胡瓜畑攻防戦 9

「はへえー!?」

「だ、誰だあ!あんたぁ!?」

「危ねえよぉー!河童は力が強いんだよぉー!」

「だから!手伝え!呑気にするな!」

「あっ!」

「そうだ、そうだ!」

「助けてもらったみてぇだしな!」

勇也の手下たちは、やっと黒づくめの男の元に来た。

「いいか!河童の腕は弱点でもある!
 皆で一斉に引き絞れ!」

「引くって、こんな細い紐をどうやんだあ!?」

「後ろの木に紐の端が巻いてある!それを皆で引き絞
 るんだ!」

「あっ。ホントだあ!」

「分かったぜぇい!」

人足たちが紐に駆け寄っていく。

「持ったかあ!?」

「持ったあ!」

「皆で俺の方へ紐を持って走れ!」

「へぇーい!」

当の河童は己の腕に巻き付いた紐を不思議そうに見ていた。意外と気に入ったのかもしれない?

「クエエェー!」

そんな風に一声鳴いた河童の身体が急に僅かによろめいた。

この河童は力士並みの身体をしている。
よろめきはしたが踏み止まる。
だがその右腕だけは、ピンと伸びている。

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「勇さん、出番だぜ。」

「ありゃあ、何だ!?」

「河童の腕は一本に繋がってんだとよ。
 それに水から出ると力が弱わまるらしい。
 だから胡瓜で身体に水を入れてやがるに違いね。」

「陸へ上がってる間は胡瓜五本分の水で動いてんのか
 い!?スゲな河童!」

「感心してる場合かい?今あの旦那が河童の腕を抜い
 てくれる。そこが勝負だぜ、勇さん!」

「おうよ!行ってくらあ!
 うおおおー!!」

お美代の家から見ていた勇也が走り出した。
河童に隙がある。今ならやれる。

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「まだだ!もっと引けい!」

「うおおー!」

ガゴンと音がした。
河童の右腕が全部外へ出た。
代わりに左腕が手首しか外へ出ていない。

「良いぞ!後一息だ!」

「何だありゃあー!」

「面白ぇーなあ、抜けるんじゃねぇか!?」

「おし!抜いてやらあ!」

「皆、引けい!」

「おおおうーーーーー!」

皆の掛け声がひとつになる。
木に周った紐がキリリと鳴る。
そこに勇也の声にならない唸りが混じる。

「おおおうー!」
「うおおおー!」
「キュウぅー!」

そこに河童の鋭い奇声が加わり
河童の腕が抜けた。

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「ええっー腕抜けるのぉ!?」

そんな様子を離れた木の上から見ていた小絹が驚いた。

「何よ、何でよぉ!これは近くに行かなきゃダメよね
 えーもう!バカあ!」

若い甲賀忍びである小絹は一気に木から飛び降りた。
それから風の如く駆け出した。

その様を見つめる目が闇世には潜んでいた。

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「やったぜ!後は皿を割ればぁ!」

勇也は己の足に更に力を込めた。
今なら腕で払われたりしねぇ。
そう。もう簡単に済む話だ。
それが勇也の気持ちに隙を生んだ。

「勇也あ。」

「何だ、お美代ちゃん、来ちまったのかい?」

「だって鉄斎さん、あたし心配で、、」

「へっ、お熱いねえ。だが大丈夫よ!
 もう仕舞いだ。後は頭の皿を割るだけよ。」

「ホント、終わるのね。」

「ああ。もう何も出来ねぇよ。
 河童にゃあ、もう手がねぇやな。」

その言葉に美代も安心した。
ここ数日苛まれたこの騒動ともお別れの筈だった。
走る勇也の背中を見守った。

そんな二人の目に不意にドスンと尻餅をつく勇也の姿が映った。


つづく
https://note.com/clever_hyssop818/n/naf68529f560f

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