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もうひとつの童話の世界、11 邪鬼とあまのじゃく1/3

邪鬼とあまのじゃく 1/3

 今日はなくなったおばあちゃんの月命日。
 ちかくの伝往寺のおしょうさんが、お経をあげにやってきた。
 ママがあいさつしているあいだ、ぼくはおくのソファーでマンガをみてた。
 十五分ぐらいしてお経がおわると、ママがお茶をはこんだ。
 そのとき、ぼくはみてしまった。
 おしょうさんの法衣の袂から、五センチぐらいのへんな生きものがでてきた。
 ママはきづかずにおしょうさんと話してる。
 そいつは、こそこそとおくのへやにはいってきて、ぼくをみつけるとニタッとわらった。
「おれは邪鬼や、よろしくな。」
 ぼくはびっくり、小さなサルのような、小鬼のような、みたことのない生きもの。
 かってにぼくのへやがある二階へ、とことことあがっていった。
 ぼくは、あわてておしょうさんにたずねた。
「おしょうさん、邪鬼ってなんや?
 いまおしょうさんの袂からでてきて、二階へあがっていった。」
「はてな?いま、邪鬼っていったか?」
 おしょうさんは、ふしぎそうにぼくをみてる。
「ボンはなん年生や。よう邪鬼ということばをしってるな。」
「小学校の一年生。
 あいつじぶんでおれは邪鬼や、とあいさつしたんや。」
「そうか、なるほどな。
 邪鬼はなあ、仏のせかいでは、どうしようもないいたずらこぞうや。」
「にんげんやないんか?」
「いいや、小鬼みたいで、小ザルみたいで、子どもみたいや。
 そやからほかにも、むじゃきとか、あまのじゃくとかいうことばもあるやろ。」
 するとママが、口をはさんできた。
「うちの子も、あまのじゃくでしてね。
 やって というたら、やれへんし。
 やったらあかん いうたら、やってしまうし。
 ほんとおやのいうことをきかんあまのじゃくな子ですわ。
 ホホホ。」と、わらった。
 おしょうさんもニコニコしながら
「いやいや、うちの寺もそうとう古いですからなあ。
 邪鬼の一匹や二匹はいてますなあ。
 まあそれがわしの法衣にはいっていても、ふしぎではないですなあ。
 ハハハ。」と、わらって帰っていった。
 こまったのはぼくだ。
 ぼくは、おそるおそる二階へあがっていった。
 すると邪鬼は、ぼくの机のうえでゴソゴソうごきまわりながら、
 なんかさがしてる。
「なにしてるんや?」
 邪鬼はふりむくと、
「おまえは、おれがみえるんか?
 おれのなかまでないと、みえへんはずや。
 ということは、おまえは、むじゃきか、あまのじゃくか、どっちや?」
 ぼくは、邪鬼にまけたらアカンとおもっていってやった。
「ぼくは、あまのじゃくや。」
「あまのじゃくか、そらええわ、いっしょにわるさできるな。」
 それいらい、邪鬼はぼくに、ずっとまとわりついている。
 ランドセルにはいって、学校にまでついてくる。
 ぼくをそそのかして、友達の悪口をいわせようとする。
 しかしぼくはあまのじゃくや。
 いわれると反対のことをやりたくなる。
 だからぎゃくに友達をほめてやった。そしたら先生にほめられた。なんかおかしな気分や。  
 ぼくが、学校からの帰りみちで財布をひろったときも、
 邪鬼は、財布のなかにはいっているお金をつかえといってきた。
 ぼくはめいれいされるとはらがたつ。
 だから、つかわずに交番にとどけてやった。
 そしたら交番のおまわりさんにほめられた。 
 邪鬼はおこってた。
「なんでおれのいうことをきかんのや。」
 ぼくはいってやった。
「ぼくはあまのじゃくやで、いうことなんかきかへんのや。」
 すると邪鬼は、こまった顔をして、
「そりゃあそうやけど、おれのいうことをきかんと、
おまえはどんどんいい子(こ)になるやないか。」
 ぼくはいってやった。
「ぼくはべつにきにしてへん。
 他人にいわれると、はんたいのことをしたくなるだけや。」
 すると邪鬼がいった。
「じゃあな、こんどはママのいいつけをやぶるんや。
 でもやぶれというとまもるやろ。
 そやから、ママのいいつけをまもるんや。」
 邪鬼はやっと、
「ママのいったとおり、さっさと宿題をやってしまえ。」といった。
 ぼくは めちゃくちゃはらがたってきた。
 邪鬼はわざとあんなことをいって、ぼくに宿題をさせんつもりや。      
 それならぼくにもかんがえがあるぞ。
 ぼくは、今日の宿題をかんがえた。
 先生は『いえでなにか一つ、いいことをして、それを明日はっぴょうしてもらいます。』と、いった。
 だから邪鬼にいってやった。
「邪鬼がかわりにやってくれたら、ぼくはあまのじゃくやからやらへんで。」
「なにをやらへんのや?」
「ママが帰ってくるまでに、邪鬼がいえのかたづけをするなら、ぼくはなんにもやれへんで。」
 するとどうだ、邪鬼はいえのなかをかたづけだした。
 ぼくはおもしろくなってまたいってやっった。
「ぼくは、そんなママにほめられることはぜったいやらへんで。」
 すると邪鬼は、ますますねっしんにかたづけだした。
 ぼくは、ねころがってマンガの本をみてた。
 ママが帰ってくると、
「あらまあ、ミノルありがとう。ママたすかるわ。
 よーし、こんやはミノルのすきなハンバーグをつくるわね。」
 それをきいてぼくは邪鬼に片眼をつぶっていってやった。
「どうや、あまのじゃくっていいもんやろ。」
 邪鬼は、どうもじぶんのいうことがうまくいかないものだから、
ニガ虫をかみつぶしていた。
                       つづく

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