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世間から見て「いい夫」が自分にとって心地いい夫とは限らない

角田光代著『坂の途中の家』を読みました。
木曜日くらいから読み始め、通勤中や仕事の休憩時間に暇さえあれば読むも読み足りず、
土日に家事も碌に執り行わず、ほとんどぶっ通しで読み進めて読了しました。

最愛の娘を殺した母親は、私かもしれない。虐待事件の補充裁判員になった里沙子は、子どもを殺した母親をめぐる証言にふれるうち、いつしか彼女の境遇に自らを重ねていく。社会を震撼させた虐待事件と<家族>であることの光と闇に迫る心理サスペンス。
『坂の途中の家』

角田光代の本はほとんど隈なく読んでいると思うけれど、主要人物2人(被告と裁判員)とも母親、という自分との境遇の違いから、内容にあまり興味を持てずに今まで読んでいませんでした。

でも。
わたしには子どもがいないのに、不思議と主人公の気持ちのざらつきが手にとるように分かるのです。

子育ての辛さは、わたしには分かるとはいえません。
経験していないので、想像することしかできません。

でも、
自分がしでかした失敗について、ちゃんと説明すれば分かることなのに、
周囲に露呈するタイミングが悪かったせいで悪者扱いされて、釈明の機会も与えられず誰にも理解されない悲しみ、とかは分かります。

頭にきて口を聞く気になれずしばらく返事もしないで無視してしまったけど、
しばらく時間が経って振り返ったとき、なんであんなイラついてしまったのか猛省して謝って、
なのにまた同じ状況になったときにまた同じように腹が立ってしまう感じ、とかも分かります。

わたしにもわかる。
経験があると感じる。

角田さんは物事の本質を普遍化することが、とても上手なんだと思います。

なかんずく深く共感したのは、
世話好きなお母さんに守られながら、何かにぶつかったり傷付いたり劣等感を抱いたりすることなく、すくすくと順風満帆に育ったピカピカの男の人に対する違和感です。

姫野 カオルコ著『彼女は頭が悪いから』でも、山内マリコ著『あのこは貴族』でも、彼らに対して既視感を覚えました。
いる。日本には腐るほどこういう輩がいる。
しかも結構な地位を築いていたりする。

ふと、大学生のときに少しだけお付き合いした人を思い出しました。
さらっと、たぶん悪気なく、わたしの自尊心を削ってくる人でした。

なんとなくモヤモヤを引き摺りながら、あのままあの人と結婚などしていたら、もしかしたら主人公の女性のような目に遭っていたかもしれないな…と思うとゾッとします。

世間から見たら「いい夫」が放つ無邪気で健やかな槍でえぐられるのは、
DVや浮気や暴言などの分かりやすい「ダメな夫」よりも厄介かもしれません。

彼らはパッと見いい奴だし、友だちも多かったりする。おまけに仕事も出来て稼いでいたりするので、
一緒にいて何が辛いのか、周囲に伝わりにくいから。
言葉を尽くしてもわかってもらえない可能性が高いから。

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