか、ゆっくりと雪に近付いて来た。
そして雪の顔を覗き込む様にした。
そこには、獲物を射抜く鋭い目があった。
全身から湧き上がる得体の知れないものがあった。

「いや!やってもらうぜ!
 どうしても、あんたの足が入り用なんだぜ。

 あんたのその速い足で、天狗の野郎を空から落とす
 んだぜ。

 ただな、、」

雪は鉄斎の迫力に、ごくりと唾を飲んだ。
殺されるんじゃないか?と思っていた。

武器を扱う男、武器も作る鍛冶屋。
先程まではのらりくらりと話していた男は、物の怪狩りをした男だった。

そんな男もまた、身の内に鬼を飼っているのかもしれない。

こういう殺気と狂気を隠していなければ、天狗は殺せないのか!?あたしには出来ないって言うのかよ!

雪は自然と泣きそうになっていた。
悲しいから?
怖いから?
悔しいから?
そんな単一な気持ちでは無い。
何やら訳の分からない気持ちが、身体の何処からか作り出され、溢れる様に止まらない。

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「鉄っあんは、その手を汚ねぇ天狗の血で汚さなくて
 もいいんじゃねぇかって。
 そう言ってるんだよ、お雪ちゃん。」

そんなヒリついた場に、勇也が入ってきた。
鉄斎の家はほとんどが作業場だ。
飯を作る場所も無い程だ。

「勇也、、でも、、

 仇はあたしが、、取らなきゃ、、

 兄貴が、、おっとうやおっかあが、、」

雪は入ってきた勇也に顔を向けた。
その顔が真っ赤になっている。
泣いている訳でもない。
怒っている訳でもない。
息が整っていない。
切れ切れに、振り絞る様に言葉を吐き出している。

「水、飲みなよ。」

勇也は竹筒を差し出した。
雪はひったくる様に奪い、一気にゴクゴクと飲んだ。

「腹が減ってるから、いけねぇんだよ。
 美代の握り飯、皆んなで食おうぜえ。
 同じ釜の飯を食えば、気心も知れるってもんさね!

 なあ、鉄っあん。」

「へっ!確かになあ。
 ちょうど腹も減ってたトコだ。

 なあ、勇さん。」

鉄斎はいつもの調子で軽く笑った。


つづく
https://note.com/clever_hyssop818/n/n4c7d6cb78c8e



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