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ブーメランは今日も飛ぶ

21日付読売新聞の『本』のコーナーで、住友生命保険の特別顧問だという佐藤義雄氏なる人物が、リー・マッキンタイア著『エビデンスを嫌う人たち』という一冊を紹介・推薦しています。

ところが、この紹介記事といい、当の書籍自体も、とびきり巨大なブーメランと化してしまっているのです。

著者のマッキンタイア氏は、ネットで調べた経歴では、ボストン大学で科学哲学・科学史を研究されているそうです(私の学んでいる分野と多少重なっているのかな)。

さて、どういう理由かはわかりませんが、ワクチンに懐疑的な人を「反ワク」とレッテル貼りしたがる人間は、「反ワク=地球平面主義者(フラットアーサー)」だと思い込んでいるようです。どの記事を見ても、絶対と言っていいほど両者を同一視しています。

……あのぉ、私、全面的にワクチンに反対しているのではなく、(遺伝子学に基づいて)「mRNAワクチンという手法が危険だ」と言っているのであって、ましてや「地球は平面である」なんて、これっぽっちも考えていないんですけど。
何で、両者がイコールで結ばれちゃうのか、さっぱり理解できません。
「反ワクはバカだ」と読者に思わせるための「印象操作」も甚だしい。

地球が球体であることは、「下りエスカレーター」と「動く歩道」に置き換えてみれば、簡単に理解できます。
地球が平面なら、あなたのいる場所から遠ざかっていく人間は、ちょうど動く歩道に乗っているのと同じで、後ろ姿の全身がだんだん小さくなっていき、最後は点になって、見えなくなるはずです。
でも、地球が球体であるなら、遠ざかる人物は下りエスカレーターに乗っているように、足元から徐々に地平線に隠れていき、最後に頭が見えなくなって、姿を消すでしょう。

昔々だって、港町の高台や塔の上から出港する帆船を見送る人々は、遠ざかる船が下部から水平線に隠れていき、最後に高いマストが沈むように姿を消すのをよく知っていました。
なので、経験的に「地表が球面である」ことを知っていました。

「無知な人々が地球を平面だと信じていた」と一般的には思われているようですが、むしろ「平面説」を広めたのは、当時の学者や知識人だったのです。
なぜなら、まだ「重力」という物理法則が見つかっていなかったので、「もし地球が球体なら、裏側にいる人間は大地から落っこちてしまう(どこに???)」と考えたからで、そのパラドクスを解消するには、「地球は平面である」と考えざるを得なかったからです。

いかにも現場を知らない人間が机の上で考えそうなことですね。なまじ知恵があったがゆえに、「策士策に溺れる」に陥ってしまったということ。
そうした知識人は、自分は賢いという思い上がりの塊なので、「いんやセンセ、海さぁはまーるいだんべ」という市井の人々を、無知な田舎者とあざけり、罵倒し、とうとう口を閉ざさせてしまいました(現在もそっくりの状況ですね)。

言い換えれば、現在のフラットアーサーを生み出した元凶こそ、ひと昔前の「専門家」だったということです。


翻って、ワクチンについて考えてみましょう。

確かに、とにかくワクチンと名がつくものなら何でもかんでもノーという「原理主義者」も存在します。
ですが、現在ワクチンに懐疑的だったり反対している人の多くは、きちんと「ワクチンと免疫」について勉強した者だったり、数回の接種で自身や家族・知人に現実的な被害が生じている人たちです。
上記の例でいけば、「地球が丸いことを経験的に知っている人々」なのです。

逆に、「ワクチンは絶対安全」と推奨している「専門家」こそ、つじつま合わせのために「地球平面説」を唱えたかつての知識人と同レベル。
連中は自説を補強するために、やたらとエビデンス、エビデンスと叫ぶわけですが、その「エビデンス」なるものは、単に都合のいい「データの切り取り」にすぎず、それを支えるロジックが完全に欠落しています。
ただ「こういうデータがある」と(得意げに)言うだけで、「なぜそうなるのか?」の合理的説明が一切ないのです。
なので、自説に反対する「エビデンス」がいくらあっても徹頭徹尾、無視するわけです。

本のタイトルである「エビデンスを嫌う人たち」と同じくらい、あるいはそれ以上にヤバいのは、そうした「エビデンスを妄信する輩」でしょう。

書評を書いている佐藤氏は、

「(以下引用)トランプ前大統領でさえいつのまにかマスクをしていたように、彼らの考えも変わる可能性があるのです。」

と述べていますが、マスクにまったく感染予防(自分がかからない、他人にもうつさない)効果がないことは、あまたの「エビデンス」ではっきり証明されていて、その物理的な論理も確立されています。それを佐藤氏はご存じない様子。

あるいは、ご自身が「狂信的マスク信者」であるがゆえに、認知的不協和(←こんな心理効果もきっとご存じない)をもたらす「正しい情報」には固く目をつぶり、耳を塞いでいるのでしょう。

佐藤氏が科学を勉強したことがないのは、ほぼ間違いないようです。自分の知らない分野・苦手は分野は「専門家」と名のつく「権威」の言うことをすぐ鵜呑みにしてしまう姿勢が、まさにそう。
とはいえ、「天下の住友生命」の特別顧問の肩書を見れば、「自分で何かを学ぶのではなく、専門的に学んだ<駒>をうまく配置・活用する」中間管理職としての優れた才能をお持ちなのでしょう。
この手の人間が足をすくわれるのは、当てにしていた<駒>が実際は何の役にも立たなかったとき。飛車・角行だと思ったら、ただの歩だったときです。

なので、人の上に立つ者は、相当幅広い分野の基礎知識くらいは持っていないとダメなのです。


何度も言うように、科学の本質は

疑うこと

それに尽きます。

前述の引用部分でも、言外に「私は絶対正しい。それに反するトランプはバカだ。でも、バカにも易しく話をすればわかってもらえる場合もある」という「マウント感」が、ドバドバにじみ出しています。
なら、逆に問いますが、あなたが自分を絶対正しいと確信できる(マスクで感染を防げるとする)根拠は何ですか?
つまるところ、「その道の専門家がそう言っているから」というだけの話でしょう。


どれほど権威が備わっていても、たとえノーベル賞受賞者であろうとも、決して頭から妄信せず、「本当にそうか? おかしくないか?」と問いかけ続けるのが「本当の科学」です。

マッキンタイア氏と佐藤氏が批判する「エビデンスを嫌う人々」の正体は、まさに鏡に映った自分たち自身ではないでしょうか。

また、両氏は「反科学の連中は対話に応じようとしない」と指摘されていますが、「(ワクチンに関する)反対意見をことごとく<偽情報>と断じ封殺する言論弾圧」行為、対話を拒否するどころか「無きものとして消し去ろうとする」行為こそが、まさに「反科学」ではないでしょうか。


ほらね、壮大なブーメランでしょ?


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