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「クリアボイスラボ」第1回・後編:参加者との質疑応答「リソースを持つのは誰か?」

私たちが2015年から毎年開催してきた「Creative Leadership」。職種や組織、地域を超えて、のべ1000名以上もの多種多様な方々に受講していただいています。

私たちは今年から、これまで受講してくださったアラムナイ(同窓生)の方々を応援し、繋ぐ場となる「クリアボイスラボ」を開催することにしました。本イベントでは日本海外問わず、目的を持って人々を巻き込み、活躍している方々をゲストとしてお招きし、それぞれのクリアボイスについてお聞きします。日本社会におけるさまざまな課題を解決するために、デンマークで行われた実践がヒントになればと考えています。

※クリアボイスとは

「クリアボイス」とは、リーダーとして自分はどうありたいのか、 内側から湧き上がってくる想いに向き合い、言語化すること。「迷いなき“クリアな声”」に由来してネーミングされています。クリエイティブリーダーシップのプログラムでは「クリアボイス」を見つけていく過程で、人々が内省を深めながら、自身が背負う「べき論」と「本音」を識別し、例え心地悪くとも「本音」に徹底的に耳を傾け、自分の信念を見つけ、そこから発せられる「クリアボイス」を見つけていきます。

今回は2023年4月に開催された第1回目より、ゲストスピーカーのポール・ナトープ氏による講義をまとめた前編に続き、参加者との質疑応答の様子をまとめた後編をお届けします!

<もくじ>
●世代間の分断がないコミュニティを作るには?
●フィジカルスペース(物理的な空間)を重視している理由
●仕事が忙しい世代を動かすことはできる?
●許可やお金を求めずにスタートさせること
●セッションを通して得られたこと

●世代間の分断がないコミュニティを作るには?
【Dさんからの質問】
私は某県の県議会議員を務めながら、高齢者施設のソーシャルワークも行っています。日本社会は高齢化が進み、私の住む県では30~35%ほどが65歳以上の高齢者です。そこで、高齢化問題に取り組むためのコミュニティを地域で作ろうとすると、高齢世代と子育て世代で持っているテーマが異なり、コミュニティが分断されてしまうことを課題に感じています。分断を避け、インクルーシブ(包括的)なコミュニティを作るためによいアイデアはありませんか?

【ポールからの回答】
私は、必要な繋がりを生み、具体的な解決策を考え、アクションするにはある種の筋肉が必要だと考えています。その筋肉を鍛える場として、地域のコミュニティセンターなど、何らかのプラットフォームが必要です。そこに当事者だけでなく、助けが必要な家族、公的機関や行政機関、かかわりのある企業など、さまざまなステークホルダー(関係者)が集まり、互いのリソースを活用することで筋力を養えると思います。
そのプラットフォームでは、高齢者にとってのウェルビーイングだけを考えるのではなく、当事者の家族にとってもウェルビーイングになるように、ともに考える関係性を作れるとよいでしょう。そこで大切なのは、コミュニティに属すそれらの人々がいかにして共通の概念を持ち、手を取り合って課題に取り組んでいけるのかを考えることです。さらに、それを実践するための方法も同時進行で探っていきます。
そのためには地域でカルチャーを作らないといけないし、地域で理解されるようなリソースを作り出すことも必要ですね。デンマークの社会や家族の在り方と日本のそれとでは異なる部分もあると思いますが、もう少し時間をかければ日本の地域の文脈に落とし込む方法を考えられると思うので、よかったら今度zoomでお話ししましょう。

●フィジカルスペースを重視している理由
【Tさんからの質問】
私は社会生活において、舞台鑑賞が今以上に一般的になるようなプロジェクトを検討しています。そのためにSNSをうまく活用する方法を模索していましたが、ポールさんのお話の中で「行動のためのプラットフォームとして、フィジカルスペース(物理的な空間)とヴァーチャルスペース(仮想的な空間)のうち、現実のフィジカルスペース(物理的な空間)を大切にしている」という内容があり、ハッとしました。ポールさんがあえてフィジカルスペース(物理的な空間)を大切にされている理由と、そこに集まった人々に対してどのようなことを行っているのかを聞かせてください。

【ポールからの回答】
私がフィジカルスペース(物理的な空間)を大切にしているのは、ヴァーチャルよりも互いを信頼し、ケアすることがスムーズにできると感じているからです。信頼しあえていれば、互いに頼り合い、喜んでリソースを共有することができます。
そこでもっとも重要なリソースは、人々が投資する時間です。そこで、時間を持っている人たちが集まれるコワーキングスペースのような場を作ることが大切です。時間があるというとまず学生が挙がりますが、定年退職したばかりの人、現在雇用されていない人、身体に障がいがある人など、社会システムの中にはまらず、苦しんでいる人々の存在も無視できません。できることはあるのに社会から除外されているような人々は、変化を生み出すための重要なリソースを提供してくれると考え、積極的に呼び入れています。
私はその場に参加する人々が「自分ひとりではなく、みんなで運営している」という意識を持てるように働きかけています。そして、人々が見出したアイデアを行動に移すとき、勇気を持てるように支援しているのです。

●仕事が忙しい世代を動かすことはできる?
【Nさんからの質問】
ポールさんのお話を聞いていて、デンマークの人々は自分の仕事以外にも、社会生活に対して何らかの変革を起こそうという気持ち的な余裕があるのかなと思っていました。でも、今のお話を聞いていて、変革を起こそうと実践しているのはやはり時間に余裕がある人達なのだなと腑に落ちた気がします。というのも、私は普段、オルタナティブスクールのスタッフをしているのですが、多くの保護者たちがバリバリ働いている世代なので、学校で行う取り組みに対して積極的ではありません。仕事に忙しい世代に対して、市民活動を促すことは難しいのでしょうか?

【ポールからの回答】
「社会の中でリソースにあふれた人は誰?」と問いかけると、多くが「富を持っている人」と考えます。しかし、そういう人たちはあまりに忙しく、時間が足りないことがほとんどです。本当にフォーカスすべきは、時間のある人達です。
時間のある人々のなかで、学生や子どもたちも大切な存在です。学生たちは時間があり、社会における影響力がまだ少ないからこそ、変化を起こすためのリソースを提供できます。そして、地域のコミュニティを通して、他者とどう繋がり合えるのか、よい市民・隣人とはどういう存在かを学び、成長していくことができるのです。

●許可やお金を求めずにスタートさせること
【Aさんからの感想】
私は海外で新しいソーシャルビジネスを立ち上げています。今日のお話の中で特に感銘を受けたのは「誰かの許可やお金を求めることなく始めること」というルールです。何かを始めるときは、まずは自分の想いを大切にしたほうがいいなと、今の私の活動を続けるためのヒントになりました。

<ポール>
私たちが一貫して大切にしているのは、どの市民も新しいものを生み出せる人たちであるととらえることです。そして彼らの自主性を重んじること。すべての組織やプロジェクトにおいて、誰かの許可やお金を得るよりもまず、参加する人たちの自主性を形作ることで、さまざまな可能性が生まれていくと感じています。

●セッションを通して得られたこと
最後に、ポールとのセッションを通して得られたこと、持ち帰りたいことをレアのメンバーも含めて振り返りました。

【Dさん】
ポールさんの「プラットフォーム・フォー・アクション」の考え方がよくわかる講義でした。ただ、それを通してビジネスの基盤を作るのではなく、どのようにコミュニティのようなものを作っていくかについては、ポールさんの言葉を反芻しながら見直してみたいです。

【Tさん】
これからやっていきたいなと思うプロジェクトはヴァーチャルの場をベースにした構想を練っていたのだが、フィジカルスペースについてもっと考えていきたいです。

【Nさん】
「リソースは富ではなく時間」というのが、今日の大きな学びでした。以前、レアのあやさんとも話していた「学びのゆりかごから墓場まで」という話ともつながっている気がします。「学びながら自己実現していく。他者とつながりながら新しい仕組みを生んでいく。みんなで幸せになっていく」ということが、今日のお話とつながっていて面白かったです。

【Aさん】
今日学んだのは自由を得ること、自主性を作ること、そして社会で誰が時間的リソースを持っているのかについてです。私はこれまで、リソースを持っていない人たちを動かそうとしていたと気づいたので、今後はもっと幅を広げて考えたいです。

【レア】
今日はフィジカルスペースとヴァーチャルスペースのお話を通して、「スペース」という言葉がたくさん出てきました。「Creative Leadership」ではそれに加えて「メンタルスペース」や「エモーショナルスペース」をどうリードしていくかという概念がスキルとして重要しされています。スペースを作るには時間が必要、スペースに参加するのも時間が必要。市民としてどのようにスペースを作り、参画する心の余裕や時間を日本の地域の中でどう醸成していくかについて、考えていきたいと思います。

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★次回の「クリアボイスラボ」は夏の開催を予定しています。お楽しみに!

今回、お話を聞いたポール・ナトープ氏が講師を務めるKAOSPILOTのCreative Leadershipのプログラムは、10月には対面での開催を予定しております。ぜひチェックしてみてください。

Creative Leadershipプログラム開催予定
10月:対面で学ぶコース

★Creative Leadership プログラムの説明会はコチラ

▼運営企業:株式会社Laere
株式会社レアは「人の想い」から始まるプロジェクトを北欧社会をヒントに、引き出し・支援し・実践する。共創型アクションデザインファームです。
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