胡瓜畑攻防戦 8

「今だ!」

水を跳ね上げる音がした方に大八車を向ける。
皿の付いた棒を一気に引いて皿に石を載せる。
それを確認して脇の紐を引くと、水辺に上がってこようとする河童の近くに水飛沫が上がった。

「外れたあー!」

それでも河童は少し戸惑った風に見えた。
気は持ちようである。

「どんどん行くぜ!」

「おう!」

別の大八車に石が大量に載っている。

「上がってくんなあー!」

腕に自慢の奴は直接、石を掴んで投げつけていた。
皆、勇也の手下たち十人ばかりだ。
力仕事をする連中は義理堅い。
それに仲間思いだ。
怪我や命を失くす危険がある中、絆は生まれる。

「クェエぇ〜!」

そんな河童の鳴き声がしたが、どこかまだ弱々しい。
やるなら今だ!

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「あいつらぁ、よぉ。危ねぇってのに。」

勇也はそんな仲間の姿に胸が詰まる気がした。

「だから投石機にしたんだ。河童の動きはまだノロい
 んだ、何かあっても逃げられる。」

「そうか、そうだよな。」

「どの道、あれは当たりゃあしねぇ。
 あくまで陽動よ。決めは勇さんが鉄の棒で
 河童の皿を割って着ける。」

勇也は鉄斎が直してくれた棒を見た。

「でもよぉ、全く効き目無かったんだぜ?」

「いいかい、勇さん。
 河童ってのは鉄が嫌いらしい。
 だから勇さんを跳ね飛ばしたんだ。
 あっちいけ!ってな。」

「そうなのか!」

「身体は硬ぇが、皿は皿だ。
 あれをぶっ倒すにゃあ、皿を割って水を盗るしか
 ねえんだ。」

「分かったぜ、、でもよお。」

「何だい?」

「河童に辿り着く前に、俺が石に当たりゃあしねぇか
 い?」

「おっ!いいトコに気付いたねえ。」

「おいよぉー鉄っあん。」

「まあまあ、待てよ。機会がくるからよお。」

「機会、、、?」

「それより、今の内に握り飯食っとけよ。
 そいつが勇さんを護ってくれる筈よ。」

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「うわあー当たらねぇーなあ!」

「畜生!ゆっくりだけど、こっち来やがる!」

「車、引け!詰められたら困る!」

勇也の手下たちも必死だ。
頭の為にも、明日の仕事、金の為にも河童は邪魔だ。
仕事終わりに冷やし胡瓜もうどんも食えなくなる。
女だって抱きに行けない。

そんなもん、何で生きてるって言えるんだ!
だから皆んなして、河童の皿を割る!

意気込みはお見事!
だが、そこはやはり職人であり人足。
投石はただでさえ狙って当てるのは難しい。
石は空を斬るが、河童の身体にさえ当たらない。

だけど、、誰も諦めない!
当たる!当ててやる!と信じて疑ってはいない。

車を引き、また石を放つ。
皿に石を載せる間も、仲間が石を投げる。
何度も何度も。

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河童は近付きながら胡瓜を一本、長い舌を伸ばして嘴に挟んだ。

その緑の体表のヌメりが、鉢に水を入れた様にゆらりとさざめいた。

「あー胡瓜食いやがったあー!」

「おい、ヤベぇんじゃなかったか、胡瓜?」

「あーあーどうしよう、どうするよお?」

河童の動きが僅かに早まる。

人足たちは始めて顔に恐怖を張り付けた。
しくじった!
皆がそう思った。

その時だ。
ヒュルルっと何かが空を斬る音が響いた。

河童の目が自らの右腕に向けられる。

「お前たちは良くやってくれた。
 今度はこっちだ。この綱を引くんだ!」

不意に現れた男は、黒づくめで目だけが見えていた。
そしてその手に握られた黒い紐は、河童の右腕に巻き付いている。


つづく
https://note.com/clever_hyssop818/n/n903605c3fe02

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