見出し画像

地下鉄のアリエッティ

地下鉄で乗り換えなんかしていると、目の前を小型のネコくらいの大きさの、灰色の物体が素早く行き過ぎることがありますね。

「あ、ネズ…」

と言うところ、わたしは

「あ、アリエッティだ!」

と言い直すことにしています。

わたしはネズミを含む哺乳類が大抵好きですが、苦手な方もあるだろう、という配慮からです。

せっかく自分の忌み嫌うものに気付かず平穏無事に過ごしていらしたところ、わたくしめの発言で「え、ネズミ…?」と恐怖に慄くことになる事態を避けたいのです。

その存在を認識せずに済んだのなら、是非そのお幸せを享受していただきたい。穏やかな御心の邪魔はしたくありません。

だったらそもそもネズミを見かけても黙殺すればよいのでは、という指摘は御尤もです。

が、何か言わずにはいられないわたしの気持ちも尊重した折衷案ということで、何とかご容赦いただきたい。
(誰に?)

アリエッティは、その「借りぐらし」という生態に加え、体の大きさも肥えたネズミと凡そ一致しているので、代替の呼び方として適当かな、と考えました。

でも、ジブリをこよなく愛していて、かつネズミ嫌いの方への配慮が足りていないのではないかという懸念は否めません。

ふむ。

「あ、ミッキーだ!」

は、いかがでしょう。

ミッキーはそもそもネズミだし、ディズニーをこよなく愛していて、かつネズミ嫌いの人にも「でもミッキーもネズミじゃないですか」という言い訳が立ちそうです。

…いや、しかしながら、ミッキーは同じ哺乳類ネズミ目と言えども地下鉄にいるようなのとは一線を画した存在であり…という反論も聞こえてくるような心持ちがいたします。

ジブリ好きよりディズニー好きの方が、相対的に見て心酔度の深い人が多い感じがするし、なんとなく敵に回したら怖そう、なのはわたしだけでしょうか。

いつのことだったでしょう。

職場でミッキーの「中の人」について同僚と話していたところ、別の同僚から「中の人なんて、いないもん!ミッキーはミッキーだもん!ミッキーは1人だもん!」と半泣き&真顔で責められたことがあります。

彼女に「でもミッキーもネズミじゃないですか」なんて反論したら、悲しみの余り胸が張り裂けてしまうのではないでしょうか。

うん、ミッキーはやめておきましょう。

やはりここは旧来通り「アリエッティ」で通すことにいたします。
ジブリをこよなく愛していて、かつネズミ嫌いの方への配慮が足りていない点については、小声で喋ることで何とか埋めたいと思います。

声を小さく出来るなら、いっそのこと何も言わないのがベストの選択なのでは…という指摘は御尤もですが、わたしは、地下鉄で人間以外の生物を発見した高揚を、気持ちの高ぶりを、どうしても何かの形で表現したいのです。

止められないのです。

そんなわたしの気持ちも加味していただき、どうかご承知おきいただきたく存じます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?