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 「豆は畑の肉」と言いますが、僕がその言葉に出会ったのは、小学生の頃だったと記憶しております。当時は、
「どこからどう見ても肉じゃない」
 恥ずかしながら、そのように、真正面から、その言葉を捉えておりました。
 それから大分時間が経ち、高校生の頃には、その栄養価が肉に匹敵するくらいに素晴らしいということを、認識するようになりました。中学生の頃は思春期真っ只中で、栄養価、健康なんてものは二の次、もはや違う世界の事柄でしたから、高校生になってようやく、でございました。
 どうして「豆は畑の肉」ということを認識するようになったかと申しますと、いわゆる加齢臭、体臭というものを恐れ始めたからでございます。
 電車等に乗車しておりますと、あらゆる世代の方と近い距離にいることになりますが、当時、たまにではありましたが、
「なるほどこれが加齢臭か」
そのように認識せざるを得ないような、ある種独特な匂いが鼻周りにふわりふわりと漂ってきたことがありました。そのことをきっかけとして、自分の将来の身体からも、遅かれ早かれ、この独特の匂いが発せられるのなら、できるだけ遅い時期にやって来ていただくよう、なにか努力をしなければいけないのだろうと考えるようになりました。
 そうして、ネットで調べてたどり着きましたのが、「お肉ばかり食べていると、体臭がきつくなる」といようなことでございました。それでも、良質なタンパク質が健やかな髪、肌、筋肉、身体の全てを維持しているということを知っておりましたので、
「はて、これは」
 一人唸ってしまいましたが、知識の乏しい頭の中に見つけたのが、「豆は畑の肉」という言葉でございました。そして、お肉と大豆製品を良いバランスで取り入れていけば、いつかやって来る加齢臭、体臭にいくらばかりか対抗できるのではないか、そのような結論に至りました。
 それからというもの、納豆を筆頭に、豆腐、おから、味噌等々を、母へリクエストして、食に取り入れてもらうようになりましたが、頻繁に食すようになりますと、豆への信頼、愛は、日に日に増すばかりでございまして、今では、タンパク質を摂るための第一の食材になっております。僕のへんてこな加齢臭、体臭への恐れから、次第に、お肉はお魚へと取って代わられ、豆、お魚の順に、僕のタンパク質オーダーの一、二位の位置を確保しております。
 動機は少しばかりへんてこかもしれませんが、意識的に食材を選んで食すようになりますと、不思議なもので、どれも慎重かつ丁寧に味わうようになり、それぞれの持ちます素材の味というものを、舌が理解していくようでございます。ですから、味付けは薄味のシンプルなもの、口に入れた瞬間にほんのりと香り、舌がその味付けされたものを感じ取り、数回の咀嚼で、素材の味が舌に届けられるようなものを好むようになりました。
 僕の中では、simple is bestとして、 快く受け入れられております感覚ではございますが、少しばかり極端なようでございまして、少なくない方が、
「もう少し味気が欲しい」
 と、感じるようなものであるようです。simpleと一口に言っても、その中には振れ幅があるようでございまして、僕のものは限りなくゼロに近いということなのでしょう。
 誰か他人の舌をお借りして、一度僕が好む味付けを、食してみたい気がいたします。
 とは言っても、そんなものは永遠に実現しない願望でございますので、今日も今日とてsimpleなものを食したいと思います。そこには当然、豆。

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